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“点ではなく面で捉えるPR”をスタンダードに。ミクシィのプロダクトPRを担うチームづくりとは

  • 下田 健二朗(株式会社ミクシィ PRグループ マネージャー)

DATA:2019.10.10

近年、様々な分野で急激な環境変化が進む中、PRのあり方も大きく変わってきている――。メディアを媒介とするコミュニケーションが中心だった企業と生活者との距離は年々近くなり、情報が消費されるスピードは加速。既存の手法を繰り返すだけでは太刀打ちできない…そう肌で感じている広報・PRパーソンも多いのではないだろうか。

株式会社ミクシィ PRグループ マネージャー 下田 健二朗(しもだ・けんじろう)さんも、大きな変化の渦の中で新しい挑戦を続けるPRパーソンの一人だ。「ミクシィ社のステートメントである『ユーザーサプライズファースト』を堅持し、“点でなく面のPR”をチームで実現していきたい」と語る下田さんは、ミクシィ社が手がけるプロダクトのPRを担うチームを、どのようにつくり、育てていったのか。下田さんの実践するPRチームの組織づくりや教育を兼ねた事例研究について、PR TIMES営業戦略グループの小暮 桃子(こぐれ・ももこ)と共に詳しくお話を伺った。

スマホゲームから家族向け写真・動画の共有アプリまで。多分野をカバーするミクシィ社のPR体制

現在、PRチームはミクシィ社の中でどのような役割を担っているのでしょうか?

下田:私たちはコーポレートコミュニケーション部PRグループに所属し、現在11名のチームメンバーでミクシィ社が運営するプロダクト全般のPRを担当しています。プロダクトは「モンスターストライク」に代表されるスマホアプリはもちろん、関連したアニメ・映画、eスポーツ、グッズ・ストアといったエンターテインメント事業、そのほかにもサロンスタッフや美容師と直接繋がって予約までできるアプリ「minimo(ミニモ)」、家族向け写真・動画共有アプリ「みてね」などのライフスタイル事業など多岐にわたります。それぞれユーザー層も違えばプロダクトのフェーズも様々ですので、現在は各プロダクト・事業に担当者をつけてPRサポートを行う体制をとっています。

株式会社ミクシィ 下田 健二朗さん

小暮:PR領域が幅広いですよね。プロダクトごとの担当制にしたのは何故でしょうか?

下田:仕事の効率化と質の向上を、同時に叶えるためです。ミクシィ社は事業が幅広いことに加え、一つのプロダクトに紐づく取り組みもグッズ販売やイベントなど幅広い。各プロダクト担当者一人ひとりが責任を持ち専門性を磨くことで、領域が広くても仕事の質を向上させたいですし、同時に効率化も図っています。

小暮:ミクシィ社では、プロダクト関連だけでも年間150本以上のプレスリリースを出していますよね。これも効率化を推進してきたひとつの成果なのでしょうか?

下田:効率化によってプレスリリースの数を増やせたこともひとつではありますが、実は別の理由で意図的に本数を増やした経緯があります。僕がミクシィ社に入社したのは2017年ですが、当時大きな課題だったのがPRチームと事業部の連携でした。当時のPRチームは事業部側から「プレスリリースを出すために通過しなければいけない場所」という“機能”にしか捉えられておらず、社内の関係構築が上手くできていなかったんです。

事業部の情報のキャッチアップもスムーズにいかず、突然依頼がきて対応するような状況。そのような状況では、メディアを通して認知してもらうPR活動もままならないし、その先にあるプロダクトへのパーセプションチェンジ(認識変容)やビヘイビアチェンジ(行動変容)を狙ったPR活動を行っていくには、このままでは難しいなと思いました。

そこで、はじめに対社内との関係構築を重きにおいた活動に取り掛かろうと考え、プレスリリースを関係構築のツールとして活用しました。事業部とPRチームでプレスリリースを一緒に書き上げていく“共創体験”を増やしていくことで、信頼関係をつくろうとしました。「どんなネタを作ったほうがいいのか、どんなプレスリリースなら、より多くの人に届けられるのか」を一緒に考えて、何度も試行錯誤する過程を通して、コミュニケーションが円滑になったのはもちろん、相談いただける機会が増え、こちらから投げかけなくとも情報が集まってくることが増えていきましたね。現在の“PRチーム主導でPR活動を行う”基盤をつくることができたと思います。

スキルも経験も異なるメンバーをまとめながら、PRチームとして成長するには

現在の体制を敷いている背景には、2年前の試行錯誤があるのですね。下田さんが考える今のチームの特徴や、大切にしている考え方はありますか?

下田:僕たちのチームは、スキルも経験もバラバラの11名が集まっています。他の事業会社での広報経験者やPR会社にいたメンバーもいますが、新規事業部からの異動や元ライターなど、PRの業務は未経験というメンバーも多いです。ただ、その分多種多様な経験を持っているメンバーなので、僕としてはそれぞれが持つ経験を生かしてもらえるようにチームメンバーのアイディアにはしっかり耳を傾けるようにしています。目的を達成させられるのであれば、既存のやり方にとらわれずニュートラルに判断するべきだと思っています。


また、メディア掲載だけを狙った活動を行うのが我々のPR活動ではありません。PESOモデル(※1)でいう、アーンドメディア、シェアードメディア、ペイドメディア、オウンドメディアを組み合わせたPR設計も非常に重要です。たとえば、プレスリリース配信後にメディア掲載された記事を、自社やコラボ先のSNSでどのように活用するかであったり、メディア掲載が難しい場合には、ペイドメディアを起点にして、どのように話題にするかであったりと、その時々に合わせてプランニングしています。

またメンバーの成長に合わせて、「メディア掲載という“点”で考えられるようになったら、次は継続してメディア掲載を狙うよう“線”で考える。それもできるようになったらPESOを組み合わせ、情報流通構造を駆使した“面”でのプランニングができるように」などとフィードバックしています。 こうした“点ではなく面で捉えるPR”の考え方を大切にしていますね。僕自身もそうですし、チームメンバーにも常に意識してほしいと思っている考え方です。

小暮:一過性の認知で終わらせないために“点ではなく面で捉えるPR”は大切な考え方だと思います。その考え方をチームメンバーに教育するために、下田さんが工夫されていることがあれば教えてください。

下田:各担当のPR企画はすべて目を通すようにしていますので、日々のフィードバックで常にその考え方を伝えるのはもちろん、定例会議でも時間を取ってレクチャーしていますね。メンバーが主体的に他社のPR事例を研究して意見を求められることもあるので、そこでディスカッションをすることもあります。
もう一つは、アイディアのネタになる引き出しをどのくらい持っているかは大事だと考えているので、気になるプレスリリースや面白い施策、話題になっていることを見つけたら社内コミュニケーションツールで使用しているSlackでシェアしています。

プレスリリースは情報の出発点。事例の宝庫であるPR TIMESを研究対象に

積極的にチームで事例研究・共有をしているんですね。プレスリリースをそこでも活用していると。

下田:そうですね。“点ではなく面で捉えるPR”を実践するには、情報の流通構造をよく理解することが重要です。プレスリリースは情報の出発点。事例研究の際には必ずチェックします。
プレスリリースをうまくつくれないということは、情報設計ができていないということ。既存のフォーマット自体にこだわらなくてもいいとは思いますが、どんなに手法が増えていっても軽視できない重要なツールだと考えています。


事例研究で確認するポイントは、サムネイル画像とキャッチコピーはもちろん、どういうプレスリリースが世間の注目を集めているのか、いつどのように情報が拡散されているのかという点。これらの情報の流通構造・届け方をチームで研究しています。

研究する上で欠かせないのは、やっぱりPR TIMESですね。何か詳しく知りたいことがあったときは、まずPR TIMESで検索しています。多種多様なプレスリリースを見ることができるので、事例の宝庫だと感じています。PR担当者だけでなく生活者にも見られているので、生活者の目を引くような斬新なアイディアが見つけやすいんです。

最近、特に面白いなと思ったのは「睡眠の寝具 うどん」のプレスリリース。上手く設計されている事例を発見すると、「あー悔しいな」って思いますね(笑) 。新しいプレスリリースのかたちができ始めていることを感じますし、プレスリリースの在り方をPR TIMESさんが変えていっているんだな、と思います。


小暮:ありがとうございます。たしかに、正確な情報を正確に伝える技術や、分かりやすい文章・構成などこれまでの正攻法ではなくても、注目を集めたり話題になったりするケースが増えてきたと思います。ただ当社がプレスリリースを変えたというよりは、お客様が能動的にプレスリリースの可能性を追求されてきたという感覚のほうが強いですね。

内容だけでなく情報流通の仕方にもこだわった自社のプレスリリースがあれば教えてください。

下田:そのようなケースでいうと、少し前の事例になりますが「築地銀だこ」×「モンスト」キャンペーンですね。
このプレスリリースは通常の配信に加え、ゲーム内にでてくる「運極」のキーワードが書かれた爪楊枝を作り、箱にプレスリリースというシールを貼って、メディアの記者さんにお渡ししました。単にプレスリリースを出すだけでは、キャンペーン告知の記事内容にとどまってしまうと思うのですが、記者さんが体験レポート記事を書きたくなるような仕掛けをつくった事例です。実体験のレポート記事によって、メディアの先にいる読者の態度変容も一層促すことを狙いました。

「運極」のキーワードが書かれた爪楊枝

ほかにも、暗闇で文字が浮かび上がってくるプレスリリースなど、実現できなかった大胆なプレスリリースなどもありました。ただ面白くキャッチーなことがやりたいというのではなく、どのタイミングにどのようなメディア掲載があると態度変容を促せるのか、逆算していく過程で生まれてきたアイディアです。

「ユーザーサプライズファースト」で、枠を壊すチャレンジを。新たな業界のスタンダードを生み出したい

PRチームの関係性構築や、枠にとらわれないPRにチャレンジし続けている下田さんですが、今後実現したい「チームのあり方」はございますか。

下田:PR TIMESさんが生活者にプレスリリースを直接届けられる仕組みをつくってくれたこともあり、プレスリリースのあり方は大きく変わってきていると思います。だからこそ、今までのプレスリリースの枠を壊すような事例も出てきている。

ミクシィ社のPRチームも新しいPRのトレンドの中で、ロジックに基づいて戦略を持ちながら常に新しいことに挑戦して行きたいです。あとは、PR設計している自分たちが楽しい・ワクワクするというものでなければなりません。メンバーには「もう下田は必要ない」と思うくらい、主体性を持って動けるようになってほしいですね。社内外から信頼が寄せられる、プロの自覚を持ったPRパーソンに育ってほしいなと思います。

今後、PRパーソンとして下田さんが挑戦していきたいことはありますか?

下田:繰り返し言ってきた“点ではなく面で捉えるPR”を、僕らのチームだけでなく業界のスタンダードにすることです。Twitterで広報難民の人をよく見かけるんですが、僕自身も広報になりたての頃は情報がなく、手探りでした。実際、Twitterでbosyuを活用してPRに関する情報交換の募集を行った際には多くの方から連絡をいただきました。同じように困っているPRパーソンたちのためにも、チャレンジしてきたことを成功事例・失敗事例にまとめて伝えていきたいとも思ってます。

実務担当者でなくてもPR思考や手法が広く伝わることで、これまで埋もれてしまっていた良いプロダクト・会社が見えやすくなる世界になる。それって素敵だと思いませんか?そんな世界のために挑戦を続けて、ミクシィ社だけでなく業界にも貢献していきたいですね。

(※1)PESOモデル:生活者が接触するメディアを分類したもの。ペイドメディア、アーンドメディア、シェアードメディア、オウンドメディアの4点を指す。


取材・編集:萩原愛梨 執筆:中西あゆ子 撮影:川島彩水