ビジネスパーソンに聞く仕事術
国勢調査や国立社会保障・人口問題研究所による将来推計値などから、人口減少トレンドが現実のものとして強く認識されている近年では、国が掲げる地方創生の後押しもあり、都市間競争が様々なかたちで激化しています。
特に地方都市では、UIJターンによる移住者の獲得や、観光客誘致、産業・企業誘致による交流人口、雇用、経済効果の獲得といった「外(行政区域外)を意識した経営」の必要性が広く認識され、自治体の新たなミッションとして多くの自治体が取り組み、競い合う構図が強まっています。
こうしたなか、これまで以上に全国に向けて魅力を伝えていこうと、新潟市は2016年4月から広報戦略課を新設。新潟市の外に向けた情報発信を強化しようと努めています。
広報戦略課が活動を開始して1年、同課の職員は地方自治体が抱える課題とどのように向き合ってきたのでしょうか。広報戦略課の皆さんにお話を伺ってきました。
広報戦略課は2016年に新設された部署だと伺いました。新潟市の広報活動の中で、どのような役割を期待されているのでしょうか。
[鈴木稔直 課長] 新潟市には広報担当の部署として、市民の皆様に向けて情報発信する広報課と、市民の皆様からご意見を伺う広聴相談課があります。また、外向けの情報発信については、必要性に応じ各部署がそれぞれ行っています。
そうした中、少し前から少子高齢化が社会問題になり、政令指定都市の新潟市も人口減少の傾向にあります。なんとか減少を食い止めるためには、観光などでの交流人口の拡大や新潟市への移住・定住を促していかなくてはいけません。そのためには、情報過多の中、新潟市の魅力や優位性を市役所の各部門がしっかりと情報発信していく必要があります。
そんな背景があって、広報の定義である「より良い関係づくり」を再認識し、各部門が戦略的に広報を推進するための司令塔として、2016年4月に新設されたのが、われわれ広報戦略課です。
「各部署による広報活動」、どのようなところに課題があったのでしょうか。
[鈴木 課長] 例えばイベントを例にあげますと、事業費の構成は各部署で設定します。決して予算に余裕があるわけではなく、これまでの内容を維持するために、設営費や運営費などを優先してしまい、一概には言えませんが、広報にかける予算は10%もあるかどうかといった状況です。まずは広報の重要性を庁内全体で理解し、最低限の予算を確保することが必要と考えます。
さらに、限られた広報予算を効果的に使えていないケースもあります。
対象者を明確に想定せず、効果がどれだけあるかもはっきりしない。そうした広報活動に使う予算をなくしていきたいと考えています。
他にも、部署によって温度差があることも感じています。
広報戦略課を新設してから、市役所庁内の各部署にソーシャルメディアの活用状況をアンケートしてみました。すると、部署によってはソーシャルメディアに詳しい職員がいて十二分に活用できているところもあれば、ソーシャルメディアにあまり詳しくなく及び腰の部署もあることが分かりました。
ソーシャルメディアを使いたいのに、同じ部署の職員から理解を得られない。そうした問題が発生しないように、業務環境を整えていくことも広報戦略課が取り組むべき課題でしょう。
そうした課題と向き合うために広報戦略課が設立されたのですね。この1年間の広報戦略課による取り組みについて、教えてください。
[阿部由紀江 課長補佐] 課が立ち上がって、まずしたことは情報収集でした。課長が福岡に日帰りで飛び、先行して広報戦略課を立ち上げていた福岡市に話を聞きに行きました。
続いて、他の政令指定都市の広報体制についても照会、調査を行い、ソーシャルメディアの活用方法、ホームページの外国語表記対応の状況などをまとめました。
組織の内部では、各課の広報担当に対するアンケートやインタビュー調査を実施し、広報の現場で起きていることや直面している課題について調べました。
そうして得られた情報をもとに、我々の進むべき方向や取り組むべき課題を少しずつ明確にしていきました。
[鈴木 課長] 次に、そのようにして集めた情報や、広報戦略アドバイザーに就任いただいた有識者の方々からの助言を踏まえて、広報戦略課として広報活動の“指針”作成に取り掛かりました。
“指針”を考えるときに意識したのは、「対外コミュニケーション」「市民コミュニケーション」「インターナルコミュニケーション」という3つを押さえることです。市外の方々からの認知を高めるにはどんな手法を使うべきか。市民に情報を届けるためには最低限どんなことをしておくべきか。そして、庁内の職員に向けて、どんな考え方で広報活動に取り組むべきかと説明する内容に仕上げました。
広報に詳しくない職員でも、広報活動のポイントをしっかりと理解できるように作成したつもりです。
“指針”を作成している地方自治体は、多いのでしょうか?
[鈴木 課長] 新潟市よりも先に「広報戦略プラン」を策定した自治体はいくつもあります。その内容は「プラン(計画)」に重点が置かれていて、「いつまでに何をやる」といったアクションプランを重視したものが多いという印象です。
新潟市はそうではなく、先述の3つのポイントを職員に理解してもらうための土台となるように“指針”を作成しました。手順を覚えてもらうよりも、職員1人1人の広報マインドを向上させることの方が大切だと考えたからです。
広報戦略課が「対外コミュニケーション」を一手に引き受けるというアプローチもあったと思います。“指針”を作成して職員1人1人に広報活動の考え方を理解してもらうアプローチを選んだ理由を伺えないでしょうか。
[土佐和哉 課長補佐] “指針”を作成しようと考えたのには、地方自治体という組織特有の事情があります。地方自治体で働いていると、担当業務について理解が深まり、スキルが身に付いてきたタイミングで、異動があるのです。
[阿部 課長補佐] 人事異動は、職員個々が幅広い経験を積むのに有効ですが、反面、担当者が業務で培った能力の継承にどうしても課題が残ります。
だからこそ、最初に“指針”を作成し、職員1人1人に広報活動の考え方を理解してもらい、新潟市職員全体の底上げを図ろうと考えたわけです。
[土佐 課長補佐] 担当職員が異動するとその部署からは経験やノウハウが失われてしまいますが、その職員には残っています。必要に応じて、そうした職員に知識や経験の部分で協力を求めるやり方も考えられると思います。
例えば、カメラの撮影技術が高く、魅力的な写真を撮影できる職員がいたら、その職員を登録しておき、広報担当職員が業務多忙で撮影時間を確保できない、或いは使えそうな画像のストックが少ないときなどに、「このイベントの写真を撮りたいので、力を貸してほしい」と依頼できるようにする。そうした形でノウハウを残して活用していくことも、検討するべきかもしれません。
“指針”の作成以外にも、「対外コミュニケーション」の手法の一つとして、広報戦略課では2016年10~12月、PR TIMESのプレスリリース配信サービスを試行するなど、新たな試みをしています。
これまでの新潟市の「対外コミュニケーション」は、どのようなやり方だったのでしょうか。
[岡村直也 係長] まずは、市報やチラシ、ホームページなど自前のメディアを活用します。しかし、リーチは限定的です。紙面やテレビCMの枠を買う、或いは広報自体を委託する、などの手法もありますが、コストが嵩むため、予算規模の大きなイベント以外ではできません。
イベント事業や企画の多くは、市役所庁内にある市政記者室を利用するメディア向けに、担当部署が作成したプレスリリースを配るだけに止まります。
ですから基本的には、新潟県内の新聞・テレビ・ラジオにしか情報は取り上げられません。そこからテレビのキー局などの全国メディアにまで情報が届くことは難しい状況でした。
そうした状況から、全国メディアや専門メディアにプレスリリースを送ることができるPR TIMESのサービスを利用されました。使ってみた感想を教えてください。
[鈴木 課長] PR TIMESを利用しようと考えたのは、広報戦略アドバイザーの方から「試してみてはどうか」と薦めていただいたのがきっかけでした。新潟市外で活動するさまざまなメディアにプッシュ型で情報を送るのは、新潟市にとって初めての取り組みだったと思います。
試験的にようやく踏み出した一歩ですが、それでもいくつか手応えを感じられる実績を残すことができました。
例えば「『新潟市×G-SHOCK!?』~地方創生とストリートカルチャーは共生するか?~」というイベントを告知するプレスリリースは、Yahoo!ニュースにも記事として掲載されました。
多くの人が利用するYahoo!に、自分の携わるイベント情報が掲載されたということで、関係部署の職員は喜んでいました。
また、新潟市マンガ・アニメ情報館で開催した展示会を広報した「『あんさんぶるスターズ! Welcome to Festa!』を開催(平成28年12月3日~平成29年1月9日・新潟市)」というプレスリリースは、マンガやアニメの専門情報サイトに取り上げてもらえました。
「マンガやアニメを好きな人が見るメディアに情報を届けたい」と思っても、われわれにはどのメディアにどうやってアプローチすればいいのか、分かっていませんでした。PR TIMESのようなツールを使って情報を届ければ、新潟の情報でも専門メディアに取り上げてもらえることが確認できたのです。適切なメディアにアプローチすることの大切さをあらためて感じました。
PR TIMESのサービスでは、プレスリリースの内容に応じて、配信する先のメディアを選ぶことができます。各課の担当者に意見を聞いても、「こういうサービスなら使いやすい」と喜んでくれていましたね。
広報戦略課の1年の取り組みについて伺ってきましたが、来年度の活動についてはどのような計画を立てていますか。
[鈴木 課長] まずは本年度作成した“指針”を来年度から運用し始めることになります。
期待した効果が出るかどうかを検証しながら、次の方策を考えていくことになるでしょう。
[岡村 係長] プレスリリースの書き方や、広報素材に使う写真を魅力的に撮影する方法、Facebookなどのソーシャルメディア運用に当たって注意してほしいリスクマネジメントに関することなど、いくつか研修を開催していきたいと考えています。
そうした地道な取り組みを続けていくことで、少しずつ新潟市職員の広報マインドを向上させていきたいです。