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頭がパンクするほどの挑戦を「and factoryらしく」伝えたい。家庭にも生きる広報術とは?

  • 佐藤裕美(and factory株式会社 Corporate Division)

DATA:2019.08.22

  • スピードを意識するベンチャー企業の広報だからこそ時間の制約を超えられる
  • 家庭でも広報術を応用?家事の意思決定もスムーズに。
  • プレスリリースは2万PVを達成

子育てと仕事を両立する多忙な毎日を送りながら、広報のスペシャリストとして自らも成長したい。多くの「ママ(パパ)広報」にとって、それは共通する思いではないでしょうか。and factoryの広報である佐藤裕美さんも、そんな思いをもって日々広報の現場に立つ一人です。もともとは日本の大手メーカーに在籍していましたが、14年に3児が生まれたことをきっかけにして、当時まだ20名にも満たない同社にジョインしました。現在同社は同社は大手出版社と協業するマンガアプリやIoTホステルなど他領域で事業を展開。昨年には会社設立4年でマザーズ市場に上場を果たしています。

広報としての多忙な毎日を楽しむ秘訣を伺う中で、家事や育児にも生きる「広報術」についてお話が及びました。佐藤さんは、どのようにして子育てと仕事の両立を実現しているのでしょうか。詳しくお話を伺ってきました。

子どもに誇れる仕事を志望し、子連れで最終面接へ

佐藤さんはどのような経緯からand factoryに入社したのでしょうか?

佐藤:前職は、大手日系メーカーの広報でした。とても働きやすく、みなさんプロダクトにもブランドにも誇りをもって事業を回していました。その一方、ひとりひとりの裁量権やスピード感に対しては、大きな組織だからこそ希望通りにならないこともありました。

3人目を出産して育休が明け、職場復帰するタイミングで「子どもたちと過ごす時間を割いて仕事をしている」ことを強く意識するようになったんですよね。子どもたちに対して「母さんはこんなチャレンジをしてるんだよ!」と誇れる仕事をしたいと感じるようになった。その頃から、もう少しコンパクトな組織で、かつ一人の裁量が大きなベンチャーでの仕事を志望するようになりました。

and factory株式会社 佐藤裕美さん

その中でも、and factoryを選んだ理由はなんですか?

佐藤:実は、and factoryの最終面接で、ある事件が起こったんです。この日、いちばん下の子を保育園に預けて面接に向かう予定だったのですが、子供が風邪をひいてしまい保育園に預けられなかった……。どうしようかと考えた末、面接の担当者に連絡し「子連れで面接に行っていいですか?」と相談をしてみたんです。すると、「佐藤さんが良ければ、こちらは問題ないですよ!」と、すぐにOKしてくれました。病院での診察を終えて体調も安定していたので、末っ子を抱いて最終面接に向かったんです。

子連れで最終面接というのは、佐藤さん自身も想定外でしたよね。

佐藤:はい、そうですね。そして無事に採用通知をいただくことができました。他の企業からも打診はあったのですが、イレギュラーが起こるかもしれないプライベートの状況を理解した上でand factoryは受け入れてくれました。この会社なら「母ちゃんかっこいい」と子供たちに思ってもらえる仕事ができるのではないかと思い、入社を決めたんです。

今も、会社の食事会やパーティにも子連れで参加しています。そんな私の姿を通じて、周囲の社員も「子育てと両立しながら、時間的制約の中で仕事をしている」ということを理解してくれます。オープンにしていくことで、仕事も上手く回るのだと感じています。

転職にあたっては、長時間勤務など心配はなかったのでしょうか?

佐藤:面接の段階で、時短勤務が前提となることを伝えていましたし、家族のサポートがそんなに手厚くないことも会社は理解してくれていました。なので、不安はなかったですね。

and factoryでは、4つのコアバリューとして「スピード」「クオリティ」「チャレンジ」「チームプレイ」を掲げています。短時間でハイクオリティなものを出すというのがand factoryらしさ。非常にハードな環境ではありますが、スピード感があるので、時間の制約があっても仕事がしやすいんです。制度や環境はニーズに応じてどんどん構築していっている感じです。


情報が見透かされる時代。目指す未来を丁寧に届ける

そんなand factoryで、佐藤さんは広報として活躍されています。広報とはどのような仕事だと捉えていますか?

佐藤:広報の仕事は、自社のプロダクトやコーポレートイメージなどが、いつまでにどういった状態で認知されるべきかというゴール設定をし、どのような情報伝達経路で、誰に届くのかを逆算する。そして、そのために戦略的に情報を発信していく仕事だと考えています。その中には、社内報を使って「うちの会社はこういうことを目指している」と伝えることも含まれますし、まだ見ぬ採用候補者に対して「and factoryは裁量のある職場なんだ」と伝えることも含みます。

広報・PRの仕事というと、マスメディアに取り上げていただく業務として認知されやすいですが、それはあくまでも手段のひとつに過ぎません。広報のあり方は、以前に比べてとても多様化していますし、私もいろいろなことにチャレンジしたいと思います。

「広報」という仕事の内容も、時代によって変わっていく、と。

佐藤:はい。特に、近年は「盛って」発信しても、見透かされてしまう時代です。飲食であれば「食べログ」、求人であれば「OpenWork」などのように、リアルな声を元にしたサービスは増えつつあり、企業が発信していることと実態とに差がある場合、非常にネガティブに捉えられてしまう。そんなギャップを生まないためにも、情報を「盛る」のではなく、本質的な部分や目指していく未来を丁寧に届けていくことが大事だと思っています。

従来と比較すると、佐藤さん自身としては広報の仕事がやりやすくなっている感覚はありますか?

佐藤:そうですね。広報の概念が多様化してきたことで、以前よりもはるかに選択肢が増えました。また、and factoryの場合、社員など周囲の人々が広報機能を支えてくれています。自社サービスを心から応援したいと思っている社員が多く、私がPR TIMESでリリースを掲載すると、多くのメンバーがプライベートのSNSで拡散してくれます。「自分たちの会社、おもしろいから読んでよ」という気持ちで積極的にシェアをしてくれるんです。


それは広報としては嬉しいことですよね。

佐藤:みんな、頭がパンクするくらい考えて日々チャレンジをしているからこそ、同僚のチャレンジに対して敬意を持ち、「応援したい!」という気持ちが強いんですよね。ただ、他の社員が頑張っていることが伝わらなければ、そういった応援をする気持ちにはなりません。「この人はこういうことを頑張っている」「この人はこういうキャラクターの人」といった情報を社内に共有していくことも広報の仕事のうち。その結果、それぞれの想いを理解してチームプレイが生まれると考えています。

大切なのは「誰に何を届けるか」家庭で実践した広報術とは

and factoryさんの協力し合う風土について伺いましたが、3人の子供を育てながら多岐に渡る様々な広報業務を行うことについて、どのように工夫されているのでしょうか?

佐藤:大変な面もありますが、私自身、仕事もしているからこそ私らしくいられると感じます。よく「子供がいるのに働くのって大変ですよね」と言われるのですが、私としては仕事を取られるほうがはるかに苦痛です。かわいい子供が3人もいるだけでハッピーなのに、自分が素敵だと思う仕事ができる。それって、ダブルでハッピーなことじゃないですか。

工夫というか、大事にしているのは、あまり一人で抱え込まないことですね。以前は、家事育児を完璧にした上で仕事をするという固定概念に縛られていました。しかし、子育ては私だけがやるべきことではありませんよね。チャイルドケアに関してはシッターさんの方が専門家だし、教育に関しては夫の方が感度が高いかもしれない。

and factoryではチームプレイというバリューを掲げていますが、佐藤家では、家事育児についてもチームプレイでチャレンジをしていく方針なんです。以前、家事や育児について、全部スプレッドシートに書き出し、工数を算出しました。そして、夫の担当と私の担当を色分けしてグラフで比率を出したんです。家事・育児のタスクを可視化することで、夫に、佐藤家を運営するためにはこれだけの工数がかかっていると把握してもらったんです。

すごく面白いですね(笑)詳しく聞かせてください。

佐藤:家事や育児はどうしてもブラックボックス化しがちで、夫は私が何に困っているかがわからず、私のイライラの原因が伝わっていなかった。家庭運営の全体像を可視化することで、夫に対して、私が何に困っているかを把握してもらいたかったんです。その結果、「ここはアウトソーシングしてもいいのではないか」「ここはクオリティを担保しなくていいのではないか」という会話ができるように変化しましたね。

家事・育児をひとつのプロジェクトのように捉えているんですね。

佐藤:はい。そして、そこには広報としてこれまで培ってきた経験が生きています。広報のしごとは「いつまでに誰にどんなメッセージを届けるか」が基本ですよね。私の状況を夫に把握してもらうことによって、夫との間に、家庭という組織を運営するパートナーシップを築くための情報発信をおこなった。それが我が家ではうまくいったかなと思います。


従来型の広報は、どれだけマスメディアに出して、どれだけのリーチを獲得して、広告換算値がいくらになったかをチェックするようなものとしてとらえられることも多かったですが、本質としては、ターゲットに適切なメッセージを伝えて、行動変異を起こすことだと思います。それを家庭の中で行うと、スプレッドシートを書いてタスクを可視化して伝えるという形になったんです。

なぜ、2万PVを獲得するリリースが生まれるのか?

and factoryが掲載するプレスリリースは他の企業の平均(※1)よりもはるかに多くのPV数を獲得しています。どのような工夫をされているのでしょうか?

佐藤:去年は半年間で27本のプレスリリースを配信し、平均では5千くらいのPVを獲得しており、いちばん見られたリリースは2万PV程度です。また、単にPVを獲得できただけでなく、PR TIMESで情報発信した後は、協業のご依頼や広告出稿のご依頼などで弊社のinfoアドレスにお問い合わせが数多く舞い込みます。届けたい人にリーチをしている証拠かなと感じていますね。

読まれるリリースをつくるため工夫していることは、メイン画像の選定やタイトル付けです。この点は非常に気を使っています。特にSNS拡散時のOGPとなるメイン画像は大事にしています。プレスリリースを配信する際のPR TIMESの管理画面で確認ができるヒートマップや流入経路なども毎回確認し、参考にしています。

Wantedlyのブログでは「タイトルにハッシュタグを入れる」といった工夫も語られていました。タイトル、サムネイルなどの工夫が、生活者に「届く」リリースを生んでいるんですね。

佐藤:PRTIMESは「企業とメディア、そして生活者をニュースでつなぐプラットフォーム」と掲げていらっしゃるとおり、メディアを通じてご覧いただくだけでなくPRTIMES自体が情報プラットフォームとなっていると感じています。

なかでも近年、印象深い成功事例はありますか?

佐藤:この半年で一番PVの高かったプレスリリースは「IoT学生寮」いう、学生寮にIoT機能を実装したことをお知らせしたものでした。SNSで拡散されたわけではないのに、なぜそこまでPVが上がったのかを分析したところ、NewsPicksさんからの流入が多かった。PR TIMESというプラットフォームからさらにNewsPicksへと波及(※2)していく流れによって、新たなリーチが生まれているように感じますね。


今後、and factoryではどのような広報を展開していきたいと考えていますか?

佐藤:弊社は、まだまだ一般的な認知がそこまで高い会社ではありません。「&AND HOSTEL」や、「マンガPark」、「マンガMee」といった個別のプロダクトは認知されても、社名に紐付いてはいません。そのため、何かのアワードを取るような施策をはじめ、社名が認知されていくような施策を打っていくことを考えています。

ただ、先程申し上げたように、どんなにきらびやかに着飾っても、メッキは剥がれやすい時代になっています。だからこそ、「and factoryらしさ」を意識しながら届くべき人に届けていきたいですね。わたしたちのミッションは「日常に&を届ける」です。ステークホルダーに対して「and」を届けてその生活を豊かにしていくためにも、丁寧に情報を届けていくことを大切にしていきたいと思います。

(※1)PR TIMESに掲載するプレスリリースページのPV数を全体平均と比較
(※2)NewsPicksはPR TIMESの提携メディアの1つで、掲載基準を満たす「話題のプレスリリース」が掲載されます

取材・文: 萩原雄太 撮影:門脇勇二