ビジネスパーソンに聞く仕事術
IR、CSR、マーケティングなど、“広報”には、さまざまな役割が期待されています。
そうした役割の1つに、ブランディングがあります。企業として目指すブランドイメージを築くため、プレスリリースなどで発信する情報の中身を吟味している広報担当者も多いのではないでしょうか。
ランジェリー、ファッション、ルームウェア、コスメ、雑貨などを通じてライフスタイルを提案するブランド「ピーチ・ジョン」も、ブランディングを意識しながら広報活動に取り組んでいる企業です。ピーチ・ジョンはブランドコンセプトを見直し、2016年3月から「Life is Beautiful」というコンセプトを掲げるようになりました。
それ以降、顧客とのあらゆる接点において、一貫性のあるメッセージを届けようと努めるように。その結果、SNSでの投稿については、ピーチ・ジョンに関する発言数が前年比で10.2%増加。ポジティブな内容の投稿が占める比率も、29.0%から33.0%へと改善しました。
新しいブランドコンセプトを浸透させるため、ピーチ・ジョンはどのような取り組みを展開してきたのでしょうか。コミュニケーションデザイン部チーフの安井牧子氏にお話を伺ってきました。
2016年3月に、新たなブランドコンセプトを打ち出されました。その狙いを教えてください。
今はファッションと同じようにランジェリーを楽しむ時代になっています。お気に入りのランジェリーを身につけることで、女性であることをもっと好きになり、女性1人1人に美しく輝いてもらいたい。女性が少しでも毎日を豊かに幸せに過ごせるようにと「Life is Beautiful」というコンセプトを打ち出しました。
日本女性の多くは、これまで「ランジェリー=消耗品」という考えだったと思います。購入するランジェリーを選ぶときにも、保守的な選択をしてきたのではないでしょうか。
ファッションと同じように、ランジェリーをもっと楽しんでいただきたい。そうした女性の新たな楽しみをピーチ・ジョンは提案していくんだという思いを「Life is Beautiful」というコンセプトに込めました。
コンセプト変更から半年以上経ちましたが、手応えはいかがでしょうか?
SNSに投稿されたお客様の声を見ると、「ピーチ・ジョン、変わったね」「かわいくて、コストパフォーマンスもよくて、素敵になった」といったポジティブな発言が目立つようになってきました。
2016年12月上旬の時点で集計したデータでも、2015年と比較して発言数は10.2%増加しました。ポジティブな内容の発言が占める割合も29.0%から33.0%に上がり、逆にネガティブな発言の割合は2.7%から2.3%へと減少しました。
メディア関係者と話をしていても、「ピーチ・ジョンのブランドイメージ、すごく良くなったね」と高く評価していただけています。
新コンセプトを浸透させるため、どのような施策を打ってきたのでしょうか。
単純に大規模に広告を展開すれば、新しいブランドコンセプトを浸透できるわけではありません。お客様の行動が複雑化する今だからこそ、カスタマージャーニーを作成し、お客様との接点1つ1つにおいて一貫性のあるメッセージを伝えられるように、コミュニケーションをデザインしています。
例えば、商品をお届けする段ボールや梱包も、お客様との接点になります。商品が届いて段ボールを開けるところも購買体験なのです。
ネイルをした女性が開封しやすいように開け口にミシン目を入れる。お客様のところに届いたときに段ボールが凹んでいないように配送業者の方にお願いするメッセージを添えておく。開けたときに商品が透明なプラスチック袋に包まれているだけでは味気ないので白い袋で包むようにして、「Thank you, Beautiful」と少し気の利いたメッセージを記載する。段ボールや梱包にもこうした工夫を施しました。
そのような工夫がお客様からどう評価されているのか、アンケートでお客様の声を集めて分析しながら、最適な梱包方法を模索しているところです。
サイトやWeb広告で打ち出すキャッチコピーのつくり方も、従来の手法を改めました。
以前は「できるだけ売上に直結させよう」と、価格などの明確な数字を盛り込み、「買いたい」と思わせるためのコピーを考えていました。
ただ、短期的な売上を重視するならそうした手法が最適なのかもしれませんが、それを続けると長期的には“憧れ”ではなく“価格”で選ばれるブランドになってしまう恐れがあります。それではブランドイメージを損なってしまいますから、ブランドコンセプトに沿った一貫性のあるコピーを考えるようにしています。
また、伝えるメッセージの中身だけでなく、伝え方にも工夫するようになりました。
SNSの解析データから「お客様がどんなタイミングでどのメディアを利用するか。どの時間帯に情報を届けるとポジティブな反応を得られやすいか」というところまで踏み込んで考え、SNSに投稿する時間を決めるようになりました。
広告展開のやり方も変わりました。従来、重視していたのは「とにかく広告クリック数を増やして自社サイトへ誘導する」こと。ブランドコンセプト変更後はそうではなく、広告に接触したときのお客様の気持ちを考えて、広告を配信するメディア、露出する量・タイミング・クリエイティブなどをコントロールするようにしています。
短期的な売上よりも長期的なブランドイメージを重視するようになったんですね。
そうです。ブランドコンセプトを変えた直後には、短期的に売上への影響がありましたが、着実に盛り返してきました。従来以上のブランドに成長できるという手応えを得ています。
そうしたブランドイメージを構築していく中で、PRが果たした役割について、どのように評価していますか?
プレスリリースには非常に大きなインパクトがあります。タイアップ広告記事を出稿するよりも、配信した1本のプレスリリースが成果につながったケースも多いです。
また、ピーチ・ジョンの“PR業務”においては、「インフルエンサー」や「アーリーアダプター」と呼ばれるお客様とのコミュニケーションも大切な業務になっています。
例えば、シーズンごとに新商品の展示会を開催して、インフルエンサーの皆様を招待しています。そこで寄せられたご意見を商品開発に役立てるだけでなく、インフルエンサーから口コミで情報拡散されることを期待しているのです。
そうしたインフルエンサーとコミュニケーションを取るときには、こちらのメッセージを一方的に伝えるのではなく、1人1人と個別にコミュニケーションを取るように心掛けています。
まずはこうしたインフルエンサーに弊社ブランドのファンになってもらうことを大切に考えています。ファンになってくれた彼女たちを味方につけ、さらに一般層へのファン拡大を目指すということも重要視しています。
インフルエンサーが発信する情報は、自分にも当てはまる“自分事”としてお客様に捉えてもらえます。たとえWebメディアに掲載される記事の10分の1の範囲にしか届かなかったとしても、インフルエンサーが拡散してくれる情報の方が、「私も欲しい」「買いたい」といった欲求を喚起できると感じています。
そうしたPRなどで情報発信する際、“一貫性のあるメッセージ”を届けるため、注意している点を教えてください。
例えばこれまでSNSでセール情報を伝えるときには、分かりやすいように「ランジェリーが10%OFF」「今なら送料無料」といったメッセージを発信していました。
それがブランドコンセプト変更後は、「季節の変わり目にはこんなランジェリーを選んでみませんか」というメッセージを表に出すようにして、その最後に「今ならランジェリーが10%OFF」という情報を添えるようにしました。あくまで「ブランドのイメージ」を伝えることに重点を置きながら発信しています。
プレスリリースの内容や配信するタイミングにしても、シーズンごとに「いつ、どんな手段でどんなメッセージをプレスリリースによって伝えるのか」と計画を立てて、その戦略に基づいて決めるようにしています。
「この商品を使ってもらうと、あなたの生活がこのように豊かになります」といった読み手側の気持ちを意識しながら作成するようにしています。
PR TIMESのようなプレスリリース配信サービスを利用する利点について、どのように評価していますか。
いくら自社から情報発信しても、情報が届かないお客様もいます。そうしたお客様にも、雑誌や情報サイトなどのメディアに記事として取り上げてもらえれば、間接的に接点を築けるようになります。
また、たとえ情報が届いても、お客様の心に響かないこともあります。そんなときにも、雑誌や情報サイトのメディアから、あるいはSNSでインフルエンサーやお友達から推奨してもらえると説得力を持つようになり、お客様の心に響くようになるのではないかと感じています。
PRというのは、より多くの人たちにそうした形で自社ブランドへの理解・共感を広げていく取り組みだと考えています。
そうしたメディアにアプローチしていこうにも、最近はメディアが非常に細分化してきていまして、自分たちだけでは新興メディアや専門メディアに情報を届けきれません。PR TIMESのようなプレスリリース配信サービスを利用することで、そうした新興メディアや専門メディアなども含めて、より多くのメディアに情報を届けていきたいと考えています。