ビジネスパーソンに聞く仕事術
OUR WORKS 110PR TIMES
DATA:2020.08.12
2020年5月にローンチされた、PR TIMES STORY。その中でひと際注目を浴びたストーリーがあった。老舗ニット小物メーカーの石川メリヤス社の「ニット製プリーツマスク開発秘話」だ。
国内各社の新規参入などにより、ようやくマスクの需給のバランスが正常化しつつある現在でも、同社の縫い目がないニットで編まれたマスクは肌触りや、工夫を凝らしたプリーツの効果もあって、夏場でも「暑くない」「苦しくない」着け心地で、不織布や手作りのマスクとは一線を画す。
この新しいマスクの開発秘話は、生産量が追い付かなくなるほどに多くの生活者・メディアから反響があったという。今回は、社長の大宮裕美(おおみや・ゆみ)さんに同社のストーリーを生み出すプロセスやPR戦略などについて話を伺った。
まずは石川メリヤスという会社について教えてください。
大宮:石川メリヤスは、ニット小物を製造・販売している社員30名ほどの会社です。地元に多い自動車関連産業の工場でも使われている作業用手袋を中心に取り扱っており、1957年に祖父が創業、その後父に続き、3代目として私が事業を継承しました。
ご家族で守ってこられた会社なのですね。代々経営する中で大事にされてきたものはありますか。
大宮:自宅と工場が同じ敷地内で隣接しているため、家族が集まる食卓にのぼる話題も、やはり家業にまつわるものが多くありました。そんな環境で、幼い頃から聞かされてきたのが、「メーカーの基本は何よりも品質」ということ。使う人のことを考え、使う人のためにある「ユーザー目線のものづくり」が、我が社の軸であり理念です。
本題の「ニット製プリーツマスク」が生まれたきっかけを教えていただけますか。
大宮:今年の2月中旬から、マスク不足が叫ばれるようになって、社員が工場内で使うマスクすら仕入れにくくなってきました。そこで、マスクを試作してみようかということになったのです。
編み機のメーカーが提供している専用データを買い取って編んだオーソドックスなマスクの2種類を第一弾として作ってみたものの、正直、売れるとは思えず消極的でした。
第1弾の評判はいかがでしたか?
大宮:市場のマスク不足に支えられて、当初はそれなりに売れました。しかしマスクそのものは、さしたる特長がなかっただけに、市場にマスクが出回り始めた5月になると、ガクッと売れ行きが低下。外回りの社員からも「うちのマスクは暑苦しくて着けていられない」と他社製のマスクを着用していました。
主力商品の作業用手袋は、5月・6月になってもコロナの影響で売れ行きが芳しくなく、他事業への挑戦から手を引くわけにはいきませんでした。改めてマスク市場に挑んでみるべきだと考え、そこで第2弾として開発・発売したのがPR TIMES STORYでも発信したニット製プリーツマスクでした。(実際のストーリーはこちら)
PR TIMES STORYを配信した際に大きな反響があったと伺いました。元々広報活動に力をいれていらっしゃったのでしょうか。
大宮:はい、PR TIMES STORYの記事をきっかけにForbesさんを始めとする多数のWEBメディアやテレビ局から問い合わせや掲載をしていただくなど、従来はなかった大きな反応がありました。
実は、これまで広報活動を積極的に行っていなかったのですが、3代にわたって培ってきた「ものづくり」を広く社会に対して広めていく必要性を強く感じていました。そこで、ライターをしている夫を広報部長に起用したのが、今年の1月です。
しかし、当初は二人とも、何から始めたら良いか分からない状況でした。そんなとき、PR TIMESを知人から教えてもらい、まずはプレスリリースを書くところから始めました。ちょうどそのタイミングでPR TIMES STORYも使用してみました。
我が社は、どちらかというと消費者に対して、直接製品を提供するBtoCではなく、販売会社に対して製品を卸すBtoBが営業活動の主力です。とはいえ、販社から選ばれる工場(メーカー)を目指すためには、「石川メリヤスなら間違いない」と感じてもらえるブランディングや広報が欠かせないと考えるようになりました。
「選ばれる工場」を目指すために、広報に欠かせない視点とは?
大宮:最近、ある本を読んで、なるほどと感じたことがあります。その本には、世の中にあふれているどんなに良い商品も、結局は似たり寄ったりといえる。その商品を作リ上げた背景や意味といった「ストーリー」が見えないと使い捨てに終わり、長く続かないといった内容です。選ばれる工場を目指すためには、培ってきたものづくりの背景にあるストーリーを発信していくべきだなと。
我が社のものづくりにも、ああでもない、こうでもないと、試行錯誤を繰り返した苦労などのストーリーが、やはりあります。これまでは、商品開発にまつわるエピソードを営業時のトークなどで披露することはあっても、文章としては残してきませんでした。これを広く伝えていかないともったいないと感じていました。
初めてのストーリー執筆はどのように行ったのでしょうか?
大宮:本腰を入れてマスク開発をするにあたって、社内からメンバーを募り、「マスク会議」というものを立ち上げたのですが、広報担当の夫にも立ち上げ当初から参加してもらいました。直接ものづくりに携わってこなかった第三者の視点で追ってもらい、その他にもマスク会議に参加した社員や製造に携わった技術者に会って、20分程のヒアリングも行っていたようです。
そもそも、なぜ私がニット製プリーツマスクの開発を思い立ったかなどのエピソードは、自宅での食後に交わした雑談の中から拾ってくれたところもあります。
身近なところからエピソードを拾っていらっしゃったんですね。
大宮:はい、技術者へのヒアリングや、私と交わした雑談の中からとにかく具体的なエピソードをたくさん欲しがっていましたね。また、STORY執筆時にも「外交担当」と飾らずに、社内用語の「外回りさん(=内職スタッフ担当の社員)」という言葉を使ったところも、たくさんの読み手に興味を持ってもらえるきっかけになったようです。
丹念な取材だったんですね。STORYで活用してみて「よかった」と感じたのはどのようなことでしたか?
大宮:やはり、スピード感でしょうか。今回のニット製プリーツマスクが持つ「暑くない」「苦しくない」という機能性は、本格的な夏を控えたタイミングで広報できなければ意味がありません。カタログやパンフレットで細く長く訴求を図るのも大切ですが、今回は初めて、訴求のタイミングを重視した広報ができたと感じています。
また、これまでにない大きな反響をいただいたこともあります。Yahoo! ニュースにも掲載されたのですが、読み手のコメント(ヤフコメ)が社内で反響を呼びました。このマスクに好意的な読み手と否定的な読み手が議論を戦わせていることもあれば、応援メッセージもあったりして。
私たちの知らない人が私たちの知らないところで、私たちの製品に興味を示してくれた事実がよくわかって、社員たちも驚いていたようです。「本当に私たちのことなの?」「面白いね」と感動する声を聞きました。
ただ生産数が限られているだけに、注文が殺到してしまうと迷惑をかけてしまいますので、テレビ局の取材は、残念ながらお断りすることにしました。そこは、冷静な対応ができてよかったと思っています。
最後に、今後の展開についてもお聞かせください。
大宮:コロナ禍の影響で、消費者の行動が変わりつつあるといわれていますが、今後も私たちは、BtoBでの卸しを中心に据えつつも、BtoCで直接、消費者へ商品を届けるところにも取り組みたい考えです。
今後は、プロ向けの作業用手袋(ストーリー)や、オーガニックコットン・シルクのマスクなど新しい商品の展開も考えていますので、ますます広報に力を入れていきたいと考えています。
また、魅力的な商品作りも欠かせないですが、やはり石川メリヤスのブランディングが大切になってきます。「石川メリヤスなら間違いない」と感じてくださるファンをどんどん増やしていける仕組みを作っていき、卸の問屋のみならず、消費者からも「選ばれる工場」を目指したいと思っています。そんな石川メリヤスへの成長を目指して、今後もさまざまな形で広報に力を注いでいきたいと考えています。
取材・編集=田代くるみ@Qurumu、執筆=前田昌宏 ※本取材はオンラインで実施した内容です。