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全国68社203式場が賛同した 「結婚式宣言」。広報未経験からブライダル業界をけん引するプロジェクトを立ち上げた裏側

DATA:2020.11.06

「with コロナ」の掛け声の下、未知のウイルスとの共生への模索が続く今日。密閉・密集・密接のいわゆる「三密」への抵抗感は、根強く社会に横たわる。
そこで苦しい立場に置かれているのがブライダル業界だ。新郎新婦は、挙式のタイミングをうかがいながらも、いまだ慎重にならざるを得ないのが現状だ。

そんな中、メディアや業界から熱い視線を浴びているのがブライダルに関わる全国68社203式場(※)が賛同する「withコロナ時代の結婚式宣言」。新郎新婦が安心して挙式当日を迎えられる環境を整えようと、業界全体のアップデートを模索するものだ。

今回は、広報未経験ながらも今回の宣言の立役者となった、株式会社リクシィの佐志知世(さし・ともよ)さんに、宣言に至った背景や今後の展望などについて伺った。

※2020年10月1日現在の数値

ITの活用で「業界の負」にメスを

まずは株式会社リクシィについて教えてください。

佐志 知世(以下、佐志):リクシィは、ブライダル業界の構造改革をミッションに掲げて結婚式事業に携わってきました。創業は2016年で、まだまだ若い会社です。

リクシィには、3つの事業の柱があります。まず第一の柱が結婚式の式場やアイテムを選ぶことができるBtoCの総合プラットフォーム「トキハナ」です。
第二と第三はBtoBの「ブライダルコンサルティング事業」と「ビジネスサポート事業」です。

株式会社リクシィ 佐志知世さん

代表の安藤は、大学在学中にインターネットベンチャーを立ち上げるなどIT業界の出身です。その後、大手ブライダル企業の経営にも参画するうちに、ブライダル業界に特有ともいえる負の構造に触れたことが、リクシィの創業につながっています。

どのような「負の構造」が創業のきっかけだったのでしょうか。

佐志:ブライダル業界は、伝統的な結婚文化の継承を役割の一つとして担って来ました。一つの挙式に関わる人や会社の裾野も広く、教会や神社、寺院から飲食や美容、生花、引き出物を用意する物販など、様々な業種と関わりながら、長い歴史を育んできました。

その一方で、しきたりやつながりの壁が高いことで、昨今増えてきた自分たちらしい挙式を求めて多様化する新郎新婦のニーズに応えきれていません。そこを私たちは構造的な負だと感じており、変えていきたいと考えています。

佐志さんは2019年の10月に入社されたばかりとのこと。リクシィ社に参画されたきっかけを教えてください。

佐志:前職では別の業界に携わっていたのですが、ブライダルには元々興味があり、いつか自分も携わってみたいと思っていました。その中でもリクシィを選んだ理由は、代表の安藤の理念に共感したことが大きいです。

実は私自身プレ花嫁なのですが、実際に当事者になってみると、結婚式場の選びにくさや費用の不透明感をまざまざと感じることもありました。けれども、結婚式は人生に一度の大切な瞬間。もっと業界にポジティブな空気感が流れたらいい、という思いがリクシィの経営指針と重なり合い、入社を決めました。

個々の小さな声をまとめて大きな「宣言」にするPR手法

佐志さんは広報未経験からのスタートとお聞きしました。

佐志:はい。今入社して1年ほどになりますが、広報をメインに営業やコンサルティングまで幅広く担当しています。広報業務は初めてだったので右も左もわからない状態でした。
当初はプレスリリースを書いてメディアリレーションを行う、というシンプルな作業をとにかく繰り返していました。

しかし、やはりアウトプットだけでなくしっかりとインプットにも力を入れなければ、このローテーションから一歩前進することはできないと感じていました。そこでウェディング業界以外も含めて広報の方々と積極的にランチ会を企画するなど、情報収集も同時並行で行なっていきました。


なるほど。そうした交流ではどのようなことが学べましたか?

佐志:プレスリリースはもちろん大切なツールなのですが、執筆する以前にコミュニケーション設計をしっかりされている企業がたくさんあることに驚かされました。

そこからプレスリリースひとつ書くにしても、ただ書くだけではなく、プレスリリースを出した先にはどんなメディアの方がいて、さらにその先にはどのようなカスタマーがいるのか……ここをしっかりと明確化し、メッセージを考えるようになり、プレスリリースの質もグッと上がっていったと感じています。また、コミュニケーション設計の段階で、いろいろなステークホルダーを巻き込みながら戦略を立てることも重要だと感じました。

その際たる例が、2020年4月に公開された「withコロナ時代の結婚式宣言」のプレスリリースですよね。

佐志:はい。新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃から私たちも広報視点でどうコミュニケーションを作るべきか考えていたのですが、結婚式場といったカスタマーから届き始めた“悲痛な声”がこの結婚式宣言を生みました。

状況が深刻化するにつれ、新郎新婦が泣く泣く結婚式をキャンセルしたという話を聞く機会が増えてきました。ただ、その中で「キャンセル料は全額新郎新婦負担」といった強いキーワードだけがメディアで取り上げられ、世間にはウェディング業界のネガティブな情報が蔓延することになってしまいました。

しかし、実際は全ての式場がそうした対応をとっていたのではなく、むしろ多くの式場が新郎新婦と向き合い、なんとか三密を防止しながら結婚式の準備ができないかと腐心していたのです。

なるほど。そこで努力する式場の声をひとつの大きな声にしようと思われたということですね。

佐志:そうです。式場の方々からは「個々のSNSだけで発信してもなかなかマスには届かない」といった声も上がっていました。そこで、いろいろな式場とリレーションのある我々だからこそ、「共同宣言」という形で声を上げれば、きっと目に止めてくれるメディアはあるだろうと思ったのです。

刻一刻と状況が変わる中、「今すぐ発信しなければ、今悩んでいる新郎新婦には届かない」という危機感があったため、企画にあたっては、とにかくスピード感を大事にしました。

企画が固まってからは、賛同くださる式場が驚くほど早く集まりました。それだけ多くの式場が同じ思いを抱えていたのではないかということを感じました。


「withコロナ時代の結婚式宣言」と共に業界を前進させたい

実際に、どのような反響がありましたか。

佐志:ありがたいことに、リリース直後にNHKで放映していただいたことがきっかけで、そこからどんどん反響が生まれました。最終的にはテレビ4社、新聞8社の合計12社に取り上げていただいています。実際の内容も、まさしく我々が多くの人に知ってもらいたいと思っていた式場の方々の努力、そして「新郎新婦に式場はしっかりと寄り添っている」ということを報道いただけました。

式場の方々からの反響はいかがだったでしょうか。

佐志:とにかく「万々歳」と喜んでくださいましたね。リリース直後からは全国の式場からも「ぜひ賛同したいです」お問い合わせをいただき、右肩上がりに賛同者が増えていった印象です。

リクシィ社では他にもこのコロナ禍においてさまざまなプレスリリースを配信されていますよね。

佐志:新郎新婦にアンケートをとった調査リリースを始め、5月にはオンライン結婚式紹介サービスのローンチにまつわるプレスリリースを出しました。これに関しては時流と「トキハナ」というサービスの特性を結びつけることにこだわりました。ここでも重視したのはスピード感です。「オンライン結婚式」を、いち早く先陣切って発信することに意味があると思い、5月中の配信を実現させました。

佐志さんは「宣言」をはじめ、コロナ禍におけるPRの取り組みを「PR TIMES STORY」にも執筆くださっています。

佐志:きっかけはPR TIMESの担当の方から「リクシィのプレスリリースには“思い”が込められているからこそ、PR TIMES STORYでナラティブにストーリーを綴ってみてほしい」と声をかけられたことでした。

いろいろな企業のSTORYを拝読しながら私なりに書きたいと思ったのは、プレスリリースの裏にあったプロセスを自分の言葉で綴ってみようということ。今回私も「宣言」にまつわるSTORYを書かせていただく中で、「何をやったか」という部分に関してはプレスリリースで書けていましたから、そこに載らなかったストーリーをしっかり記すことで、プロセスあってのプレスリリースだったという説得力が増したと思います。

ありがとうございます。最後に佐志さんの今後の展望をお聞かせいただけますか。

佐志:結婚式は人生でも何度も味わうことのない経験ですし、自分に携わってくれる方々が一同に介するのは、結婚式かお葬式の二つしかないとも言えます。ただ、「お仕着せのドレスで画一的な挙式をするくらいなら」「よくわからない費用を挙式にかけるくらいなら」と、結婚式はせずに別のところに時間とお金を使いたいという新郎新婦が増えているのは、もったいないことだなと感じます。

コロナ禍で大変な時代の中ではありますが、「トキハナ」が打ち出した「withコロナ時代の結婚式宣言」とともに業界全体として、努力していきたい考えです。

そして、広報としては、今回の「宣言」で様々なステークホルダーと手を取り合ってPRの施策を考えられたように、今後も異業種の方々ともコラボレーションした活動ができればと考えています。こうした活動の一つひとつがブライダル業界の多様化の後押しにつながるのではないかと期待しています。


取材・編集:田代 くるみ(Qurumu) 執筆:前田 昌宏 撮影:関 竜太 ※本取材はリモートで実施し、別日に短時間の写真撮影を実施しております。