ビジネスパーソンに聞く仕事術
毎晩、宅飲みして家族と会話する楽しさを飲食店でも実現できないか――。そう考えた西田彩乃氏は、チャージ料0円、飲み物全品300円、食べ物は商店街で買ったものを持ち込み自由という「宅飲み酒場 アヤノヤ」を2016年11月22日にオープンしました。自己資金はわずか40万円でしたが、自分の思いをSNSで表明、クラウドファンディングを使って支援者を集め、開業資金の目処を付けたそうです。
飲み物は全品300円といっても、ザ・マッカランや山崎などの高級酒もラインアップ。原価率は30%前後が目安と言われる飲食業界の中で、アヤノヤでは原価率50%を超える商品も取り扱っています。
チャージ料を取らず、基本的に飲み物しか提供せず、原価率も高い。それでも赤字になることなく、十分にアヤノヤを続けられる利益が出ていると西田氏は言います。
アヤノヤのようなコンセプトの飲食店が成り立つのはなぜでしょうか。西田氏によると、グルメ情報サイトに頼らず、PRとSNSを上手く活用して集客できるように工夫したところに理由があるようです。
連日、お客様で満席になるというアヤノヤ。その集客術を西田氏に伺ってきました。
アヤノヤは店舗オープンに合わせてプレスリリースを配信するなど、集客面で他の飲食店とは一線を画した施策を打っているように感じます。
私はもともと、飲食業界で働いていました。この業界のことに詳しくなり、疑問に感じるようになったのは、飲食店がグルメ情報サイトに支払う広告宣伝費の多さでした。
確かに、グルメ情報サイトで情報収集して、利用する飲食店を決める人は多いのでしょう。ですが、グルメ情報サイトよりも、SNSを利用する人の方がもっとたくさんいます。SNSを使って上手くアヤノヤをPRできれば、広告宣伝費を支払わなくても十分に集客できるのではないかと考えました。
そこでアヤノヤでは、Facebook、Twitter、InstagramといったSNSごとにアカウントを作成し、それぞれの特性を踏まえて使い分けるようにしています。
例えば、Facebookの利用者で多いのは40~50代くらいのビジネスパーソンでしょう。Twitterはもっと若い年代が、日常的なコミュニケーションのツールとして活用しています。最近、若い女性中心に利用者が増えているInstagramは、テキストに頼らず画像を軸に情報拡散できるSNSです。
そうした違いを理解して、SNSによって情報発信のやり方を変えるようにしています。
そんな狙いがあったのですね。店舗オープン時にプレスリリース配信したのにはSNSでの拡散を狙ったのもあるかと思いますが、PR TIMESを利用しようと考えた理由は?
「アヤノヤをオープンしよう!」と思い立ったとき、店舗のコンセプトや、集客面ではグルメ情報サイトに頼らずにSNSを活用することなど、いくつかやりたいアイデアはありました。けれど、オープンまでにどんなことをやらなくてはならないのか、詳しいことが分かっていませんでした。
そこでまずはGoogle検索して、店舗オープンまでに必要なことを調べてみました。すると、起業直後の経営者向けノウハウがまとめられている『創業手帳』というガイドブックがあることを知ったのです。
創業手帳を取り寄せて読んでみて、同誌主催の経営者向け無料セミナーに参加するなどして、必要な情報を収集していきました。その中で、PR TIMESのようなプレスリリース配信サービスに興味を持ちました。
しかもPR TIMESは、「PR TIMESスタートアップチャレンジ」というサービスを提供していて、設立24カ月以内ならフォロワーを3人以上集めると毎月1回は無料でプレスリリース配信できるようになります。「それなら利用してみよう」と思いまして、アヤノヤのオープンに合わせてプレスリリースを配信してみることにしたのです。
初回のプレスリリースがユニークで、ご自身の思いをしっかりと語る内容になっていました。
「アヤノヤ」というブランドを認知してもらうよりも、まずは経営者である「西田彩乃」個人の名前を知ってもらい、SNSで情報発信力を高めてからアヤノヤの宣伝をした方が、より多くの人に情報を届けられるだろうと考えました。
そのためには、格式ばったプレスリリースを書くよりも、読者に共感してもらえるメッセージを伝えて「西田彩乃」を覚えてもらうことが大切です。自分自身の思いを前面に出して、私がどんな思いを持ってアヤノヤをオープンしたのかを語る内容にしてみました。
初回のプレスリリース、配信してみた手応えは?
PR TIMESで初めて配信した「【ニューオープン】東京都品川区なかのぶ商店街、リビングのように寛げる『宅飲み酒場 アヤノヤ』」というプレスリリースは、Facebookで1000人以上、Twitterでは8000人前後に拡散してもらえました。
配信から2日間ほどはPR TIMESサイト内でも話題のプレスリリースとしてランキングに入っていましたね。
そのプレスリリースを見たメディア関係者からも問い合わせが入りまして、10媒体近くからインタビュー取材の依頼が舞い込んできました。
メディアに掲載された記事の中で、特に印象深かったものを教えてください。
一番反響が大きかったのは、週刊アスキーに掲載いただいた「“お店出しちゃう系女子”がスゴイ!一杯300円の宅飲み酒場」という記事です。非常に拡散されて人気記事になりまして、電子書籍版『週刊アスキー』にもトップ記事として掲載してもらえました。
他にも、フジテレビのニュース番組に取材いただいたり、大手キュレーションサイトにインタビューいただいたりと、店舗オープンから4カ月以上経ちましたが、今もメディア露出の機会に恵まれています。
それだけメディア露出があると、しっかり集客にもつながったのではないでしょうか。
ありがたいことに、オープン時から集客で困ったことはありません。
私1人がSNSで「オープンしました」と投稿しても、ここまで広範囲に情報が拡散することはなかったと思います。PR TIMESを使ってプレスリリース配信したことで、読者数の多いメディアで取り上げられ、情報発信力のある個人ユーザーに拡散されるようになり、多くのお客様の来店につながったのではないかなと思います。
メディアからの注目を集めるため、SNSで情報拡散させるため、プレスリリース作成時に意識していることは?
「ワーディング」に気をつけることでしょうか。アヤノヤのプレスリリースには、コンセプトを広めようと意識的に「宅飲み酒場」「みんなのリビング」といったワードを盛り込むようにしています。
最近、ワーディングが上手いなと思ったのは、ハヤカワ五味さんが手掛けるブランド「ダブルチャカ」から発売されたシャツワンピースのPR事例です。ハヤカワ五味さんはプレスリリースに「史上最強の彼シャツ」というワードを入れて配信しました。そのキャッチーなワードにねとらぼなどが注目して、記事として取り上げられることになりました。
ただ、ハヤカワ五味さんのPRが上手いなと思ったのはここからです。本来「彼シャツ」とは、お泊まりに来た彼女に彼氏が「とりあえず、これ着ておいて」と差し出すもの。そんなシチュエーションに萌えるオタク層は多いはずです。
けれど、どう見てもダブルチャカのワンピースは女性向けのシャツワンピースであって、彼氏から渡される彼シャツとは言えません。彼シャツに憧れているオタク層としては、認められないことなんです。案の定、ねとらぼの記事などを目にしたオタク層が「これは“彼シャツ”じゃない!」とSNSに投稿するようになり、この話題で盛り上がることになりました。
実はハヤカワ五味さんは、オタク層から反論が出てくるところまでを見越して、「史上最強の彼シャツ」というワードを使ったようなのです。オタク層は議論好きでSNSも積極的に利用しています。そこを巻き込めば、話題が広がると考えたようです。
商品自体の魅力に加えて、キャッチコピーの付け方次第で、ここまで話題を広められるのはすごいなと感心しました。
アパレル業界のPR事例などにも、注目しているんですね。
アパレルや美容などの業界と比べて、飲食業界にはPRが得意な店舗はあまり多くない印象があります。
今は、自薦よりも他薦の時代です。グルメ情報サイトに広告を出して「うちの料理はすごくおいしいよ」とアピールするよりも、SNSを活用して「あのお店、すごく料理がおいしかったよ」と誰かに口コミしてもらう方が、集客につながると感じています。
ですから今の時代、飲食店がもっと力を入れていくべきなのは、一般の方々に情報を届けていくこと。1人1人がスマートフォンを持ち、SNSを使って情報拡散してくれる一般の方々に情報を届けて、拡散してもらえる流れをつくることが大事なのではないでしょうか。
それに、グルメ情報サイトよりもYahoo! JAPANの方が利用者数は多いわけです。それなら、「いかにグルメ情報サイトで情報を目立たせるか」に力を使うより、「Yahoo!の目立つところに情報が載るように、どうやってニュースメディアに取り上げてもらえるような情報発信をするか」と考えた方が正しい気がします。
アヤノヤとして、これからどんなことに取り組んでいきたいですか?
いろんな企業や人とのコラボレーションを増やしていきたいです。
アヤノヤ単体でPRをしたとしても、アヤノヤに興味を持ってくれている人にしか情報は届きません。けれど他の誰かを巻き込んで、例えば「オススメの焼酎の取り扱いを始めました」という情報を発信すれば、焼酎メーカーがアヤノヤのことを自社のSNSで紹介してくれるかもしれません。
ここでも、自分の情報だけを配信する“自薦”より、企業や人とコラボして、コラボした企業・人から周囲にいるファンに情報を届けてもらう“他薦”を重視したいと考えています。
出張料理人やシンガーソングライターとのコラボなど、自分だけで情報発信するのではなくて、1人、また1人と巻き込む人を増やしながら、アヤノヤの情報が届く輪を広げていきたいですね。