ビジネスパーソンに聞く仕事術
OUR WORKS 98PR TIMES
DATA:2019.07.17
地域プロモーションは、予算も、人材も、メディアも、東京で展開するのとは勝手が違う――。
東京で生活する、福岡大好きな“フクオカラバー”の集まり「リトルフクオカ」 のメンバー・日野昌暢さんは地域プロモーションの第一人者。福岡県福岡市や群馬県高崎市など、これまで様々な地域プロモーションを成功に導いてきました。
福岡で生まれ、福岡で働いていた時期もある日野さん。「本当は、福岡でずっと働いていたい。けれど、東京の方が仕事に多様性があり、予算規模も大きい。今は東京で経験を積んで、蓄えたものをいつかローカルに、特に自分の故郷である福岡に返していきたい」と生まれ故郷・福岡への思いを抱きながら東京の会社で働く道を選びました。
日野さんと同じように、福岡への愛情を抱きながら、それぞれの才能を生かして東京で活躍しているリトルフクオカの面々。あるとき、定期的に開いている集まりで「せっかくおもしろい才能の持ち主がこれだけ集まっているのだから、福岡のためにおもしろいものをつくろう」という話が浮上。日野さんがプロデューサーを引き受けました。
当初は「ちょっとした飲み会の告知CMでも製作して、リトルフクオカのFacebookグループで共有しよう」と軽い気持ちで動き出したプロジェクトでしたが、気が付けば一流のプロたちが集まり、フルコミットするように。リトルフクオカの公式テーマソング「リトルフクオカ 福おどり」のミュージックビデオ(MV)の製作には150人以上もの有志が参加。ボランティアで製作したとは思えないクオリティに仕上がり、新聞やテレビなど、福岡のローカルメディアを中心に大きく取り上げられることになりました。
日野さんたちは「リトルフクオカ 福おどり」の製作にどうやって150人以上もの人を巻き込み、ローカルで話題を広めることに成功したのでしょうか。プロデューサーを務めた日野さんと、キャスティングなどを担当した森口裕子さんにお話を伺いました。
まずは「リトルフクオカ 福おどり」のミュージックビデオ(MV)を製作することになった経緯から教えてください。
日野 昌暢さん(以下、日野):そもそもリトルフクオカは、飲み会や福岡ソフトバンクホークスの試合観戦といった“遊び”のイベントを定期的に開く“フクオカラバー”の集まりです。このプロジェクトもいつものように開いた飲み会がきっかけでした。
集まった面々の中に、テレビ番組の「めちゃ×2イケてるッ!」や「電波少年」シリーズなどのナレーションを担当している木村匡也さんがいるんですが、突然木村さんに呼ばれ「俺がナレーションば読むけん、CMばつくらんね」と言うわけです。制作費をどうしようとも思いましたが、リトルフクオカには第一線で活躍するクリエイティブディレクターや映像作家、振付師、カメラマン、音楽家、俳優などのメンバーが集まっています。「『福岡のためにおもしろいものをつくろう』と呼び掛ければどうにかなるかもしれない」と考えました。
最初は「簡単なCMでもつくって、リトルフクオカのFacebookグループで共有しようか」という軽い気持ちでスタートしました。それがクリエイティブディレクターの道山智之さんに話を持ち掛けたところ、「やるならちゃんとやろう」と本気でMVを製作することに。「数百人で盆踊りを踊る」「タモリさんはじめ、福岡に縁のある有名人50人くらいが登場して『We Are The World』のように歌う」といった壮大なプランが出てきまして、実現できるところに落とし込んでいくため、議論を重ねていくことになりました。
最終的に、150人以上が参加して撮影することになったそうですね。それだけ大規模なプロジェクトを、皆さんが本業を別に持ちながら有志のボランティアで進めていったと伺いました。相当大変だったと思いますが、一番気を遣ったのはどんな点でしたか?
日野:みんなが楽しめることです。参加してくれたみんな、150人以上に「自分がかかわった作品なんだ」と感じてもらえるように調整していきました。ただ、リトルフクオカ自体、最初は少人数で飲み会などを開く集まりでした。中にはリトルフクオカに対して強い気持ちを持ってくれている方もいますが、基本的には自分たちが楽しむためのコミュニティです。MVの製作はあくまで“遊び”の1つですから、深くかかわりたい人にはしっかりとした役割を、かかわりたいけれど本業に支障をきたしたくない人には負担の軽い役割を担当してもらえるように気を配りました。
プロジェクト全体を通してみて、プロデューサーとして一番の山場になったところは?
日野:撮影当日、しっかりとした映像を撮れるように、キャスティングなどの事前準備を入念に済ませたことでしょうか。限られた休日を使って、150人以上がボランティアで撮影に参加してくれるわけです。特に撮影をお願いした東北新社の皆さんは、事前のロケハンや機材の準備、撮影後の編集作業など、大変な手間をかけてくださいました。出演者などのキャスティングを担当してくれた森口さんも大変だったと思います。
森口 裕子さん(以下、森口):撮影当日までに出演者を1人でも増やすため、FacebookグループにMV撮影の告知を投稿する際も、時間帯や頻度は意識しました。MVの雰囲気を伝えて「楽しそう」「少しでもかかわってみたい」と思ってもらえるように、手書きの絵コンテを発信するなど、情報を“チラ見せ”して、「気になるな」と感じていただけるような工夫をしましたね。当日に撮影するカットを踏まえてスケジュールを組み、「この出演者さんには、何時までにこの場所へ来てもらう」という細かな連絡も、見落としがないよう細心の注意を払いました。
そうした苦労はありましたが、それでも本当に多くの方にかかわっていただけました。ある出演者から撮影後に「すごく楽しかった」と言ってもらえたときにはとてもうれしかったです。たくさんの出演者を巻き込めたことで、映像としてもインパクトが出ましたし、MV公開後の情報拡散にもいい影響を与えられたと思います。
日野:FacebookグループでMV撮影のことを告知した投稿には、多くのメンバーが関心を持ってくれました。しかし、それだけでは「私が参加してもいいのかな」「興味はあるけれど知らない人しか来ないと嫌だな」と感じて当日の参加をためらう人が多いだろうなという気もしたんです。そこで、いいね!を押してくれた1人1人にメッセージを送ることにしました。そのときにその人の顔や言葉を思い出しながら、「先日のリトルフクオカの集まりでこう仰ってましたけど、その後どうですか?」など、一人ひとり違うメッセージと共にお誘いしました。リトルフクオカくらいの小規模なコミュニティでは、こうした丁寧なやり取りが大事なんだと思います。
そうした人を動かすための工夫は、本業とされている地域プロモーションにも通じるものがあるのでしょうか。
日野:あると思いますね。地域プロモーションにおいても、相手に合わせてアプローチの手法をアジャストしていく必要があります。マス向けにアプローチするのと同じように一方的に情報発信しても、意図せず反感を買ってしまうこともあります。その地域ではどのメディアが影響力を持っているのか。誰がインフルエンサーなのか。その地域ではどの場所に人が集まるのか。地域プロモーションは、自分の足で稼いで土地勘を磨くことが肝要です。
「リトルフクオカ 福おどり」は公開後、YouTube上で約3万回再生され、西日本新聞や福岡のテレビ局でも大きく取り上げられました。地域プロモーションの取り組みの中には、「リトルフクオカ 福おどり」よりも大規模な予算をかけたプロジェクトもありますが、私たちが“遊び”として1人1人を巻き込みながら完成させた「リトルフクオカ 福おどり」の方がずっとメディアからの注目を集めることができました。私にとっても目からうろこが落ちたと言うか、「地域プロモーションで大事なのは、こういったところだな」と再認識できたところはありました。
有志で製作した「リトルフクオカ 福おどり」の情報を、プレスリリースを使って広めようとしたのはなぜでしょうか。
日野:たくさんの方々の熱意が込められたMVですから、Facebookグループで紹介するだけではもったいないと思ったんです。本業でPRを手掛けることもあるので、「ほかにはないこの”妙な取り組み”にメディアが興味を持つ可能性はある」という直感がありました。「このMVはなぜ製作されたのか」というコンテクストをしっかりと説明し、プレスリリースというパブリックな手段で広めたことで、メディア露出につながったんだと思います。
PR TIMESに掲載された「リトルフクオカ 福おどり」のプレスリリースページ にも、Facebookから約3900件のいいね!がついてSNSでも拡散しました。
森口:プレスリリース配信後にFacebookなどのSNSをチェックしていて、PR TIMESで配信したプレスリリースページが多くシェアされていたことに驚きました。ある投稿のコメントを読むと「有名なメディアで福岡のことが取り上げられているぞ」と書かれていて。シェアしてくれた方々はPR TIMES自体がすごいメディアだと認識しているんだと分かりました。
日野:正直なところ、私たちプロにとってPR TIMESは「有力なメディア」ではなく「プレスリリースの情報を有料で掲載してくれるサービス」。でも、そのPR TIMESに掲載されたページが多くのいいね!を集めて、「Facebookで人気のプレスリリース」ランキングで上位に入りました。自分たちで用意した文章・写真であってもPR TIMESに載せれば、様々な人にリーチできる。ローカルの人たちは、自分たちの地域の話題が東京のメディアで取り上げられることに慣れていませんから、福岡に関するニュースがPR TIMESという東京発のメディアで話題になったことで敏感に反応してくれたのでしょう。
東京のメディアにローカルニュースのことを「おもしろい」と感じてもらうのは簡単ではありません。それなら、まずはPR TIMESを使ってプレスリリースを配信し、ニュースとして届けるというのはひとつの選択肢なのかもしれません。
ありがとうございました。最後に、「リトルフクオカ 福おどり」がこれほど話題になったことについて、改めて振り返っていただけないでしょうか。
森口:私は福岡から上京し、東京で歯を食いしばりながら働く中で、リトルフクオカに出会いました。そしてリトルフクオカから生まれた縁からUターンして福岡で働くようになり、また東京へ戻ってくるという経験をしています。リトルフクオカの集まりに参加する人の目的はさまざまで、心から福岡に帰りたいけれど東京で働かざるを得ない人もいれば、福岡弁をちょっとしゃべりたくなっただけの人も、福岡という縁を自分のビジネスに役立てていきたい人もいます。
そんなリトルフクオカというコミュニティから今回のような壮大な遊びが生まれて、福岡のローカルメディア中心ではあったものの大きな話題となり、フクオカラバーがすごく盛り上がれたことは本当に意味があったと思います。
日野:「リトルフクオカ 福おどり」が話題になったことで、リトルフクオカのFacebookグループの参加者が一気に500人ほど増えて約2200人になりました。次回は2019年8月23日にリトルフクオカの集まりを開く予定ですから、興味あるフクオカラバーはぜひFacebookグループに参加してください。