ビジネスパーソンに聞く仕事術
仕事が終わって乗り込んだ電車、隣の席に座った人がスマートフォンを操作して、今日1日のニュースをチェックしている――。そんな光景が見慣れたものになってきましたが、そのとき、隣の人が使っていたアプリが「SmartNews」だった記憶はないでしょうか。 ニュース閲覧の定番アプリとして、第一人者としての地位を築きつつあるSmartNews。
各方面から注目を集める同アプリを開発・運営する企業だけに、スマートニュース株式会社からは、業務提携、新チャンネル開設のお知らせ、キーマン採用など、さまざまな動向がプレスリリースとして毎月何本も配信されています。 同社で広報活動の責任者を務める松岡洋平マーケティングディレクターは、さまざまな情報をプレスリリースとして配信する目的について、「自社の活動を全方位的にお知らせするため」だと語っています。 同社は、どのようなスタンスでPR活動に取り組んでいるのでしょうか。そしてメディア各社から注目を集めている同社は、どんなやり方で記者との関係を築いているのでしょう。松岡氏に同社の広報関連の取り組みについて聞いてきました。
貴社からは新機能のリリースやダウンロード数の記録達成のお知らせだけでなく、「新チャンネルをスタート」「○○のチームに××が参画」「△△との業務提携に関するお知らせ」など、幅広い情報をプレスリリースとして発信しています。その狙いについて、伺えないでしょうか。
ありがたいことに、当社は今、ユーザー、メディア関係者、事業会社で働くマーケティング/PR担当者など、さまざまな立場の人たちから興味を持っていただけています。
例えば、「阪神タイガース」チャンネルを開設したのなら、その情報を発信することで、阪神ファンのユーザーには「早速、登録してみよう」と思っていただけるでしょうし、阪神関連のニュース報道に力を入れているメディアには「記事を増やそうかな」と思ってもらえるかもしれません。
そういった形で、さまざまな立場の人たちに反応してもらえる可能性があるからこそ、自社の動向について、全方位にできるだけ丁寧にお知らせしていきたい。そう考えて、プレスリリースを活用し、自社の取り組みをできるだけ漏らさずに発信するように努めているのです。
さまざまな情報を発信している中でも、著名エンジニアの入社などを伝える採用関連のプレスリリースを配信しているところは、国内ではあまり例がない取り組みだと思います。
当社がプレスリリースを配信する大きな目的の1つとして、「採用につなげる」という点があります。
採用関連のプレスリリースについては、記事化されることを目的とはしていません。たとえ少数ではあっても、当社が採用したい人材の目にプレスリリースが触れて、「あの人が入社したのなら、自分も検討してみようか」と興味を持ってもらえるだけで十分なのです。
1つ、広報活動の方針として「全方位に」というキーワードが出てきました。
実は私自身の考えとしては、「全方位的」な広報活動が常にベストだとは思いません。
例えばメディア関係者に向けた情報発信なら、メディアごとに、もっと言えばメディア関係者1人1人に向けて、プレスリリースの見出しやメール文を変えるなどして、1人でも多くに興味を持ってもらえるように工夫するべきだと考えています。同様に、ユーザー向けに情報発信したいのなら、それに合わせた発信の仕方と経路を考えるべきでしょう。
ですが、当社の社員数はまだ50名程度で広報活動に取り組むのは私とパートタイムアシスタント、しかも私も専任ではありません。広報業務に割けるリソースは限られています。
それなら、現状のリソースで対応できる最善策は、プレスリリースを活用して、できるだけ漏らさず全方位に向けて情報発信していくことではないでしょうか。
自社に対するメディアからの注目度、社内のリソースなどは企業の置かれている状況によって違ってきますから、それぞれの企業の状況に応じた最善策を採るべきだというのが私の考えです。
「できるだけ漏らさず全方位に向けて情報発信していくこと」で得られた成果について、具体的な事例などがあったら伺えないでしょうか。
一例として、「スマートニュース、内閣官房と協力し『日本政府チャンネル』を開始」というプレスリリースを配信したときのことが挙げられます。
このとき、PR TIMESを使ってプレスリリース配信したこと以外に、メディアへの働き掛けなどは一切行っていませんでした。
ところが、プレスリリース配信から1週間で、なんと10万人が新しくできた「日本政府チャンネル」に登録していたのです。オンラインメディアが記事化したり、ブロガーが記事を書いて拡散されたりしたことが要因ですが、プレスリリースを配信したときには、まさか、これほどの反響を得られるとは思っていませんでしたね。
そのように思わぬところから、予想を超える反響を得られる可能性があるのが「全方位に」向けて情報発信するメリットでしょう。
ただし、小さな動向でも漏らさず過度に情報発信を続けていると、メディア関係者の中には「またニュースバリューの低いプレスリリースを配信してきて」と嫌がる人が出てくる恐れもあります。それでも、どんな反応があるかと事前に予測するのは難しいわけですから、遠慮したり出し惜しみしたりするよりは、出せる情報はできるだけ発信してくべきなのではないでしょうか。
プレスリリースの配信手段として、PR TIMESを評価している点を教えてください。
社内で広報に割けるリソースが限られているわけですから、管理画面からプレスリリースの内容を入力する方法が分かりやすいこと、配信したプレスリリースに対する反響を簡単に把握・分析できることなどを重視しています。
その点、PR TIMESの管理画面は分かりやすく、急な修正をアシスタントに依頼しても、使い方が直感的に分かるので説明の手間を省けます。配信結果の集計・分析に使うレポートページも洗練されたデザインで、非常に見やすいと感じています。
メディア関係者とつながりを深めるため、貴社で実施している施策として、プレスリリース配信以外にはどんな取り組みがあるのでしょうか。
6月に「SmartKitchen」という社食を整備したこともあり、メディア関係者を当社に招いて、社内でランチをご一緒させてもらっています。
ランチ中はメディア関係者と情報交換することになるわけですが、SmartNewsの仕組みと理念、そして新機能などの動向について最新情報を正確に理解してもらうこと、そして各メディアの編集方針や興味を持っている話題などについて情報収集すること、その2点を意識しています。記事化してもらうことは目的にしていませんし、お願いもしていません。
特に重視しているのは、前者です。スマホ向けのニュース閲覧アプリという変化の激しい事業を手掛けていますから、最新のユーザー数、ユーザー当たりの利用時間などは、少しでも時間が空くとかなり数値が変動します。
数カ月前に発表したデータのまま、記事として取り上げていただいては、誤った情報が拡散していく恐れもあります。メディア関係者には、常に最新の情報を把握しておいてもらいたいと思い、ランチをご一緒する際、丁寧に最新の動向やデータを共有するように心掛けています。
最後に、同じ広報という業務に取り組む読者に向けて、何かメッセージをいただけないでしょうか。
最近はメディア企業に限らず、事業会社もオウンドメディアを立ち上げて、独自にユーザーとの接点を増やそうとする試みが増えています。
SmartNewsの特徴として、さまざまなニュースソースから記事を収集し、魅力的な記事を選りすぐって掲載している点が挙げられますが、事業会社が運営するオウンドメディアも「さまざまなニュースソース」に含まれてきます。
SmartNewsには「チャンネルプラス」という各メディアやトピックの記事を1つのチャンネルとしてまとめて見られる機能がありますが、「クックパッドニュース」や「ぐるなび」などがオウンドメディアとして開設されています。もちろんチャンネル開設のハードルはかなり高く、個別の記事が取り上げられる保証もありませんが、まずは仕様など(http://about.smartnews.com/ja/publishers/)を確認していただければと思います。
また2014年12月からは、広告の販売を開始しました。広報担当者が自由に使える予算はあまり多くないかもしれませんが、オウンドメディアやオンラインメディアとのタイアップ記事に対して送客をかけたりという形で広報の方がSmartNewsの広告をご利用いただく例も増えており、コンテンツの質が良ければかなりの成果をあげているケースも少なくありません。B2B企業でも、キーワードターゲティングという仕組みを使って自社のビジネスに関係のあるキーワードが含まれる記事を閲覧したユーザーだけに広告を表示する機能も最近開始しています。こうした施策を組み合わせ、新製品発売などの自社の取り組みを、より多くのユーザーに周知することが可能です。
オウンドメディアが流行すればそれだけまた競争も激しくなる一方でリソースもかかってくることになります。目に見えないコストも含めて効率的に運用するために、うまく予算を組んで活用していくことが広報担当者には求められています。
おかげさまで、SmartNewsは多くのユーザーにご利用いただけるニュースアプリへと成長することができました。オウンドメディアへの集客や広報活動の支援など、さまざまな形で企業のマーケティングや広報の活動をお手伝いできるポテンシャルを秘めていると思いますので、ぜひSmartNewsを活用して業務に役立てていってもらいたいです。