CROSS TALK 01

恐怖を煽らずに「津波被害」を可視化する。国際PR賞を受賞した防災啓発とは

  • 田中美咲(一般社団法人防災ガール 代表理事)
  • 千田英史(株式会社PR TIMES エクスペリエンスデザイングループ / ディレクター)

DATA:2018.11.21

「恐怖訴求」で防災意識は上がるのか? 既存のアプローチを疑った「発想の転換」とは

「#beORANGE」の活動が本格的にスタートしてからは、千田さんはどんな仕事を?

千田:企画制作、メディアやパートナーとの折衝、そのための体制づくりなど、広報 / PRの領域全般を推進していました。あらかじめ実施が決まっている企画をメンバーと進めるのと同時に、防災という扱いの難しいテーマに対してもっとできることはないかとずっと考えていましたね。

防災ガールの全員が「やるべきタスク」に向かうなか、一度立ち止まってでも、目の前の課題にちゃんと向き合う場をつくる必要があったし、それがぼくの役割だと思いました。

一番苦労したのはどんなことでしたか?

千田:田中さんが以前、「人々は、平穏な日常のなかでは防災に興味を抱かない」と仰っていて、まさにそれを痛感しました。防災の情報として身の回りに溢れているのは、「こんな被害に遭わないよう備えましょう」とか「何年以内に南海トラフ地震が起きる」とか、ほとんどが不安を煽るもの。

これらはもちろん正論で必要な情報なのですが、日常のなかではやはりどこか遠い出来事のように感じてしまう。大規模な地震が発生し、課題が顕在化してはじめて「オレンジフラッグ」の必要性が身にしみて感じられるんです。

#beORANGEのTwitterより

千田:そんなジレンマから脱するアプローチとして、2016年10月に高知県高知市の潮江地区で「未来号外」をつくり、配布しました。「2017年に潮江地区を大津波が襲ったが、オレンジフラッグのおかげで全員が避難できて助かった」という架空のニュースを、「潮江新聞」という名前を冠して打ち出したんです。

なかなか想像しにくい事象をローカライズし、人々にとって身近な「新聞報道」に仕立てることで可視化したかった。なぜなら、地方には依然として新しい情報を受け入れがたい姿勢や、シビックプライド(都市に対する誇りや愛着)があるため、地域外からの提案だと知ると、冷めてしまうと思ったんです。

だからこそ、潮江地区で暮らす方々と対等な立場になる必要がありました。オレンジフラッグの価値を「伝達」ではなく、新聞から「発見」してもらうことで、津波による被害が単なる環境問題ではなく、行動心理の問題であることを認識してもらいたかったんです。

「潮江新聞」

繊細なテーマを、地域にどう伝えるか。さまざまな苦難を乗り越えて得た成果

田中:千田さんからアイデアを聞いて、ぜひやりたいとすぐに思いました。「未来号外」を届けた高知県の潮江地区は、南海トラフ地震が発生したときに高い津波が来ると予測されていて、ご年配の方も多いエリア。新聞という形式をとったのは、そういった地域事情を鑑みてのことです。

千田:当初は、地元の新聞社さんの賛意を得て、一緒に話を進めていたのですが、実在する新聞社が架空の号外を出しては影響が大きいと直前で実現ならず、折衷案だった折り込みチラシでの配布も規定違反扱いに。結果的に民間団体のみなさんと、潮江地区での「オレンジフラッグ」掲出開始時期に合わせ、計1万部を自分たちの手で配布しました。

結果、住民のみなさまのリアクションはさまざまで、「初めて津波避難ビルという名称を知った」とか、「市のハザードマップをチェックした」とかポジティブな声もあれば、「本当に津波があった際、対峙しなければならない地元の気持ちを考えているのか」とお叱りをいただいたり。あとは、事実と混同した小学生がいたとのことで校長室に謝りに行ったりもしましたね。


田中:一方で、未来号外を皮切りに全国でオレンジフラッグの導入事例が増えたという点では、非常に意義がある取り組みだったと思っています。現在私たちが把握しているだけでも、導入いただいた自治体は70市町村。国際PR協会の最優秀賞や、インサイトとイノベーションに基づく優れた業績を評価する「In2 SABREアワード アジア・パシフィック」の受賞にもつながりました。

伝え方を変えれば、社会貢献事業の認知はもっと広がる。環境の変化で二人が得たもの

半年間のレンタル移籍を通じて、お互いに得たもの、学んだことはありましたか?

千田:地域やボランティアの人たちなど、関係者の参加を促すモチベーションづくりや、チームメンバーのマネジメントの仕方など「人を動かす / 巻き込む」方法について、とても多くのことを学びました。

あと、自分の「性質」みたいなものが、レンタル移籍でより色濃くなりました。それは、ベタなことを嫌い、先が読めない「実験」をして自分に勝ちたいという思いです。ぼくはもともと自分に「100点満点」をつけることがあまりないですし、自分の成果に対して周囲から承認を得たいわけでもないんです。自分が納得いくまで追求することが一番大事で、そのためにはひどい失敗をして怒られてもいい(笑)。

レンタル移籍の前後で受けた能力テストの結果でも、「現状打開力」「実験力」「創造への自信」といった項目が上がり、こうした指向性の強まりが目に見えて現れていたのが興味深かったですね。

田中:千田さんの実行力が、具体的なマニュアルのなかった防災ガールのPR活動に、確かな礎を築いてくださったと思っています。私は、2018年2月に社会課題解決に特化したPRコンサルティング会社「morning after cutting my hair.inc」を立ち上げたのですが、それは防災ガールのPR活動があったからこそ。

伝え方を少し変えるだけで、社会貢献事業はより多くの人に知っていただける。そしてその人の価値観さえ、変えてしまう可能性を秘めている。そのためには、もっと視野を広げて、外の情報や知見を導入しなければいけないとあらためて気づくことができたんです。


千田:世間的には、環境が変われば自分も変われると期待しがち。しかし「成長」とは、自らが理想とする自分の姿との差を埋めていく行為であって、そのためには、一度経験したことを応用や継続するだけでは不十分だと思います。自分自身の「変えたい」という意欲やエネルギーがないと、いつまでも「報酬のための仕事」から抜けられないと思うんです。

今回のレンタル移籍は、もともとは防災ガールさんからお話をいただいてスタートした仕事でしたが、まったく新しい分野に挑戦させていただいたことで、自分のなかのそうしたエネルギーにあらためて火がついた感覚がありました。有意義でしたし、何より面白い経験でした。

田中:私も同じ気持ちです。

取材・文:阿部美香 撮影:高木亜麗