EVENTS 10

地方銀行として広報・PR活用方法を支援。武蔵野銀行・千葉銀行が共催した「広報・PR実践セミナー」

  • 藤坂 浩司(株式会社ぶぎん地域経済研究所 調査事業部 次長兼主任研究員)
  • 大林 健太郎(千葉テレビ放送株式会社 プロデューサー)
  • 山口 拓己(株式会社PR TIMES 代表取締役社長)

DATA:2019.03.08

藤坂 浩司

藤坂 浩司

株式会社ぶぎん地域経済研究所 調査事業部 次長兼主任研究員

大林 健太郎

大林 健太郎

千葉テレビ放送株式会社 プロデューサー

山口 拓己

山口 拓己

株式会社PR TIMES 代表取締役社長

企業・地域の価値を高めるため、広報・PRに興味を持つ中小企業などの経営者・広報担当者が増えてきました。PR TIMESでは、そうした方々のために、全国各地で広報・PRの活用方法を勉強するセミナーの開催をお手伝いしています。

2018年12月10日には、千葉銀行と武蔵野銀行が「経営者・広報担当のための広報・PR実践セミナー」を共催。PR TIMESからも代表の山口拓己が登壇し、プレスリリースの役割や可能性について講演しました。

同セミナーではさらに、ぶぎん地域経済研究所の藤坂浩司次長兼主任研究員から「広報・PR活動の重要性」、千葉テレビ放送の大林健太郎プロデューサーから「メディアが取上げたいPRネタ」という切り口で、効果的な広報・PR活動について講演がありました。藤坂氏と大林氏、そして山口の講演内容について、本稿にて再録します。

広報・PRを理解する。メディア掲載させるのに必要なこと。「広報」と「広告」の違いは?

ぶぎん地域経済研究所の藤坂と申します。以前は日刊工業新聞に26年間在籍し、主に記者として、あるいは記者を統括する立場として働いてきました。そうした前職の経験から、広報・PR活動の重要性について話していきます。

藤坂 浩司(株式会社ぶぎん地域経済研究所)

そもそもPRとは、“Public Relations”の略称で、「広報」を意味します。よく「『広報』と『広告』を区別できない」という方がいます。「広報」と「広告」は似て非なるものですから、両者の違いをきちんと理解してPRに取り組む必要があります。

「広告」の場合、広告主がお金を払って広告掲載スペースを買い、そこに自分たちの伝えたい主張を自由に掲載できます。一方、「広報」の場合は、掲載の決定権はメディアにあります。自分たちの主張をメディアに伝えても、実際に掲載されるかどうかは分かりません。ただ、基本的に費用はかかりません。こういった点が「広報」と「広告」の基本的な違いです。

それ以外の違いとして、一般的には、広告費を支払って載せた広告の主張より、メディアが選んで載せた広報の主張の方が「客観的なデータに基づいている」「付加価値が高い」などと見られがちです。実際は必ずしもそうとは限りませんが、たくさんのニュースリリースや取材対象の中から選ばれて記事になったということで、価値があると捉えられるのです。

PRする目的は何か。目的によってPRの戦略は変わる

PR活動は、すぐに売上増などの成果につながるとは限りません。それでも、事業などを継続していく上で、大切な活動の1つです。それも広告とは違って、広報なら少ないお金で最大限の効果を発揮できる可能性があります。そのことをよく理解した上でPRすると、非常に効果があると考えています。

PR活動に取り組む上で重要となるのが、何を目的にするかということです。PR活動は基本的に、企業や自治体が自分たちの活動を広く世に知らしめるためのものです。その立場によって目的は多岐に渡ります。例えば、新しい商品・サービスの告知、会社の知名度やブランド力の向上、株価対策などがあります。目的に応じて、誰に対してPRをするのか、ニュースリリースをどう書くのか、戦略の立て方も変わります。目的がきっちりしていないと、せっかくPRしてもメディアに取り上げられないことが多々あります。

自社でやるか、PR会社に委託するか

いざPRに取り組み始めると、ニュースリリースを書いて送ることが、基本的な施策の1つになります。ニュースリリースを誰が書くのか、まずはそんな問題に直面すると思います。誰がPRを担うのか、自社の人間が行う場合と、PR会社に委託する場合、大きく分けて2つの選択肢があります。

自社でやる場合、中堅・小規模の会社ですと、広報専門の部署・担当者を置くのは難しいかもしれません。総務部などが兼務して、ニュースリリースを作成して自社ホームページに掲載するところまで担当しなければならないところもあると思います。専任の担当者を置くことが難しかったとしても、まず誰が担当するのかをきちんと決めて、その方が責任を持ってやっていくことが大切です。

もう1つのPR会社に委託する場合、成果はきちんと得られると思います。ですがお金がかかりますので、経営者や担当者が、コストと成果の見合いから委託を続けるべきか判断する必要があります。

PR成果を判断する効果測定手法は2種類のやり方がある

PRは、ニュースリリースを書いて終わりではありません。いかにしてメディアに取り上げてもらうか。取り上げてもらうことで、どのような成果を期待するのか。そこまで考えておく必要があります。


PRの成果を計測する方法として、主に2種類のやり方があります。1つは、出したリリースがいくつのメディアに取り上げられたか件数を測り、掲載メディアが新聞や雑誌なら紙面の大きさ、テレビなら放送時間を調べて、「同じだけメディア露出するのに、広告費がいくら必要だったか」と換算するやり方です。

ただ中小企業の場合、掲載メディアを調べ上げて露出量を広告費に換算していくのは大変だと思います。そこで2つ目のやり方として、メディアに取り上げられた結果、自社にどれくらいの反響があったのか、問い合わせの件数、相手、内容をチェックする方法があります。リリースを公開してメディアに取り上げられた後、電話、FAX、メールなどで届いた問い合わせの件数を計測するわけです。

PR活動を通じて得られる3つのメリットとは。“会社の履歴になる”という観点

PRに取り組むメリットとして、重要なものを3つ挙げます。特に大切なのは、「会社の歴史を正確に記録する活動の一環にもなる」ことです。社歴の長い会社が50年史や70年史といった社史を作る際、「過去の履歴・実績等が整理されていなくて、会社の歴史が分からない」ことが多くあります。会社のイベントを開くときや新しいビジネスを展開するときなど、リリースを作ってホームページに載せておけば、たとえすぐにメディアに取り上げられなくても、会社の履歴として残ります。後から情報を整理するのに役立ちますから、このような習慣をつけることが大切です。

 2つ目のメリットは、「自社や自社のサービス、商品などが第三者からどのように見られているのかを客観的にチェック、判断できる」ことです。ニュースリリースをホームページに載せたり、メディアに送ったりすることで、メディアに記事が掲載されることがあるかもしれません。それがきっかけで、別のメディアからも取材が来るかもしれません。そうしたメディアの反応を見て、自社や自社の商品・サービスに対する評価・関心を判断できるようになります。

 3つ目のメリットは、「社会に対する情報発信を通じて、経営活動の意義や存在感を再確認することで、さらなる高みを目指すことができる」ことです。2つ目と関連しますが、自分たちの活動を再チェックする手段としてPRを活用できます。

メディア掲載されることのメリットをどう捉えるか

PRに取り組んで、メディアに掲載されるとどのようなメリットがあるのでしょうか。まず不特定多数の人や企業に対して、効果的に自社の宣伝ができます。不特定多数の人が記事やテレビの放送を見たり聞いたりすることで、想定よりもはるかに大きな宣伝効果があるかもしれません。


また、掲載された情報を元に、第2、第3のメディア掲載や情報の拡散などが期待できます。メディア関係者は365日、常に「何か新しい情報はないか?」と探し求めています。どのメディアも競合メディアを見ていますから、あるメディアに記事が載ると、「こういう面白そうな会社があったんだ」と別メディアの関係者の目にも触れます。そうして、タイミングを少しずらして次のメディアが取材に来ることが非常によくあります。

また、メディア掲載からしばらくして、最初に取り上げてくれたメディアから「また何か新しいネタはないですか?」と連絡が来ることもあります。そう考えると、1回でもPR活動を通じてメディアに掲載されると、その効果は大変大きなものになります。

ニュースリリースの内容、届けるメディア選定の組み合わせが重要

続いて、PR活動の際に、どのように情報を発信していくべきか、説明していきます。企業や自治体が情報発信するやり方はいろいろあります。パンフレット、チラシ、ポスター、カタログといった紙媒体に加えて、SNSのような電子媒体もあります。PR活動の目的やターゲットなどに応じて、利用するツールを選ぶのが良いでしょう。

そして現代では、ニュースリリースがPR活動をする上で柱の1つになっています。ニュースリリースの作り方としては、これまでに配信された膨大な数のニュースリリースを調べて、模倣することから始めるのが良いでしょう。A4サイズの用紙1~2枚程度で、起承転結を意識してコンパクトにまとめましょう。

そして、自分たちが訴求したいターゲットを踏まえてメディアを選び、そこにリリースを送ります。送った後、編集部に電話して「載せてほしい」とお願いするといった活動を続けていけば、成果が出てくる確率は高くなると思います。

ニュースリリースを作ること自体が目的ではなく、作ったものをメディア掲載させることが目的です。「載せてもらう」のではなく「載せさせる」という意気込みで取り組みましょう。「自分たちがPRしたいものは、どのメディアにマッチしているのか」と事前に調べ、載せたいメディアが見つかったらそこに働き掛ける活動を繰り返していくのです。メディア掲載の実績を増やしていくには、基本的に、ニュースリリースの内容とそれを届けるメディアの組み合わせが大事です。ここを間違えると、なかなかメディア掲載させることはできません。

ニュースリリースはたくさんある。何か1つでも目新しい内容を

 世の中にはたくさんのニュースリリースがあって、限られた紙面にどのリリースを載せるかはメディアが判断します。そのため、ありふれた内容やつまらない内容、二番煎じのリリースをメディアは載せません。斬新さや新規性、独自性、話題性、時代性、地域性、社会性などが必要です。すべて当てはまらなくても何か1つ、メディアにとって目新しい内容があることが大切です。


私が新聞社にいたころも、ニュースリリースは毎日何十件と送られてきました。それらを1つ1つしっかり見ることは物理的に難しいので、パパッと流し見て、目に止まったリリースだけを載せていました。たくさんのニュースリリースがある中で、どうやって記者の目に触れるか、工夫が必要になります。

ただ、1度でもメディアに取り上げてもらえれば、そこから突破口が開けます。メディア関係者とつながりが生まれて信頼関係ができると、その後のPR活動は比較的楽になります。その突破口が開けるまで、努力を惜しまないことが重要です。

NEXT

現役プロデューサーが語るメディアが取上げたいPRネタ

普通のネタのプレスリリースでは、メディアに刺さらない

千葉テレビ放送でプロデューサーを務めている大林と申します。皆さん、「テレビ番組のプロデューサー」にどんなイメージを持っていますか? 寒い時期によく言われるのが「ピンクのマフラーを巻いている」ということです。だから私はいつも「ピンクのマフラーを巻いていないプロデューサーです」と自己紹介しています。

大林 健太郎(千葉テレビ放送株式会社 プロデューサー)

この自己紹介の仕方こそ、実はPRのネタ作りの第一歩なんです。とにかく普通のネタのプレスリリースは、メディアに刺さりません。そういえば今日は、千葉銀行と武蔵野銀行、千葉と埼玉の銀行が組んでセミナーを開いています。テレビでも視聴率が取れる「千葉 対 埼玉」という組み合わせの2行がコラボしてセミナーを開いた。これをプレスリリースにして発信したら、メディアに取り上げられる可能性がものすごくあるでしょう。

実は保守的なテレビ業界、分類によって特徴が異なる地上波テレビ局

それでは最初に、テレビ業界のことから解説していきましょう。テレビ業界は、実は保守的な業界です。総務省から免許をいただいて番組を放送しています。免許事業であるが故に、テレビで流すCMなどは、考査を通過する必要があります。政治・宗教にかかわる内容など、行き過ぎたものは放送できません。つい最近までは、結婚相談所も扱えなかったんです。今は、薬事法違反の疑いがあるネタは非常に扱いづらくなっています。

続いて簡単に、地上波テレビ局の分類を紹介しましょう。地上波テレビ局とは地上波で番組を放送する免許をいただき、広告収入で生業を立てるテレビ局のことです。フジテレビや日本テレビ、テレビ東京などは「キー局」、仙台放送や広島ホームテレビなどは「地方系列局」、われわれ千葉テレビ放送やtvk、サンテレビなどが「独立UHF局」と呼ばれています。実は日本には地上波テレビ局が200局以上あります。番組で紹介してもらって価値があるのは、独立UHF局までだと私は考えています。

それぞれの特徴について説明しますと、地方系列局は各地方でものすごく影響力があります。ただし、地方系列局はキー局とチームを組んでいて、放送する番組のほとんどは、キー局から提供されたものです。CMもキー局から降りてきます。キー局によって非常に守られていて、「問題ない」ことを優先する傾向があります。

一方、われわれ独立UHF局は、自社の営業局が主導して業務が流れていきますから、お客様を優先します。民間企業に一番近いです。もう1つ、独立UHF局の番組は、著作権の権利関係が緩いことも覚えておいてください。

やわらかくいくか、硬くいくか。最初に決めるのは情報の出し方

ここからが重要です。どうやったらテレビ番組に取り上げられるか、話をします。まず、やわらかくいくか、硬くいくか、情報の出し方を決めてください。テレビ局で言うと、情報バラエティー番組を狙うのか、ニュース番組を狙うのか、ということです。それぞれの現場担当者の性格に合わせてやり方を変えないと、番組に取り上げられることは難しいでしょう。


情報の出し方を決めたら、それぞれの番組を作っている相手のことを知りましょう。情報バラエティーの場合、作っているのは制作会社のディレクターです。われわれ、テレビ局のプロデューサーではありません。制作会社のディレクターがネタを決めて、われわれプロデューサーに「これでどうですか?」と提案し、プロデューサーが良いか悪いかを判断します。

ということは、プレスリリースを届けるのなら、制作会社のディレクターということになります。規模の大きな番組になってくると、放送作家やリサーチャーもネタ決めにかかわってきます。彼らにもプレスリリースを届ける必要があるでしょう。

情報バラエティー番組に出たいなら、Webマーケティングを強化するのが一番

ただし結局のところ、情報バラエティー番組に出たいのなら、Webマーケティングを強化するのが一番です。意外と思われた人もいると思いますので、例を挙げて説明してみましょう。例えば、木更津を特集する番組を企画したのなら、まずは制作会社のアシスタントディレクター(AD)が木更津のことを調べます。ADとして働いているのは、だいたい20代前半の男性です。彼らが調べ物をするときに使うものといったら、スマートフォンです。

そうなると、普通に考えたら「自社を取り上げてほしいなら、Google検索したときに上位に出てくればいい」と思い至りますが、最近はGoogleで調べても旬の情報を見つけることが難しくなってきています。そうした背景から、ADによく使われるようになってきているのがSNS、特にInstagramです。

実際、あるADが木更津のことをInstagramで調べたら、バウムクーヘンの写真ばかり出てきたそうです。「せんねんの木」という専門店のバウムクーヘンだということが分かり、そのADは同社のホームページを見てみました。すると、メディアに取り上げられた履歴、メディア掲載の実績がたくさん掲載されていました。

このメディア履歴というのは、すごく重要です。制作会社のADは時間がない中で働いていますから、外さない取材先かどうかを判断するために、メディア履歴を見ているんです。

ターゲットに対して何を言うか、メッセージを1つに絞る

つまり、情報バラエティー番組に出たいのなら、Webが絶対的に重要です。それなら、具体的にどうWebマーケティングを強化すればいいのでしょうか。プレスリリース、YouTube、SNSといったツールのことを考える前に、まずは選択と集中をして「ターゲットに対して何を言うか」とメッセージを1つに絞る必要があります。


Webマーケティングで言うところのロングテール対策です。市場規模が見込めて、他社がPRしていないことを探し、「PRするキーワード+エリア」を決めましょう。「ターゲットに対して何を言うか」を決めたら、次に「どう言うか」。そして「誰が言うか」を決めていきます。プレスリリースを書く前に、ここを決めておかないと言うことがぶれていってしまいます。

ここが決まれば、ホームページにアクセスが集まるようになっていきます。ホームページで重視してほしいのは、滞在時間を上げること。ホームページを訪れた人がどうやって情報を集めるかと動線を考え、必要な情報をきちんと提供することがPR責任者に必要なことです。さらに取材を増やしたいのなら、ホームページやブログに「絶対に取材を受けます」と書いておいてください。

PRで重要なのはギャップとリピート。自分で「話題だ」と先出ししよう

「どう言うか」についてさらに説明しますと、PRで重要なのはギャップとリピートです。「千葉銀行なのに社食がおいしい」といったように、ギャップがある情報は情報バラエティー番組に注目されやすいです。

 ギャップとはどんなものか分かりやすくたとえると、「ぶらり途中下車の旅」というテレビ番組で入る「おやおや、○○さん」というナレーションです。お店に入るときなどに「おやおや」と言うのですが、実際にお店を見てみると「おやおや」と言うほどのお店ではないんです。

 つまり言い換えると、「話題になっている」と、先出しじゃんけんで先に自分で大げさに言ってしまうこともPRでは重要です。うそはいけませんが、ベトナム人が2人来店したことがあるラーメン屋なら「ベトナム人に話題のラーメン屋」です。そうした情報をたくさん発信してリピートし、自分から勝手に「話題だ」と宣言して仕掛けることが重要なんです。

ニュース番組を狙うなら、記者クラブに行けばいい

ここまで情報バラエティー番組に出る方法を話してきましたが、硬いニュース番組に出たいときはどうでしょうか。その答えは、実は簡単です。記者クラブに行けばいいんです。県庁舎や市役所の中にある記者クラブに行って、プレスリリースを置いてきましょう。

ただ、プレスリリースの内容が営業くさくなっているとだめです。「地方創生」「環境」「農業」「少子高齢化」など、何らかの形で社会の役に立つことだと大義名分を示してください。そして社会の役に立つこととしてPRするのなら、できれば行政と組むべきです。公的な県や市などの行政からお墨付きをもらえれば、硬いニュース番組に取り上げられる確率は上がります。

PRだけで売上は増えない。その後の2次利用マーケティングで売上アップを狙え

最後に、「何でPRするのか」「何でメディアに取り上げられたいのか」と考えてみてください。答えを言ってしまうと、その直接的な答えは「売上を増やすため」ではありません。ブランディングのため、信用力を向上させるためなんです。


「テレビで取り上げられた」「メディアで話題になった」というのは、いわば水戸黄門の印籠です。PRでブランド力を上げてから、印籠を全面的に活用して、販売促進に役立て売上アップに結び付けていくんです。だから、メディアで取り上げられても、そのことを情報発信しないと継続的に売上は増えていきません。メディア掲載されたら、既存のお客様に伝えていくことで、別のお客様を紹介いただいたり、口コミにつながったりします。つまり、PRのゴールとは、紹介や口コミを起こりやすくするための仕掛けづくりだと私は考えています。PRでまずブランド力を上げて、最終的には売上に結び付けるこうした考え方を、「2次利用マーケティング」と呼んでいます。

著作権の絡みで2次利用困難なテレビ番組、2次利用可能な番組を製作するテレビ局も

ただ、PRの成果であるメディア掲載実績を発信しようにも、テレビ番組で取り上げられた場合、著作権の問題があるので企業が番組映像を利用することは難しくなっています。そうした状況を打開しようと、千葉テレビ放送では、「ビジネスビジョン」「ナイツのHIT商品会議室」など、テレビ放送を2次利用できる番組を製作しています。番組で紹介された映像を自社のホームページに掲載できますし、社内報やカタログ、SNSなどでも映像・画像を利用できます。

ここまでポイントを絞って話してきましたが、情報バラエティー番組向けのネタの作り方と、ニュース番組に出たいのなら記者クラブを活用すること。この2つと、テレビ番組の取材につなげるために、ホームページで見せる情報の動線について意識することは、ぜひ覚えていってください。今日は貴重な時間を、どうもありがとうございました。

NEXT

事業と組織を強くする、プレスリリースの役割と可能性

パブリシティになるプレスリリースは、100件に1件あるかないか

PR TIMESの代表を務めています山口と申します。プレスリリースを軸にして、企業の事業と組織を強くする手法をご紹介させていただきます。そもそもプレスリリースとは、企業が報道向けの素材資料としてメディアに送付し、メディアが数あるプレスリリースの中から取捨選択して記事や番組などのパブリシティで取り上げることで、初めて生活者へ情報が届くツールでした。パブリシティによっては「話題になる」こともあり、生活者の反響を企業やメディアが受け取ることができるようになっていました。

山口 拓己(株式会社PR TIMES 代表取締役社長)

でも、プレスリリースの配信数は増え続けています。今ではPR TIMES経由で配信されるプレスリリースだけで月間1万2000件以上。パブリシティとして取り上げられる確率は極めて低くなってきています。

海外の事例になりますが、デジタルメディアの記者が1年間に受け取ったメールは約3万8000通。そのうち約2万6000通がプレスリリースでした。主要ネット媒体の記者の45%は、1日1記事しか書きません。そこから計算すると、記事になるプレスリリースは100件のうち1件あるかないかということになります。

「プレス」だけでなく、「パブリック」にもリリースを送る時代に

一方、PR TIMESはプレスリリースから「プレス」を取って、生活者に直接届けようと試みています。従来どおり、メディア向けにリリースを送りつつ、生活者、つまりパブリックに向けてもニュースとしてリリースを送る。そうすることで、ある程度の生活者には情報が伝わり、何らかの反響が生まれるようになってきました。時にはパブリシティにならなくても、リリースを見た生活者がSNSなどで話題にして、それを目にしたメディアが「それなら取り上げてみようか」とパブリシティになることも増えてきました。

 実際、『起業の科学』という書籍の中で、「日本でもアクティブなVCはPR TIMES、日経産業新聞、TechCrunch、THE BRIDGE、Pedia Newsなどスタートアップに強いメディアをくまなくチェック」していると紹介いただいています。PR TIMESのサイト全体のPV数にしても、直近で月間1600万PVほどあります。日本有数のニュースサイトと比較しても、遜色ない規模です。産経ニュース、東洋経済ONLINE、Infoseek、LINE NEWSなど、180以上のメディアと提携していまして、PR TIMESで配信されたリリースがそのまま原文で転載されています。LINE NEWSにリリースがそのまま掲載されることも増えてきまして、少なからず生活者に直接届くようにもなってきました。

自ら発信した情報も楽しんでもらえる。これから重要になるのは「PR思考」

広告とPRの違いについて、これまでは次のように例えられていました。マイクとケビンがいて、マイクは「将来良い夫になる」とアピールしています。それは自分で発信しているから“広告”だと。一方、ケビンはいろんな女性から「きっと良い旦那になるよね」と評判です。こちらは第三者、言い換えるとメディアから評価されていますから“PR”に当たり、「信頼できる」情報だと思われます。

ところが、現在では先ほど例に挙げたLINE NEWSのように、自分で発信した情報であっても、生活者にとって貴重な情報であればニュースとして楽しんでもらえるようになりました。つまり、自ら発信したリリースだからといって、届かないわけでも、信用されないわけでもなくなったわけです。そうなると「PR(パブリック・リレーションズ)思考」を持っているかどうかが重要になるのではないかと私は考えています。

それでは、PR思考とはどのようなものなのでしょうか。私はPR思考の対極にあるのは「営業根性」だと考えています。営業の仕事の本質は、今の自分を多くの人に評価してもらうことです。短期的に売上を増やすために相手のことを考えず、「自分を買ってほしい。愛してほしい」というメッセージを発信します。


PR思考は、まったく逆です。社会の声に耳を傾けて、どのようにして応えるかを重視します。長期的な視野を持って戦略的・逆算的に考えて、「あなたが好きなんです。役に立ちたいんです」というメッセージを相手に伝えていくことになります。

例えば先日、愛知県の豊橋駅で降りた時、豊橋産のコチョウランで形作ったホッキョクグマのモニュメントが設置されていました。豊橋はコチョウランの生産量が日本一で、豊橋総合動植物公園ではホッキョクグマが飼育されていて人気になっています。なぜこんなモニュメントが飾られているのか、豊橋に住んでいる人なら分かったはずです。ですが、他の地域に住んでいる人にとっては、モニュメントについてそう説明を受けても「だから何?」と感じてしまうでしょう。

同じように、千葉県が落花生の生産量でダントツの日本一であること、埼玉県が晴天の最も多い都道府県であることを伝えられても、最初は「ああ、そうなんだ」と思うかもしれませんが、次からは「だから、何?」と感じることになると思います。営業根性で「日本一だ」とアピールしても、一般の生活者はなかなか興味を持ってくれません。だから、「どうすれば生活者が興味を持ってくれるか」と考え、クリエイティブを工夫したり伝え方を考えたりするPR思考が大切なのです。

「宣伝」は誤訳。PRの本当の意味、プレスリリースの果たす役割とは

ここでPRの定義について考えてみましょう。PRのことを「宣伝」と誤訳する人もいますが、私はPRとは組織とその組織にとって大切な人たちとの間で、相互に有益な関係を築くコミュニケーションを核としたあらゆるプロセスだと考えています。

「大切な人たち」とは、利害関係者に限らず、顧客やユーザー、社員など、その人が思い浮かべるすべての人です。現時点で顕在化している「大切な人」だけでなく、潜在的な「大切な人」もいます。未来になったら「大切になる人」もいるかもしれません。

その中でプレスリリースは、「大切な人たち」に自分の行動や成果を伝えるコンテンツであり、「大切な人たち」にとって有益な情報を伝えるものになります。もともと、プレスリリースの原点は、1906年にアメリカのアトランティックシティで起きた大きな列車事故を公開する文書だったと言われています。でも、それ以前から列車事故は起きていたんです。それをずっと隠し続けていて、不信感が募っていきました。その結果、隠して「安心だ」と言い張るよりも、「これだけの事故が起きました」という情報を公開した方が社会にとって有益になったから、公開に踏み切ることになったわけです。

「赤ちゃんが初めて歩いた」。どうすれば多くの人に興味を持ってもらえるのか

いざ皆さんがプレスリリースを書くとなったら、どうやって書いていくことになるのでしょうか。皆さんは業種も違えば、取り扱う商品も違います。そこで今回は、誰しも経験してきたことで仮想のプレスリリースを作ってみました。「赤ちゃんが初めて歩いた」という事実をプレスリリースにしてみたのですが、「初めての歩行距離は70cmだった」「初めて歩いたのは千葉県柏市にある自宅だった」といった情報を書き込みました。

でも、内容がこれだけでは、さびしいと感じませんか? 「これまで歩くことに何度チャレンジしてきた」「どうして歩こうと思ったのか」といった背景情報、「今日の歩数は2歩だったが、これからどう歩いていきたいか」といった今後の展望、さらに両親からのコメントも載せて、「いつ寝返りするようになったか」「初めてハイハイしたのはいつだったか」といった履歴を書くのもいいでしょう。


ここまでのことを企業に当てはめて考えてみましょう。プレスリリースを書くときに、まずは「どうしてこの製品を世に出そうとしたのか」「この製品を誰に使ってもらいたいのか」という背景や想い、さらに社長や開発者のコメント、実際に使用したユーザーの声をプレスリリースに書くというのもいいかもしれません。商品化に至るまでに失敗した情報も、有益な情報だと感じる人もいると思います。

ですが実際に、こうしたプレスリリースを配信したとします。「誰かの赤ちゃんが初めて歩いた」という情報を発信しても、親族や友人・知人以外には興味を持ってくれる人がほとんどいないことでしょう。皆さんの商品も、プレスリリースを配信して紹介しても、興味を持ってもらえない可能性があります。

それでは、皆さんのプレスリリースに興味を持ってもらうには、どうすればいいのでしょうか。例えば、赤ちゃんが初めて歩いたときの月齢が5カ月で、史上最年少の記録だったらどうでしょう。「そんなに小さい赤ちゃんが歩くのなら見てみたい」という人は非常に多いはずです。皆さんの商品をプレスリリースで紹介する場合にも、同じことが言えます。他社の商品と違う点、「普通ではない商品だ」と感じる点を、皆さん自身がつくり出すことが必要です。先ほど「PRとは組織とその組織にとって大切な人たちとの間で、相互に有益な関係を築くコミュニケーションを核としたあらゆるプロセス」と説明しましたが、“相互に”関係を築くことが大切になります。プレスリリースを通して皆さんのことを知ってもらうだけではなく、相手を知ることが重要です。

 そのためには、皆さんを取り巻く社会の声に耳を傾ける“広聴”によって、社会の声を広報部門や経営陣が理解しましょう。皆さんの商品に対する反応を知って、「社会の声に応えるためには何をすればいいのか」と考えて行動に移します。次に、その行動した内容と成果、それに背景情報までを加えて、コンテンツとして発信する。それこそがパブリックリレーションです。そうすることで初めて双方向のPRを実現できるようになり、事業や組織を強くすることができると考えます。経営学者のピーター・ドラッカーも、「PRは広告宣伝の延長線上のものと理解されやすい。しかし、今日では企業の美徳や貢献を説くよりも、まずは企業が社会の問題を理解しなければならない」と説いています。自分たちの良さをアピールするよりも、社会を理解して、それを踏まえてどんな行動をするべきか。そして自分たちの行動をどう伝えるべきかが重要です。

「世界最小のプレスリリース」と「食べられるお箸」、社会問題を踏まえた広報事例

私たちPR TIMESも、2017年に10周年を迎えたのを記念して、感謝の気持ちを込め、お米に文字を書いた「世界最小のプレスリリース」を作りました。最終製品を扱う企業ばかり注目されますが、製品が完成するまでにかかわる部品メーカーや加工メーカーがメディアに取り上げられることは非常に少ないです。「世界最小のプレスリリース」を作る上で加工メーカーの力を借りて、その技術力を紹介することでこの社会課題を解決する一助になればと考えました。

お米に食紅で文字を印字する加工には、新潟県三条市の板垣金属社に協力いただきました。非常に難しい加工で失敗を繰り返しながらも、予定から6カ月遅れでようやく完成させることができました。「世界最小」にこだわろうと決めるまでに、世界で作られた珍しいプレスリリースについて調べました。巨大なプレスリリースを作った企業もあれば、プレスリリースを高高度にまで打ち上げた企業もありました。チョコレート製のプレスリリースも作られたことはありましたが、お米サイズのこれだけ小さなプレスリリースは、世界でもこれまで作られたことはないことを事前に確認し、「世界最小のプレスリリース」を公開したと全世界に向けて発信しました。

もう1つ、熊本県いぐさ・畳表活性化連絡協議会が作った「食べられるお箸(畳味)」の事例をご紹介しましょう。

実は、畳に使われるいぐさを育てる農家は、ここ30年で20分の1に減っています。そんないぐさの生産量で96%を占めるのが熊本県です。畳の生活に戻していぐさの生産量を増やすのは難しいとしても、「いぐさ」という言葉を少しでも口にしてほしいと考え出したのがこの企画。「話題にする」という意味と「食べる」という意味の“口にする”をかけたダジャレから生まれたアイデアなんですね。実際にこのニュースは多くのメディアで取り上げられて、「食べられるお箸」も通販で販売することが決まりました。

1人1人をどうエンパワーメントするか。文化や情熱はマネできない

広報活動において、社会の声に耳を傾ける広聴が重要であることを説明してきました。しかし最近ではSNSが普及し、自分たちの行動がどう評価されているのか、非常にモニタリングしやすくなりました。その結果、広聴の重要性は下がってきているのかもしれません。

むしろ、現在の広報活動においては、1人1人をエンパワーメントすることの方が重要だと考えます。今の時代、新しい技術やアイデアが登場しても、すぐにマネされてしまいます。でも、文化や情熱といったものは、なかなか簡単にはマネできません。


PR TIMESは現在、地方銀行などと13件もの業務提携を締結しています。ただ、その中には会社代表の私が自分でまとめた案件は1つもありません。すべて社員がまとめてくれた案件です。そして社員が業務提携の発表会を開き、SNSに投稿して情報を拡散する。そんな状況になっています。

最後に、最近のニュースの中から、私にとって特に印象深かったものをご紹介します。国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、太陽光発電によって生み出されたエネルギーの量は、「これだけ伸びるだろう」と当初予測された値を大幅に上回るペースで成長を続けています。

1980年に電話会社のAT&Tがコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーに携帯電話の普及台数を予測してほしいと依頼したところ、2000年にはアメリカで90万台ほどになるだろうと予測しました。実際は、1億台ほどに到達しています。誰かが情熱を持って行動すれば、専門家が予測する以上のニュースが、どんどん生まれていきます。皆さんの中からも、そうしたニュースが生まれてほしいと願っております。