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<PR TIMESカレッジ vol.2 レポート>ブランドが変えること、変えないこと

DATA:2018.08.10

PR TIMESは、2018年7月10日 TRUNK (HOTEL)において、PR・コミュニケーション領域の最新動向が学べるプログラム「PR TIMESカレッジ vol.2」を開催いたしました。

第2回目となる今回は、株式会社小学館 CanCamブランド室 CanCam.jp編集長 高田 浩樹さん、株式会社インターブランドジャパン エグゼクティブディレクター 中村 正道さん、そして株式会社メルカリ PRグループ マネージャー 矢嶋 聡さんの3名をお招きし、「ブランドが変えること、変えないこと」をテーマに登壇していただきました。
それぞれが考える、ブランドとは? その講演の内容をポイントに絞ってお伝えいたします。

これからもCanCamが愛されるブランドであるために、わたしたちが「変えたこと」「変えなかったこと」(株式会社小学館)


株式会社小学館からは「CanCam.jp」編集長の高田浩樹さんが登壇。雑誌とウェブの両方に携わってきた経験を含め「CanCamが変えたこと、変えなかったこと」について語りました。

1982年に創刊され、今年で36年目を迎える「CanCam」。「I can campus」をテーマに現役の女子大生をリサーチし、流行っているものとこれから流行りそうなものを取り上げ、若い女性から絶大な支持を得ています。また近年では「CanCamナイトプール」など、社会現象となるようなブームのキッカケをつくりだすなど、トレンドセッターとしての地位を確固たるものにしています。

そんな「CanCam」が長きにわたり愛されるブランドであり続けるために、「『CanCam』とは何かをイチから考え直した」と高田さんは語ります。

雑誌は手段のひとつ


インターネットやスマートフォンの普及により、雑誌は今や情報を得るための手段の一つとなりました。

「雑誌ってなんなのか?を考えた時に、雑誌は伝えたいことを伝えるための手段であって、目的ではないという共通認識を持ちました」と高田さん。

雑誌業界で長く働いていると、最初は手段であったはずの「作ること」が目的化してしまう…。その認識をもう一度「雑誌は手段である」ことに戻し、自分たち自身のマインド変更を行う必要があったのだとか。

「生活者として考えてみてもやっぱり、雑誌は情報を得るための手段の一つにすぎないんです。スマートフォンが普及しているので、雑誌の他にウェブやSNS、あとはリアルイベントと、情報を得るための手段は数多く存在しています。“手段の一つである”この認識を持った上で私たちは、編集部の名称を、『女性メディア局CanCamブランド室」に変更しました。『CanCam』というブランドを軸にして、様々な手段でユーザーにメッセージを届けるという目的、仕事を明確化したんです」(高田さん)

どうやったらコンテンツがユーザーに届くか?


36年継続している雑誌編集部のマインド変更はそれだけでは留まらなかったそう。
名称を変更し、手段としての雑誌づくりをするようになり「どうやったらコンテンツがユーザーに届くのか?」というところを考えるようになったのだと言います。

「雑誌編集は忙しい。だから今まではコンテンツを作り、よし次だ、という感じで、コンテンツを作って終わりということが結構ありました。でも今は、雑誌、ウェブ、SNSなど情報の接点がたくさんあります。その全てをタッチポイントとして、20代の女性が可愛くなりたいとか、知りたい、楽しみだと思えるような情報を発信し、情報の最後の届き方というところまでを意識するようになりました」(高田さん)

また、雑誌を含めSNSやウェブ、リアルイベントなどさまざまなプラットフォームに合わせてコンテンツを最適化して配信することも心掛けているそう。

「プラットフォームにはそれぞれルールとシステムがある。それを熟知して戦略を立てるということ、ユーザーの動きやニーズを知って、そのユーザーが選択してくれる情報を配信することが大事だと考えています」(高田さん)

さらに、今の時代情報流通の担い手はメディアではなくユーザーであるため、ユーザーに情報を委ねるようにしていると話す高田さん。

情報過多の中でストレスを感じているだろうユーザーに、いかにストレスを感じずにポジティブに「CanCam」が発信する情報を選んでもらえるよう、どのプラットフォームにどういったコンテンツを置けば受け入れてもらいやすいのかは熟考していると言います。

数ある情報接点の中から「CanCam」だからこそ得られる情報に触れてもらい、「CanCam」というブランドを中心にプラスのマインドを作り上げる。長い歴史を持つ雑誌ブランドには今まで培ってきた資産があり、ファンも多い。だからこそ、雑誌ブランドが生活者の態度や変容を促して購買に繋げていけると考えたのだそうです。

ブレないターゲットとニーズを汲み取る姿勢


「CanCam」が愛されるブランドであり続けるために、「CanCam」が変えなかったことは「雑誌とウェブのターゲット」、「流行を予測すること」そして「ユーザーニーズを汲み取る姿勢」だと高田さんは続けます。

「よく質問されるのですが、ターゲットは20代女性で、雑誌とウェブで変えているところはありません。厳密に言えば、雑誌やウェブ、SNSなど、プラットフォームごとにどんな情報を置くかという意味では変えています」(高田さん)

また高田さんによれば、世の中の情報を集めてこれから何が流行るかを分析、予測すること、そしてユーザーとのあらゆる接点から彼女たちのニーズを汲み取る姿勢も変えていないそう。

「いわゆる私たちが読者と呼んでいる人たちと常に接して、情報ニーズを汲み取る姿勢も変えていません。インサイトには種類があるのですが、座談会やアンケート会、スナップなんかも行って話を聞く中でニーズを汲み取り、同時に情報収集も行っています。消費者は本当に正直なので、確証のない情報というのは絶対に発信しないようにしています」(高田さん)

また高田さんは「読者の皆さんと会い、熱量のこもったメッセージやエモーショナルな言動に、編集部は影響を受け、感性を磨かれている」と言います。メディアから読者へという一方通行の流れだけでなく、読者から情報や想いを受け取るというサイクルを、「CanCam」は作りあげようとしています。その真摯に読者と向き合う姿勢に、36年愛され続ける理由を垣間見た気がします。

ブランド価値を高めるコーポレートコミュニケーション(株式会社インターブランドジャパン)


株式会社インターブランドジャパンからは、エグゼクティブディレクターを務める中村正道さんが登壇。「企業ブランドとは何か?」ということを考えるため、「ブランド価値を高めるコーポレートコミュニケーション」をテーマにした講演を行いました。

株式会社インターブランドジャパンは1983年10月に設立。100人規模のB to Bの営業会社で、1984年には世界に先駆けブランド価値を金額換算する手法を開発、2010年には、世界で初めてブランド価値算出の手法としてISO(国際標準化機構)に認定されました。中村さんは営業をする傍ら、会社の広報も担当してプレスリリースも書いていると言います。

インターブランドジャパンで働く社員は全て中途採用。様々な専門分野の知見をもった100人のエキスパート集団が「ブランドプロミス」(「具体的事実の集約」を「目に見える形に具現化」する活動の拠り所となる考え方)を起点にして、ブランディング活動を行っています。そんなインターブランドジャパンが定義する“ブランド”とは何か。

ブランドとは、常に変化する企業の資産である


最近では企業ブランドを重視する会社が増えています。そもそもブランドの語源は、古代ヨーロッパ語からきているもので、識別記号だったそう。その記号に評判がつき、見えない価値を情報化していったのがブランドの始まりだと中村さんは語ります。

そんな“ブランド”について、インターブランドジャパンでは「ブランドは常に変化する企業資産である」と定義しているのだとか。それは一体どういうことなのでしょうか。

「では実際に、企業が強くなるとどんな良いことがあるのか。強いブランド(企業)では、社員への働きかけをしていると考えています。いい人材を採用し、引き止めつつ、社員のやる気を高めるということを徹底している。その社員の活動からお客様がポジティブなエネルギーを受け取り、サービスや商品の長期顧客になってくれる。社員と顧客の両方に良い影響を与え、経済的な価値を生むことができるのです」(中村さん)

2つの形があるブランディング


しかし企業ブランドを作り上げるためのブランディングは、容易ではありません。
中村さんによると普段人々が口にされているブランディングには2つの形があるのだと言います。

一つ目は、組織の広報活動の中でブランディングをするケース。一般的な日本企業はほとんどがこの形で行う活動を「ブランディング」と位置付けます。

二つ目はグローバルに強い企業が行なっている、事業戦略とブランド戦略が一体になっているケース。一部門でブランディングを行うのではなく、全社活動としてブランディングを行なっている形です。

「基本的に我々は、ブランディングは全組織を動かす活動であるという考えの元に、ブランディングのサービスを行なっています。ブランドの考えに基づいた製品やサービス作りはもちろん、社員がブランドの理念に共感し、どのように立ち振舞っているか、そして会社オフィスや店舗の空間・環境も例外ではありません。」(中村さん)

ビジネスの成功率を高める評判作り


コミュニケーションというからには、「誰に」「何を」したら良いのでしょうか。中村さんは「何を」の部分を整理することが必要だと語ります。

「まずは、ビジネスの持続的成長が必要で、そのためにはどんな評判があればいいのか、そしてその評判をさらに高めるためには、どんなビジネス展開に繋げていけばいいのか。そのサイクルがどんどん回っていくことで、ブランドが強くなっていく。つまり、ビジネスの成功率を高める評判作りが、“何を”の部分だと考えています。」(中村さん)

やはり、ブランドの前にはビジネスがあります。そしてブランドの拠り所となるビジネスに対する考え方や、そこで働く社員の意識、環境づくりなど会社に関わる全てを含めてブランディング活動をする必要があるのです。そうすることで、創業者がいなくなった後も、一貫したブランドづくりや強いブランド価値をキープすることが可能になります。企業がブランドを語るのではなく、ブランドが自然と企業を語ってくれるのです。

コーポレートブランディングの1丁目1番地は企業理念


最後にグローバルブランドと国内ブランドを比較した上で、ブランディングの本質的なところをお伝えできればと中村さんは語ります。

「グローバル企業の理念体系は非常に簡単明瞭で、ブランドの独自性や実際のビジネスとの関連性が高い。一方、日本企業は、なかなか複雑でわかりづらい。未来にどんな世界、社会を創造するかという話は、日本企業からは伝わってこない。ブランドの理念や考え方が明確であるか否かが、これからの企業の持続的な成長にとって、非常に重要である。」(中村さん)

中村さんは、一貫したブランドを築くことは事業成長の安定性や組織の強固性を高め、中長期的な利用価値の持続的拡大につながるため、『ブランドが目指す姿の明確化』のコンセンサスをとることが最も大切であるという言葉で締めくくりました。

信頼を得るGo Boldなコミュニケーション戦略(株式会社メルカリ)


株式会社メルカリからは、PRグループマネージャーである矢嶋聡さんが登壇。2013年にサービスを開始した「メルカリ」を運営する同社は、月間UUが1,054万人、ダウンロード数が7,100万を超えるサービスに急成長し、今年の6月に東証マザーズ新規上場を果たしています。サービスだけでなく、企業として社会から信頼を得るためにメルカリが行ってきた「信頼を得るGo Boldなコミュニケーション戦略」について語りました。

課題を明確にし、チーム基盤を強化することで「攻めの広報」実現へ


「メルカリは、『新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る』ことをミッションとして掲げています。ある人にとって価値がなくなったものが、別のある人にとっては価値がある。そういう価値の循環や移転というものを新しいテクノロジーとマッチングさせて、新たな価値を生み出していくという想いを込めて作っています。」(矢嶋さん)

2013年にメルカリがサービスをスタートして今年で5年。すでに日本では「メルカリにないものはない」と言われるほどにそのマーケットは拡大し、月間の利用者は1000万人にものぼります。続けて矢嶋さんは「日本だけでなく、世界中でそういう価値の移転が起こるような世界を作っていく、ということも一緒に考えている」と言います。

しかし事業としての伸びを実感する傍ら、課題が山積みなのも事実。
2017年10月に矢嶋さんがジョインした段階で、サービスの急成長や上場観測企業として報道されたことにより、メディアの注目度は急上昇しました。その一方で、ネガティブな部分もクローズアップされており、受身の広報が活動の中心となり、攻めの広報対応ができないという広報の組織課題があったと矢嶋さんは話します。

「注目度とネガティブ度は正比例するものだと思っています。確かに事業としては伸びているけれど、一方で不正出品や盗品などの報道が相次いでいる状況。メルカリという存在が社会にとって良いものなのかというマスメディアからの問題提起に対して、広報側の対策が後手に回っていることは否めなかったですね。」(矢嶋さん)

メルカリの認知度は高いものの、それが決してポジティブなものばかりではなかったそう。メルカリが目指すミッションや、国内のみならずグローバルを意識していることなど、企業としてステークホルダーに伝えたいメッセージを正しく理解されることが必要とされていたのです。

また矢嶋さんは、「世論を作っている人たちは、メディアのデスク以上の方やご年配の方など、いわゆる“メルカリを使っていない人たち”が多いと推測しています。この方たちにメルカリを理解して頂き、応援して頂けるようになることを目標とする必要がありました」とも語りました。

信頼を得るためのロードマップを作成


そこで、矢嶋さんは、「マイナスの信頼度をゼロに高めるためのロードマップを作成」し、「採用も含めて組織基盤を作り、活動の優先順位をきめる」ことを経て、“攻めの広報”へと転じていったのだとか。

「ドライに見ると当時のメルカリの現状というのは、“ポッと出のイケイケベンチャー”。そこで当社は、“C to Cマーケットのインフラになる”、“メルカリは本気で日本から世界に挑戦するベンチャー企業、だから応援しよう”というような認識を作るというのをゴールにしました。」(矢嶋さん)

また、いきなりゴールを目指すのではなく、ロードマップに沿って5つのステップを作成し順次理解を得るように工夫をしたそう。マイナスの信頼度をゼロに、そしてそこからプラスに転じるには、日々の積み重ねを大切にしていくしかないと考えたそうです。

<5つのステップ>

  1. チーム基盤構築(採用・業務効率化)
  2. 重点メディアとのリレーション構築
  3. ポジティブストーリーの露出強化
  4. コーポレートストーリーの発信強化をする
  5. ユーザーコミュニケーション改善&社内コミュニケーションの強化

「メディアやお客さまとのリレーションにも、重点を置きました。顔が見える関係性から、ちゃんと先のことを理解してもらうための勉強会を開催したり、コーポレートストーリーを発信していきましょうと。あとはメンバーの役割分担の明確化や、業務の効率化、そして情報共有などを広報チームの基盤として整備し、そこから採用も強化していくなどスケールしていくための体制を整えました。」(矢嶋さん)

チーム基盤の構築、メディアや顧客とのリレーション構築の段階を踏んだメルカリは、ポジティブで信頼を築くためのメッセージ訴求を本格化させます。

「コーポレートストーリーの強化というところで、世間からの注目が一番集まる上場というタイミングをとらえ、“フリマアプリの会社”から“世界に挑戦するテクノロジーカンパニー”という認識に変えるため、上場前、上場承認時、上場時の3ステップを踏みました。そのステップの中で、『我々は世界に挑戦していくために、よりGo Boldなチャレンジを上場しても続ける』ことと、『短絡的な収益ではなく、世界で使われるマーケットプレイスになるために大胆に投資していく』というスタンス表明のため、上場承認のタイミングで“創業者からの手紙”を公開しました。」(矢嶋さん)

さらに、上場日当日には、報道関係者向けの上場セレモニーや記者会見に加えて、一般のユーザーへの理解を促すべく、“創業者からの手紙”でも引用されている元メジャーリーガー・野茂英雄さんを起用した30段カラーの新聞広告を掲載するなど、メルカリらしい「Go Bold」なやり方で上場コミュニケーションを行い、メルカリは当初ゴールとしていた海外を目指すテックカンパニーであるという論調作りに成功しました。
また“創業者からの手紙”は、社内向けにも作成し社員全員に配布したといいます。

「先ほどの社外向けに出した“創業者からの手紙”とは別に、社内向けにも手紙を配布しました。創業者である山田進太郎本人の言葉で、これまで頑張ってきたメンバーに対しての感謝の気持ちと、上場後も変わることなくチャレンジを続けていくという気持ちを伝えました。日々新しいメンバーが入ってくることも多い当社では上場を自分ゴト化して捉えにくい社員も当然いると思うので、上場セレモニーを社内中継したり、上場記念パーティーをすることで、社員1人1人にとって、大切なモーメントになるように心がけました。」(矢嶋さん)

Go Boldなコミュニケーション戦略は一夜にしてならず


最後に矢嶋さんは、「Go Bold」なコミュニケーションをするためのポイントをこうまとめました。

「『Go Bold』なコミュニケーションをするためには、我々としてなりたい、あるべき姿から逆算してやるべきことを地道に積み上げていく、段階をいくつも置くということが重要です。また当然ですが、世の中は動いていますし、それに伴って世論というものも日々変化していきます。最初に半年のロードマップを作ったらそれで終わりではなく、定期的にアップデートしていくところもポイントです。また露出の面で言えば、経営のトップをどのタイミングで出すかというのも重要になってきます。目的とタイミングに応じてスポークスパーソンを用意することで、いろいろな角度から情報の受け手にメッセージをうけとってもらうことが可能です。」(矢嶋さん)

外側からは見えないメルカリの戦略は、いくつものフェーズを経てこそのものでした。あるべき姿から逆算し、ステークホルダーとのリレーションシップを地道に積み上げていくことこそが、信頼を得るGo Boldなコミュニケーション戦略といえるでしょう。