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広報がいつも自社商品の後ろに隠れている必要はない。“シキ子”としてメディア露出し、「コップのフチ子」をPR

DATA:2014.10.01

  • 正式非公認キャラの“コップのシキ子”としてメディア露出。ファンとの距離が近くなった
  • 企業側の人ではなく、ファン側の仲間という意識でファンと交流
  • 独学での広報活動に不安。PR TIMESに助言を求めようと定額配信プランを利用

コップのフチなどに引っ掛けて楽しめるカプセルトイ「コップのフチ子」がOL層を中心に人気です。フチ子の写真を集めた書籍が発売されたり、イベントが開かれたり、映画館で流れるマナー啓発短編アニメが作られたりとただの玩具にとどまらないブームが広がっています。

そんな中、「コップのフチ子」と共に「コップの“シキ子”」さんが話題になっています。シキ子さんは、フチ子を手掛ける株式会社奇譚クラブの広報担当者。コップのフチ子正式非公認キャラで、イベントで司会をしたり、雑誌に連載コーナーを持ったり、ラジオ番組に出演したりとフチ子に負けないくらいの活躍を見せています。

シキ子さんは、どんなきっかけがあってシキ子さんとしての活動を始めたのでしょうか。シキ子として活動して得られたことなど、お話を伺いました。

その気になれば、やれるかも――。“コップのシキ子”が誕生した理由

どんな経緯から“コップのシキ子”を始めたんでしょうか。

 キャラクター業界の専門誌に広告を出稿する機会がありまして、社長から「好きなようにやりなよ」と任せてもらえたんです。

 これまでの広告は、当社の商品を紹介するだけ。それだけじゃつまらないので、何か工夫しようと思いました。

 考えてみたら、当社の人気商品「コップのフチ子」は人型です。「私でもその気になれば、フチ子になれる!?」と思いまして。自分でフチ子の衣装をまねして作り、同じポーズで写真を撮ってみたんです。

 以前から、実際に誰かがフチ子を演じたら、面白いだろうと思っていました。フチ子には既に独自の世界観があって、コスチュームも決まっています。そう思ってWebで検索してみたんですが、フチ子のコスプレをしている写真が出てこないんです。「これは公式が自ら率先してやってみせる必要がある」とも思いました。

 それで出来上がった広告のデザイン案を社長に見せてみたら、「すぐやれ」と(笑)。業界関係者の間で話題になったようで、それ以来、業界内のイベントに“シキ子”として呼んでもらえるようになりました。

最近はシキ子として、どんな活動を?

 イベントに参加させていただくほかに、雑誌編集者から「『シキ子のオススメ!』というコーナーを作るから、投稿してくれないか」と依頼されたこともありました。最近はシキ子としてラジオ番組に招かれることもあります。

シキ子は、線の向こう側にいる“企業の人”ではなく、こちら側の“仲間”

「おそれいりこだし」などのダジャレを交えたユーザーとのやり取りで有名な加ト吉(現・テーブルマーク)のTwitter運用の例など、シキ子さんのように、キャラクターを前面に押し出してユーザーと交流する企業が台頭しつつあるように感じます。
“シキ子”として広報する利点について、どのように感じていますか?

 “シキ子”として広報をしていて一番うれしかったのは、お客様からとても親しく接してもらえるようになったことです。フチ子のイベントは私が司会をしているんですが、シキ子になってから、以前よりもお客様との距離感が近くなったと感じます。

 “企業の広報担当者”としてイベントに参加するよりも“フチ子のコスプレをしている人”として参加した方が、フチ子ファンのお客様からしてみると気軽に突っ込めるんでしょうね。

 ファンの皆さんからしてみれば、線の向こう側にいる“企業の人”ではなく、線のこちら側にいる“仲間”だと感じてくれるようになったのかもしれません。

 そうやってお客様との距離を縮められたことで、あるファンの方が知り合いの雑誌編集者に「こんな面白い人がいる」と紹介してくれて、取材につながったこともあります。何の打算もなく交流していたファンの中に、実はテレビ関係者がいて、その縁からテレビに取り上げていただいたこともありました。

 他にも、お客様から「もっとイベントをこうしてほしい」といった声が届きやすくなったのも、私がシキ子になってから変わったところだと思いますよ。

コップのシキ子は、“正式非公認”。ファンの“仲間”だという意識を大切に

そうしたお客様からの声が届くようになると、うれしい反面、対応を間違えると炎上につながるリスクもあるのではないでしょうか。どういった点に心掛けながら、ユーザーとやり取りしているんですか?

 ファンの方からのメールの中には「フチ子のこの新商品は、ここがよくないと思います。その理由は……」と非常に丁寧に書いてあるものもあります。メールを読むだけでも、フチ子への愛が伝わってくるんですよね。

 それだけの愛情に対して、正面から向き合わないと不誠実です。そういったメールを頂いたら、私もできるだけ丁寧に「私自身、仰るとおりだと思います。けれど、こういう事情があって、新商品はああなっちゃったんです」と包み隠さず返信するようにしています。

 それこそ、「ファンの方から1000文字のメールを頂いたら、5000文字のメールにして返す」みたいな心構えで対応しています。最低でも倍で返しますね(笑)。

 お客様が本当に納得できる答えを返さないと、その場しのぎにしかなりません。企業にとって不都合なニュースでは、よく広報担当者が「コメントを控えさせていただきます」と取材に答えていますが、それではお客様の心証を悪くするだけだと思うんですよね。

 自社にとって都合が悪い情報であっても、包み隠さず誠実に明かすことで、お客様と良好な関係を築けるようになると私は考えているんです。

メール問い合わせへの対応以外に、Twitter(https://twitter.com/shikico_koho)などのSNSも運用していますよね。

 当社のSNSはすべて私が管理していまして、自由に運用させてもらっています。会社として、特にSNS運用のマニュアルを整備しているわけではありません。それでも、炎上したことは1度もないんですよ。

 SNSにしろイベントにしろ、気を付けているのは、“企業の人”ではなくてファンの皆さんの“仲間”として接することですかね。

 例えば、フチ子とカフェとのコラボイベントを開いたことがあります。驚くほどお客様が集まりまして、2時間待ちさせてしまうこともあるくらいだったんです。それで待たせてしまったお客様には、私の方から「暑い中、お待たせしてしまって、すいません」と1人1人にあいさつをしました。そうしたら、それが好印象だったようなんです。人として当たり前のことをしたつもりだったんですが、マニュアル重視の“企業の人”らしからぬ行動に見えたのが、よかったのかもしれませんね。

 私は当社の社員として、あるいは仕事の1つとして、シキ子をしているつもりはありません。やりたくてやっています! 名刺の裏にも「“コップのフチ子正式非公認”コップのシキ子」と記載しています。名刺にこのように印刷したのは、「会社公認のシキ子ではなくて、あくまで会社から離れて、フチ子のファンの1人として私個人が勝手にシキ子をやってるんだ」と伝えたかったからです。それくらい私は、“企業の人”ではなくて、ファンの“仲間”だという意識を大切にしています。

シキ子さんの入社まで、広報担当者不在。まずは全商品、プレスリリースを配信した

続いて、広報業務について質問させてください。シキ子さんは、前職でも広報を担当していたんでしょうか?

 私はもともと正式に広報として働いた経験がないまま、当社に転職してきたんです。以前はアニメ制作会社で働いていて、制作業務の傍らで、自分の担当するアニメに関するプレスリリースを書くくらいでした。

 いくらいい企画を立てても、いい作品・商品を作っても、広報がうまく伝えないと誰にも知ってもらえません。広報がどんな面を切り取って情報発信するかで、お客様にしてみたら作品・商品の見え方が変わってきます。ですから、広報の仕事はすごくクリエイティブだと興味を持っていました。

 そうしていたら、当社の代表からある日、「うちに来て、広報を担当しないか」と声を掛けてもらえたんです。翌日に前の会社に辞表を出して、翌月から当社で働いていましたね(笑)。

 そんなわけで入社当時、広報の仕事の進め方はまったく分かっていませんでした。それでも、とにかくまずは毎月発売している5種類の自社商品については、プレスリリースを全種類分書いてみようと思いました。それは今でも続けていますね。

プレスリリース配信を始めた手応えは?

 私が入社した当時と比べて、プレスリリースを記事として取り上げてくれるメディア数はかなり増えましたね。これまでに100以上のメディアに、当社のことを取り上げてもらえているはずです。

 私の目から見ても、当社の商品はニュースのネタになるものが多いんです。だから、私の入社以前にプレスリリース配信していなかったのは、ものすごくもったいないことをしていたと思いますね。

どのネタにどれくらい反応があるのか。定額プランでトライ&エラー

PR TIMESを利用しようと思ったきっかけを教えてください。

 それまで完全に独学で広報の仕事をしていたわけですから、仕事の進め方にどこか不安を持っていました。「広報業務について詳しく知っている方に、1度いろいろ教えてもらいたい」と思い、プレスリリースの書き方を教えてくれそうなところをWebで探してみました。それでPR TIMESのことを見つけたんです。

 いろいろと調べてみたら、PR TIMESがプレスリリース配信サービスとしてNo.1の知名度があるらしいと。それで問い合わせを入れてみました。担当者にプレスリリースの書き方を相談してみたら、サービスの一環として教えてくださるとおっしゃるので、1度使ってみようと思いましたね。

プレスリリースを何回配信しても料金が変わらない定額プランで利用されました。

 1カ月に最低でも5製品は出すので、「もうやめてくれよ、シキ子さん」と言われるくらい、プレスリリースを流してやろうと考えたんです(笑)。

 広報担当者として、「このタイプのネタは、あまり注目されないと思う。けれども、配信したらどれくらいの反応があるんだろうか」といろいろ試してみたい気持ちもありました。

 それで定額プランの利用中に、いろんなプレスリリースを流してみました。どんな内容だと注目されやすいか、広報としての経験値をためられたと思います。

PR TIMESを利用して、メディア関係者とつながりができた

実際に、PR TIMESを利用してみた感想を聞かせてください。

 一番よかったのは、メディア関係者とつながりができたことですね。配信するプレスリリースの最後に担当者名と連絡先を記載しておくと、直接連絡をくれるメディア関係者もいます。「この人たちは信頼できるから、何かあったときには必ず情報を流そう」と思って、そうして知り合ったメディア関係者の人たちとは、直接のやり取りを続けるようにしています。

 今もたびたび取材の依頼が飛び込んできますが、きっかけの多くがそこで知り合ったメディア関係者の人たちからのつながりのようですね。

「いろいろ教えてもらいたい」という理由からPR TIMESを利用しました。どんな点を教えてもらえたのでしょうか。

 一例を挙げると「プレスリリースの書き方が少し違う」と指摘していただきました。今は、手直ししてもらったプレスリリースを手本にして、原稿内容を作成するようにしています。

広報とはメディア相手の営業。相手の懐に入り込めるよう、意識していきたい

広報担当者としての今後の抱負を伺えないでしょうか。

 広報とは、「メディアを相手に営業を仕掛ける仕事」と私は考えています。

 メディア関係者を相手に、どうやって懐に入り込んでいくか。ネタ切れにならないように、どうやってネタを仕込んで情報発信していくか。そうした意識を持って、広報の仕事を続けていくつもりです。

シキ子さんとしては、どうでしょう。

 私、広報がいつも自社商品の後ろに隠れている必要はないと思っているんですよね。例えば、フチ子ではなくてシキ子名義の楽曲を発売してもいいと思うんです。シキ子の活動を面白がってくれる人がいれば、結果的にフチ子のPRにもつながるはずですから。

 「何をしているんだ!」というお叱りの意見も届くかもしれませんが、もっとシキ子の知名度も上げていきたいです(笑)。