ビジネスパーソンに聞く仕事術
OUR WORKS 56
DATA:2016.08.03
こういう製品・サービス、世の中にないと思うんだけど、一体どれくらいのニーズがあるのだろうか――。スタートアップ企業が考え出した新しい製品・サービスへのニーズを探るテストマーケティングの場として、クラウドファンディングが広く利用されるようになってきました。
「胸のサイズから発想する」女性のためのアパレルブランド「HEART CLOSET(ハートクローゼット)」を立ち上げたスタートアップ企業・122も、テストマーケティングを目的としてクラウドファンディングを実施。同時にプレスリリースも配信することで、より多くの人にブランドを認知してもらおうと試みました。
その結果、170以上のメディアに露出することに成功。国内だけでなく、なんと海外のメディアにも取り上げられ、台湾、ニュージーランド、デンマーク、インドネシアなどからも反響が集まることになったそうです。
テストマーケティングのツールとして、クラウドファンディングとプレスリリースを組み合わせて利用するメリットは、どんなところにあるのでしょうか。122の黒澤美寿希代表取締役に話を聞いてきました。
アパレルブランド「HEART CLOSET」を立ち上げた経緯について伺えないでしょうか。
私自身、胸が大きく、普通の店舗で販売している服をほとんど着られません。小さめの服を無理して着たら、すごくエッチに見えてしまいます。逆に、胸を隠そうとゆったりした服を選ぶと、今度はとても太っているように見えてしまいます。
それでも友達の結婚式に参加するときなど、着ていく服を新しく用意しないといけません。けれど私の場合、ショッピングセンターで1日かけて探しても、きれいに着られるワンピースはまず見つかりません。仕方なく通販サイトを一晩中ネットサーフィンして、妥協すれば何とか着ていけそうな服を見つけていました。
そのように、ちょうど自分に合う服を見つけるのに、本当に苦労してきました。こんなに私が苦労しているのだから、きっと他にも悩んでいる人がいるはず。そう考えて、胸のサイズから洋服を選べるアパレルブランド「HEART CLOSET」を立ち上げようと考えたわけです。
HEART CLOSETを宣伝・販売していくために、どんな戦略を立てたのでしょうか。
まずはテストマーケティングをして、市場のニーズを探る方針に決めました。
私たちが調べた限り、胸が大きい人に特化したアパレルブランドは、いくら調べても見つかりませんでした。ニーズがないから誰も作っていないのか、それともニーズはあるけれど誰も気付いていないのか。まずは市場のニーズを測るため、クラウドファンディングで先行販売し、同時にプレスリリースを配信することでメディアや読者などからの反応を確認したいと考えました。
クラウドファンディングとプレスリリース、それぞれどんな成果を得られたか教えてください。
クラウドファンディングサイト「ENjiNE」では、目標金額30万円で募集したところ、913%に当たる273万9200円が集まり(7月27日時点)、8月9日まで先行販売を続けています。
事前に調査して、日本人女性の4人に1人はEカップ以上だと分かっていました。ある程度のニーズはあるだろうと思っていましたが、予想を大幅に上回る反響ですね。
他のアパレルブランドのクラウドファンディングの結果を調べてみても、200~300万円も集まったプロジェクトはほとんどありませんでした。「大ヒット」と言えるほどしっかりとしたニーズがあることが分かり、うれしかったです。
プレスリリースの方も、転載・記事化されたメディアの数が国内だけで170以上になりました。
露出したメディアの数にも驚いていますが、それ以上に「私にはちょっと高くて買えないけど、応援しています」「がんばってください」といったメールが届くようになり、とても力づけられました。
海外からの反響もあったと伺いました。
台湾の方から「今度、日本に行きますが、どこのお店で買えますか?」とメールでお問い合わせをいただきました。他にも、ニュージーランドやデンマークの方からも、メールをいただいています。
「どこで知ってくれたのかな?」と気になって調べてみたら、海外の大手メディア「9GAG」で記事として取り上げられていました。Facebookでいいね!が1万5000件以上、シェアも1000件以上ありまして、特に9GAGの記事から拡散したようです。
他にも、インドネシアのメディアで記事として掲載されたことを確認しています。海外での掲載実績はすべて把握できていませんが、さまざまな国のメディアで記事化されたようです。
海外メディアに取り上げられるようになったきっかけは?
「ロケットニュース24」の英語版「RocketNews24」に英語で記事にしてもらったことが海外からも注目されるきっかけになったようです。そこから海外のさまざまなメディアへ、すぐに拡散していきました。
ただ、メディア向けに発信した情報は、PR TIMESを使ったプレスリリースだけです。そこが起点になったことは間違いありません。
プレスリリースの作成に当たり、心掛けた点を教えてください。
会社として配信する最初のプレスリリースになりますので、私たちの思い、胸が大きくて服選びに悩んでいる女性がいるという事実を、小細工せずストレートに伝えようとしました。
私たちが手掛けるHEART CLOSETというブランド自体、胸のサイズから服を選べるという新しいアイデアを採用しています。事実に基づいてしっかりと書くべき情報を書いていけば、興味を持ってくれるメディアはきっとあるはずだと考えました。
また、先ほどもお伝えしたように、HEART CLOSETはテストマーケティングの段階でもあります。できるだけ読者の素の反応を知りたかったので、こちらであれこれ書き過ぎて色を付けないようにしました。その意味もあって、できるだけストレートに書くように心掛けました。
他にもHEART CLOSETのシャツは、胸の丸みを研究してふんわりと包み込むように立体裁断するなど、胸の大きい女性の体型にフィットするように8つの工夫・ギミックを採り入れています。そうした点もしっかり説明しました。
プレスリリース配信サービスとして、PR TIMESを選んだ理由は?
設立24カ月未満の企業なら、PR TIMES上でフォロワーを3人以上集めるとプレスリリース配信が無料になる「PR TIMESスタートアップチャレンジ」というサービスがあったからです。無料で配信できるなら使わない手はないと、すぐにフォロワーを集めました(笑)。
スタートアップチャレンジというサービスがあることを知ったのは、スタートアップ企業のニュースを伝えるWebメディア「THE BRIDGE」で見た紹介記事がきっかけだったと思います。
プレスリリース配信サービスを利用したのには別の理由もありまして、「消費者向けのPRページ」として使っていたクラウドファンディングのページの他に、「企業向けのPRページ」として使えるページが欲しかったからでもあります。
クラウドファンディングのページは、消費者からの支援を集めることを目的にしたページです。誰にでも分かりやすく、キャッチーな内容を掲載するようにしましたが、見方によっては「胸が大きい女性のためのブランドか。なんかエッチだな」といった受け止め方をする人もいるかもしれないと心配していました。
分かりやすさよりも、胸が大きい女性の切実な悩みを訴えるページも欲しい。私たちが真剣な思いでHEART CLOSETを立ち上げたことを伝えるページも必要だと感じていました。
自分たちで制作しようとも考えましたが、その余裕はありません。それならPR TIMESを使ってプレスリリース配信すれば、プレスリリースページをPRページとして使えるようになります。メディア向けに統計データなどの客観的な情報を盛り込むことで、「企業向けのPRページ」として利用しようと考えました。
実際にプレスリリース配信後には、販売に協力してくれそうな企業にメールで連絡するときなど、PR TIMESのページURLをメールに貼り付けて、HEART CLOSETを紹介するのに使いました。かなり役立ちましたね。
スタートアップ企業がプレスリリース配信することのメリットはどんなところにあると考えますか。
私の知っているスタートアップ企業の多くは、新しい製品・サービスをリリースしても、プレスリリースを配信していません。
配信すれば、私たちと同じように多くの反響が集まるかもしれないわけですから、絶対にプレスリリースは配信した方がいいと思います。
もっと言えば、「メディアに取り上げられた」「話題になった」という事実をつくることがスタートアップ企業には非常に大切なことです。新しいメンバーを募集するとき、資金調達をするときなど、今後、スタートアップ企業がビジネスを拡大しようと思ったときに「メディアに注目された企業だ」という実績があれば、相手の印象はかなり良くなります。
プレスリリースを配信してメディアに取り上げてもらうということは、スタートアップ企業にとって大きな財産になるはずです。
最後に、これからHEART CLOSETをどう展開していきたいか、現在の計画を伺えないでしょうか。
まずはHEART CLOSETのアイテム数をもっと増やしていきたいです。
最初にシャツやジャケットを先行販売することにしましたが、シャツなどを選んだのは、働いている女性にはどうしてもシャツを着なくてはいけない場面があるからです。
でも私としては、実はシャツよりもカジュアルな洋服の方が欲しいんです(笑)。ですから、次はかわいいワンピースやニットなどの洋服を作っていく予定です。
また現時点では、クラウドファンディングのページからしか、HEART CLOSETの服を買えません。早急に自社の通販サイトをオープンしたいと考えています。
さらにWebでの販売だけでなく、ポップアップストアなど、リアルな店舗を構えて販売することにも挑戦していきたいですね。