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<PR TIMESカレッジレポートVol.3>いま求められるPR思考 (18年11月開催)

  • 西野亮廣(キングコング|『えんとつ町のプペル』著者)
  • 浜田敬子(BUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長)
  • 今井久美子(アマゾンジャパン 広報本部 シニアPRマネージャー)

DATA:2019.03.01

お客様視点のプレスリリースから生まれるAmazonのイノベーション 創業時は本屋、ファッション・自動車などに加えて多彩なサービスも提供するように

 アマゾンジャパン、PRの今井と申します。最初に、Amazonの事業について話をさせてください。家電やファッションのほか、さまざまなサービスも提供しているAmazonですが、一番始めは何を売っていた会社か、ご存じでしょうか? 実は、本屋だったんです。


 1995年7月、アメリカでジェフ・ベゾスがAmazon.comを創業しました。今では過去1年間に1回以上Amazonで買い物をしたアクティブカスタマーアカウント数は、世界で3億以上となっています。18の国・地域で事業展開しており、各国のPRチームとやり取りして取り組むこともあります。

 Amazonの企業理念は、「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」と、「地球上で最も豊富な品揃え」の実現です。実は、この2つの企業理念はAmazonのロゴにも反映されています。「a」から「z」に向けて矢印が伸びているのは「すべての商品がそろっている」という意味が込められています。また、この矢印は笑顔のようにも見えまして、お客様の笑顔を示しています。

 日本法人のアマゾンジャパンは、2000年11月に日本でのサービスを開始しました。当時から販売する本に加えて、CD、家電、おもちゃを扱うようになり、今ではファッション、食品、日用品、さらには自動車なども売っています。

 また、商品だけでなく、さまざまなサービスも提供しています。商品を出品できる「Amazonマーケットプレイス」もありますし、有料会員サービス「Amazonプライム」の特典も2015年以降、一気に増えてきました。
 企業のお客様に向けたサービスとして、法人・個人事業主向けの専用購買サイト「Amazon Business」をオープンしたほか、出品事業や物流代行サービス、クラウドコンピューティングサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」なども展開しています。

 さらに「Kindle電子書籍リーダー」や「Fireタブレット」、スマートスピーカー「Amazon Echoシリーズ」などのデバイスを自社で開発するようにもなりました。

より良いサービスを生み出すため、職場環境を快適に

 Amazonは快適な職場環境も大事にしています。快適な職場環境は、アイデアを呼び起こし、生産性を高めて、より良いサービスを生み出す土台になるからです。女性社員の産休・育休だけでなく、男性社員もしっかり育休を取得しています。2018年9月にはオフィスを拡張しまして、目黒駅前の目黒セントラルスクエアに新オフィスをオープンしました。

 新オフィスでは、その日の業務内容に合わせて働く場所を自由に選べるフリーアドレス制を導入しています。母親になったばかりの社員のために搾乳室もありますし、いろいろな宗教を信仰する社員のための礼拝室もあります。その他に、オールジェンダー向けのトイレやシャワールームなども備えています。

新商品・サービスの企画もプレスリリース形式で――Amazonのプレスリリース文化


 ここからはAmazonのプレスリリースについて、話をさせていただきます。

 AmazonにはPRの担当者だけでなく、社員全員がプレスリリースを書く文化があります。PRがメディア向けに作成する資料としてのプレスリリースではなく、社内に向けて「こんな新しい商品・サービスを作りたい」と説明する資料、つまり企画書をプレスリリースとして作っているのです。

 企画書をプレスリリース形式で作成するようになった背景を説明するため、Amazonの行動指針「Our Leadership Principles」について触れておきましょう。これはAmazonの社員が守るべきことを14項目にまとめたものです。

 その最初の項目は「Customer Obsession」。お客様を起点に考えて行動する。お客様から信頼を獲得し、維持していくために全力を尽くす。競合に注意を払うが、何よりもお客様を中心に考えることにこだわる、といった意味になります。

 新しい商品・サービスを開発するとき、一般的には「こういう商品・サービスを作りたい。お客様はどう受け止めてくれるだろうか」と悩むのではないかと思います。Amazonではそれが逆で、「お客様がどんな課題に困っているか」というところから入って、どうしたらもっといいサービスを提供できるかと考えるようにしています。

 お客様を起点にして、新しい商品・サービスがお客様の生活をどのように変えるのか。お客様の課題をどうやって解決できるのか。それらを1枚の紙に落とし込んだものがAmazonのプレスリリースなのです。

Amazonのプレスリリースに不可欠な3つの要素、5ページ前後のFAQを別に用意

 Amazonのプレスリリースには、「誰がお客様なのか」「何がお客様にとっての課題/メリットなのか」「この商品・サービスがお客様の課題/メリットに対してどのような変化をもたらすのか」という3つの要素が必ず含まれています。そして1ページのプレスリリースとは別に、想定される質問に対する答えをFAQ形式で5ページほどにまとめます。

 こうして作られたプレスリリースを、関係者が集まる会議でレビューします。一般的な企業なら、パワーポイントの企画書を使ってプレゼンテーションするところから始まるのでしょう。しかしAmazonでは、会議が始まると最初の10分から20分間、用意されたプレスリリースを参加者が無言で読み進めます。内容をしっかりと理解してから、みんなで意見し合うのです。

 また、会議では必ず椅子が1つあって、お客様がそこに座っていると想定して議論することもあります。「お客様がこの場にいたら、この商品・サービスについてどう思うだろうか」と考えながら、レビューを進めていくためです。こうしたプロセスを経て、これまでにEchoシリーズやAmazonプライム、お急ぎ便などの商品・サービスが生み出されてきました。

Amazonが伝えたいストーリーを発信する「AmazonのPRのプレスリリース」


 「Amazonのプレスリリース」について話してきましたが、次に「AmazonのPRのプレスリリース」についてお話ししたいと思います。

 AmazonのPRは、全世界で同じ“Tenets”を掲げています。Tenetsには「信条、基本となる理念」という意味があり、全部で8項目あります。

 その中から、今日は2項目を紹介しましょう。1つ目は「私たちはストーリーテラーです」というものです。Amazonについて深く掘り下げて考え、全体を見渡し、情報を整理してストーリーを描き、それを基にAmazonで働く皆さんと共に、社会に良い影響を与えようと努めています。2つ目は「私たちは社会からAmazonに対する正しい評価・評判を確立します。率先して広報戦略を立てて、ビジネスチームと連携を図り、ニュース価値を創出します」というものです。

 要するに、ただ事実を並べて情報発信するのではなく、「プレスリリースを通じてAmazonが伝えたいストーリーはどんなものか」と考えて伝えていくことがPRに求められています。

 先ほどご紹介した社内向けに作成された1ページのプレスリリースと5ページほどのFAQを基にして、広報視点で戦略を立てて、メディア向けのプレスリリースを書いていく。そこが私たちPRの腕の見せどころです。

お客様は誰か、ストーリーを描けているか、ニュースバリューはどこにあるか

 それでは、メディア向けの「AmazonのPRのプレスリリース」にはどのような要素が必要になるのでしょうか。まず「誰がお客様なのか」と意識するのに加えて、情報を受け取るメディア関係者、読者・視聴者のことまで考える必要があります。そしてTenetsで触れたように、私たちが届けたいストーリーをしっかりと描けているか。最後に、ニュースバリューはどこにあるかとしっかり考えておくことが重要です。

 事例を挙げて説明していきましょう。私はAmazonプライムのPRを担当していまして、Amazonでは2015年から毎年7月に、プライム会員に向けてPrime Day(プライムデー)というショッピングイベントを開催しています。今日は2017年のプライムデーの事例をご紹介したいと思います。

 社内向けに作成された当時の「Amazonのプレスリリース」では、プライムデーについて「世界13カ国で実施するグローバルイベント」であって、お客様の声として「去年はサイト上で商品が探しづらかったけれども、今年は改善されて探しやすくなった」と書かれていました。こうした情報はすごく大切なものではあるのですが、この内容のまま「AmazonのPRのプレスリリース」を作成しても、大きな記事露出は期待できません。

 「世界13カ国」というグローバルなイベントであることは確かにすごいかもしれませんが、日本のお客様にどんなメリットがあるかが分かりません。「商品が探しやすくなった」と言われても、それだけでは具体的にどう探しやすくなったのか伝わりません。日本で記事として取り上げてもらうためにどうすればいいのか、日本オリジナルの企画を考える必要がありました。

芸能人が会員の自宅まで配送、オンラインのAmazonが実店舗を限定オープン


 そこで、日本オリジナルの企画を2つ考えました。1つ目は「Prime Video」に出演する有名人に、プライム会員のご自宅へ、テレビに差し込むだけで映画やビデオを楽しめるデバイス「Fire TV Stick」を届けていただくというものです。プライム会員向けの特典として、ご注文から最短2時間で商品をお届けする「Prime Now」というサービスがあり、それを利用しました。倉庫でFire TV Stickをピックアップして、プライム会員のご自宅に届けるところまでをメディアに追跡取材していただきました。

 もう1つは、「オンラインのECサイトであるAmazonが、Amazonプライムの10周年を記念してポップアップストアを期間限定でオープンします」という企画で、多くのメディアに注目いただくことができました。

 さらにこの企画を発表する場で、先ほどの有名人によるFire TV Stickのお届け企画を公表し、有名人の方にも登場いただきまして、芸能系メディアの記者にもたくさん取材いただけました。当時は経済系メディアの記者との接点が多かったので、芸能系メディアにも露出することで、リーチできる層を大きく広げられました。

 結果として、発表会には記者100名以上に出席いただきました。ポップアップストアにも「1日100~200人来店いただければいいかな」と試算していましたが、終わってみれば来店者数は3日間で4,000人以上になり、期待以上の成果を得られました。

 この事例を通してどのようなストーリーを伝えられたかというと、プライムデーはプライム会員のお客様のための特別なイベントであること、日本10周年を迎えたAmazonプライムに対するお客様のご愛顧への感謝、プライム会員になると便利なだけではなく様々な楽しいことがある、ということだと思います。つまり「私たちのお客様への想い」が伝えることができたのではと考えています。

PRとして正しいと思うことを押し通す強さが成功につながる

 このようにPR主導で新しい取り組みをやることはとても大変なことです。他のビジネスチームやマーケティングチーム、法務チームなど、いろいろな人を巻き込むことになります。国内外で承認を取る必要もありますし、結果も求められます。過去に経験したことがないような大きなチャレンジになることもありますが、それでも新しいアイデアを常に考え、失敗を恐れずにPRとしてやる価値があると思うことを押し通す強さが成功につながったのではないかなと今、改めて実感しています。

 また、PRの仕事では世の中からどのように見られているのかを常に意識し、正しい評価・評判を確立するにあたり、社内の他部署からの期待に沿えない場面もあるかもしれません。そんなときこそ「PRとしてはこうしたい」と強く言った方が、長期的な信頼関係を育めるのではないかと個人的には考えています。

 最後に、Amazonでは「It’s still Day One.」とよく言われています。「毎日が初日」という意味です。
 これからも「今日が初日」という気持ちを持ち、お客様の立場に立ってイノベーションを続けていきたいと思っていますし、今日のお話が皆さんの今後のPR活動に少しでもお役に立つことを願っています。