ビジネスパーソンに聞く仕事術
「プレスリリースを配信するのは、新商品を発表するときだけ」と考えてはいないでしょうか。
発売30周年を迎えた「カラムーチョ」や25周年となる「ポリンキー」など、ユニークで独創的なロングセラー商品を多数抱える株式会社湖池屋は、手を替え品を替えて話題をつくっていくことで、商品のロングセラー化を後押し。ユニークなキャンペーンを続々と打ち出していくことで、Webでの口コミ拡散にも成功しています。
同社は普段から、どのような意識を持って広報業務に当たっているのでしょうか。マーケティング部広報課の山口直哉課長、小幡和哉氏、田島陽介氏に話を聞いてきました。
広報課の業務について教えてください。
[山口氏] 当社はフレンテグループの中で、スナック菓子の製造・販売に当たる事業会社です。
われわれ広報課はマーケティング部に所属していまして、製品ごとに担当が分かれているマーケティング部内の各課と連携し、さまざまなスナック菓子のPRを手掛けています。
広報課の中でも役割が分かれていて、マスメディア向けにプレスリリースを配信してメディア関係者とやり取りする担当者、キャンペーンページなどを制作する自社サイトの制作担当者、FacebookなどのSNS運営担当者などがいます。
貴社の場合、どのようなやり方でメディア関係者と関係を深めているのでしょうか。
[山口氏] 一番の機会は、記者会見でしょうか。年に1回ほど、記者の方々をお招きして、新商品などを紹介しています。
普段はプレスリリースを通じて情報発信するだけなので、記者の方々と直接会える記者会見は貴重な機会になりますね。
[小幡氏] それ以外にも、記者・ブロガーの方々とは折に触れて接点を築くようにしています。
例えば、有名ブロガーが「ポテトチップスが好き」と書き込んだり、著名人がTwitterなどで「湖池屋の○○がおいしかった」とつぶやいていたりするのを見つけたら、「湖池屋から今度、『頑固あげポテトチップス』という新商品が出ることになりまして……」と説明した手紙と商品サンプルを添えて送るなど、地道にPRする活動を続けています。
貴社のプレスリリースを見ていると、なかなか話題をつくりづらい定番商品を使って、うまく情報発信しているように感じます。
[山口氏] 当社は「ユニークで独創的なブランドを開発し、ロングセラーにしていく」ことを重視しています。「ポテトチップス」なら50年以上、「カラムーチョ」は30年、「ポリンキー」には25年の歴史があるわけです。
ただ、カラムーチョやポリンキーのような発売直後に口コミが広がり、ブームになったような商品でも、必ず売上が落ち込む時期がやってきます。当社の場合、商品開発にしても、広報にしても、売上が落ちてきてからが勝負。そこから売上をテコ入れして、人気のロングセラー商品として確立していけるかどうかで、私たちの力量が問われることになります。
発売直後にブームになった商品をロングセラーにするため、意識しているのは「この商品はいつも輝いている」とお客様に感じてもらうことです。「新味を出す」「スナック菓子のパッケージを変える」「ユニークなキャンペーンを企画する」「どこかの企業とコラボする」など、いつもお客様に話題にしてもらえるように、どんどん新しい仕掛けを考えていきます。
例えばカラムーチョの場合、発売当初は細長いスティック状のスナック菓子だけを販売していましたが、最初のブームが落ち着いてきたところで、一般的なポテトチップスと同じ形状のフラットタイプのカラムーチョを発売。「ヒーおばあちゃん」と「ヒーヒーおばあちゃん」を起用したテレビCMで人気が出たこともあって、さらにもう一段、売上を伸ばすことができました。
そのように、新しい仕掛けを打ち出していくことで、お客様を飽きさせないことが大切です。カラムーチョは最近でも30周年を迎えたことを機に、「日本全国カラムーチョ化計画」というコンセプトを打ち出し、コンビニチェーンのスリーエフとカラムーチョを使ったホットスナック・弁当・おにぎりなどを共同開発したり、全国14都市で30万袋を試食用にサンプリングしたりしました。それ以外にも、Web動画を公開したり、カラムーチョの言葉を活用したLINEスタンプを配信したりと手を替え品を替えて話題をつくってきました。
Web動画やLINEスタンプなど、最新のツールも活用しながら広報しているんですね。そうしたWebまわりのツールをうまく使ってPRに成功した事例などがあったら、教えていただけないでしょうか。
[小幡氏] Web中心のPRを初めて本格的に仕掛けたのは、2014年2月に発売した「頑固あげポテト」になります。
頑固あげポテトは、当社が50年以上前にポテトチップスを初めて発売したころの食感を再現したこだわりの商品です。「釜揚げ製法」という当時の製造方法をよみがえらせ、「50年以上にわたる湖池屋の歴史・伝統、受け継いできた技術力を伝えたい」という思いを込めて「頑固あげ」という名前を付けました。
そうしたこだわりを、商品認知のない状況からわずか30秒のテレビCMにまとめて伝えるのは非常に難しい。「われわれがこの商品にどのような思いを込めているのか」といったメッセージをお客様へ正確に伝えるには、はじめはWebを軸にPRを展開した方がいいだろうと考えました。
そこでまず、イメージキャラクターの頑固職人“釜田揚太郎”がお客様から寄せられた質問に対して「これぞ頑固!」という回答をしていく「頑固あげ相談室」という動画コンテンツを用意しました。「本物の頑固」について“釜田揚太郎”に語らせることで、われわれの思いを伝えようと試みたわけです。
そうして制作した動画を起点にして、ポテトチップスを一斗缶に詰めて出荷していた創業当時を思い出させる“伝説の一斗缶ポテチ(R)”をプレゼントするキャンペーンをWebで実施したところ、約27万人からの応募が集まりました。従来のハガキなどで応募のキャンペーンでは、応募者数は数万人程度にとどまることがほとんど。非常に高く評価できる成果を得ることができました。
そして今年2月からは、「頑固あげ相談室」の中でも特に支持の多かった動画をリメイク。CMとしてテレビ放映して、好評を博しています。テレビCMからWebへ誘導したり、テレビとWebで同時展開したりするプロモーションの事例は数多くあります。ですが、Webからテレビへという流れは、あまり前例がない取り組みだったのではないでしょうか。
コンテンツ面では、どのような見せ方をしたことが成功した要因になったと分析していますか?
[田島氏] Webには膨大な情報があふれ、ユーザーはすべての情報を処理しきれません。そうなると、少しでも印象に残るコンテンツを作らないと話題にはなりません。とにかく「パッと見て印象に残ること」を重視してキャンペーンを企画しました。
その意味で効果的だったのは、頑固職人が一斗缶を持った絵を前面に押し出したことでしたね。プレスリリースで「伝説の一斗缶ポテチ(R)」プレゼントキャンペーンを告知したところ、さまざまなメディアの記事で「“一斗缶”をプレゼント」というところが取り上げられていることが分かりました。
そうした結果を踏まえ、Facebookなどで情報発信する際にも、一番印象に残りやすいところ、一番分かりやすいところを打ち出すようにしてきました。そのような工夫が、口コミ拡散につながったのだと思います。
貴社がPR TIMES導入を検討した理由を聞かせていただけないでしょうか。
[山口氏] 従来は記者クラブのみを利用していまして、記者クラブ向けにプレスリリースを配信し、そこから新聞・テレビなどに取り上げてもらうのを待つだけでした。
けれど、新聞・テレビには記者クラブ経由でアプローチできても、雑誌の編集部には十分に情報を届けられていないと感じていました。主な出版社の編集部宛にスナック菓子のサンプルを詰めて宅急便で送っていましたが、それではかなりコストも掛かり、肝心のプレスリリースに目を通してもらえているかどうかも分かりません。
そんなときに、PR TIMESのようなプレスリリース配信代行サービスがあることを知り、「面白いな」と思いました。雑誌やWebメディアの編集部にリーチを広げられて、その成果も把握しやすいです。興味を持って導入してから3~4年間、PR TIMESを使い続けていますね。
広報活動について、今後の抱負を伺えないでしょうか。
[山口氏] 広報として、お客様とのコミュニケーションを非常に重視しています。
今後、ますますお客様とのコミュニケーションを密にしていくため、注目しているのはSNSです。ブランドとしてお客様にメッセージを発信し、お客様にもブランドとのメッセージのやり取りを楽しんでもらいたい。そのためにはSNSを積極的に活用していくことが必要だと考えています。
また、湖池屋が開発・製造したユニークで独創的なスナック菓子を1人でも多くの人に知っていただくのがわれわれの仕事。広報活動を通じて「やっぱり湖池屋って面白い会社だね」と思っていただけるようなユニークな企画を考え出していきたいですね。