PR TIMESのイベント
PR TIMESは2018年2月26日、ザ・リッツ・カールトン東京において、PR・コミュニケーション領域の最新動向が学べるプログラム「PR TIMESカレッジ」を開催いたしました。
第1回目となる今回のテーマは、「共感を生むコミュニケーション」。10~20代女性に絶大な人気を誇りSNSで圧倒的な発信力を持つ菅本裕子(ゆうこす)氏と、“地元の味”のポテトチップスを商品化する「♥JPN(ラブ ジャパン)」プロジェクトを推進したカルビー広報部広報課課長の野原和歌氏を講師に迎えました。
お二人の講演内容と、その後、BuzzFeed Japan創刊編集長の古田大輔氏にモデレーターを務めていただいたトークセッションの模様をお伝えしていきます。
初めまして。“ゆうこす”こと、菅本裕子です。今回は、SNSにおける共感の重要性についてお話させていただこうと思います。
私は2012年までHKT48に所属していた元アイドルで、当時のTwitterフォロワー数は3~4万人ほど。ほとんどが男性でした。
それが2年前から、自分でSNSを使って自己プロデュースを始めたところ、私のファン層はほとんどが女性になりました。私のInstagramを見てくれているユーザーの78%は女性、YouTubeでは97%が女性です。
「ゆうこすって、アイドル時代から変わったよね」と言ってもらえることが増えたのですが、実は根本的な部分はあまり変わっていません。私という“商品”の根本的な部分は変えず、ターゲットを変えたことで、私のメッセージに共感してくれる人が増えていったのです。
私はHKT48を脱退した後、1人で男性ファンに向けたタレント活動を開始しました。
けれど、男性ファンに向けて「公道を走れるマリオカートを使って、みんなでトーナメントをしよう」と呼び掛けてみたのに、たった3人しか来てくれないという出来事がありました。
この出来事の後、「今のままではだめだから変わらないと。でも私自身は変えられない。どうしよう」と悩みました。元アイドルで活動している子はたくさんいるし、テレビをつけるとかわいい子ばかり映ります。競合がたくさんいる中で勝っていくためには、私に共感してくれる人たちにメッセージを届けないといけないと考えました。
どんな層なら共感してくれるかと考えまして、味方になってもらおうとターゲットに定めたのは、ぶりっ子をしたい女の子、男子には好かれても女子からは嫌われるタイプの女の子です。
そうした女の子たちに共感してもらえるように、「私はモテるために生きている」と発言してモテクリエイターと名乗り、コスメやファッションのことを発信するようになりました。
その結果、今ではSNSの総フォロワー数は100万人を超えました。2016年8月には起業して、テレビ、雑誌、テレビCM、イベントなどの活動に加えて、SNS上でのPRなどのお仕事も依頼してもらえるようになりました。
SNSでは「共感」が重要です。誰かに共感してもらえるメッセージを投稿できると、「もっと多くの人に共感してもらいたい」とその投稿を拡散してもらえるからです。
「共感」を生むためには、「どんな人に共感してもらいたいか」とターゲットを明確にすることです。
そして、「言いたいけど言えないこと」を発信すること。誰かの代弁者になって、「言いたいけど言えないこと」を投稿すると、すごく拡散すると感じています。
「人に広めたくなるような有益な情報を発信すること」。これが一番大事なことかもしれません。有益な情報を織り交ぜて発信していくことでファンが増えていきます。
あとは「ストーリー性があること」。企業アカウントで言えば、“人”を感じられるか、ということだと思います。アカウントを運営する企業や人のストーリー性を感じられるようになると、共感力が上がっていくと思います。
SNSで共感を生むには、TwitterやInstagramなどのSNSについて、それぞれの特徴を知り、使い分けていくことも大切です。
いろんなSNSが普及してきたことで、複数のSNSを利用する人が増えてきました。けれど私は、Instagramの投稿をTwitterで紹介するだけのツイートをよく見掛けます。せっかく複数のSNSを利用しているのに、ただシェアするだけではもったいないなと思います。
例えば私はハロウィンに、YouTubeへメイク動画をアップしました。このメイク動画をInstagramで紹介するときには、ハッシュタグを付けるだけではなくて、動画の中で使っているコスメを取り上げました。「いくらのコスメを使って、こんなメイクになりました。続きはYouTubeを見てください」と橋渡しをする投稿にしています。
Twitterでツイートするときには、15分くらいiPadを使って、使っているコスメやメイクのポイントを1枚の絵にまとめた画像を用意しました。Twitterは拡散されやすいのですが、タイムラインにはすぐに新しいツイートが流れます。目にとまる1枚絵を見せることで、印象に残りやすくするようにしました。
こうしたSNSそれぞれの特徴や使い分け方について、今回はTwitterとInstagramに絞り込んでお話しさせていただきます。
まずTwitterは、情報を拡散させて知ってもらうためのSNSです。Twitterユーザーの中には、自分のメインアカウント以外に、サブアカウントを使っている人もいます。拡散を狙うには、メインアカウントでリツイートしても恥ずかしくない情報を流すことが大切です。
Twitter上での「共感」には2つのタイプがあると考えています。1つ目は「私もそう思っていたけれど、人前で言えなかった。代わりに言ってくれて、ありがとう」という隠れた本音を代弁してくれたことへの共感です。
もう1つは「みんな知ってる? これ、よくない?」と知ったばかりの情報を共有したくなるタイプの共感。例えば、カルビーさんが最近、ポテチを取りやすい「スナックボウル開け」の方法を紹介して、SNSで話題になっていました。それはこちらに当てはまります。
こうした共感を呼ぶツイートのタイプを意識することに加えて、見せ方も気に掛けてください。まず1行目には、新聞でいう見出し、タイトルがあること。そして、ツイートの中にちゃんと余白を取っていて見やすいこと。あとはツイートのメインの部分に「URLはこちら」「駅前のここにある」など、分かりやすくポイントがまとめられていること。このように、ツイートする写真や文章も力を入れると、目立てるようになってきます。
次にInstagramです。Instagramではハッシュタグを使って情報を収集する「タグる」という使い方が広まっています。
タグることで、よりリアルな口コミを見つけられます。例えば、「今度働く予定のアルバイト先の情報を集めたい」のなら、店舗名などでタグると、そのお店に来ているお客さんの投稿が見つかり、客層が分かります。「これからラーメン屋に行こう」と考えているときに店舗名でタグると、今どのくらい混んでいるか、最新の投稿から混雑状況が分かるかもしれません。
実際、私が最近アップした投稿を比べますと、タグが2個の投稿と、タグが15個の投稿とで、アクション数が10倍違いました。
ただ、ハッシュタグはたくさん付ければいいというものでもありません。たくさん付け過ぎると、1つ1つのハッシュタグで検索したときに、上位表示される可能性が下がります。「こんな人に届けたいから、このハッシュタグを付ける」とちゃんと考えながら付けるようにしてください。
あと、Instagramと言えば、「写真がメインのSNS」と思われがちなんですが、実は橋を渡すために文章やハッシュタグに力を入れて、共感ポイントを投稿に埋め込んでいくことが大切です。
Twitterならフォロワー数が拡散のカギになりますが、Instagramではエンゲージメント率が重要です。というのも、タグったとき、最初に「人気投稿」として9つの投稿が紹介されます。「人気投稿」になるとリーチ数が大きく増えるのですが、「人気投稿」に選ばれるかどうかに、エンゲージメント率の高さが影響してくるからです。
エンゲージメント率を上げるために、私は投稿の最後を「みんなはどのカラーが好き?」「こっちかこっち、どっちがいい?」といったように、必ず疑問形にしています。コメントしやすい雰囲気をつくることで、コメントを増やしてエンゲージメント率を上げることができます。
ここまでSNS上での情報発信についてお話ししてきました。とにかく、まずはSNSで発信することが大事ではあるものの、工夫しないでただ発信しているだけではもったいないとも思います。
「この商品のことを知ってもらいたい」と思ってもらえるように、共感ポイントがたくさんある情報を発信していくことで、信頼度もどんどん上がっていくと思います。
私はSNSのことが大好きなので、これからもSNSで夢はかなうんだよということをもっともっと発信していこうと思っています。
カルビー広報部からまいりました野原和歌と申します。今回は、47都道府県の「地元ならではの味」のポテトチップスを開発した「♥JPN(ラブ ジャパン)」プロジェクトについてご紹介させていただきます。
このプロジェクトでは、2017年9月に第1弾、11月に第2弾、2018年2月に第3弾のポテトチップスを発売しました。第1弾と第2弾を合わせて、Twitter上で約38万件以上の投稿がありました。「この味をつくってくれてありがとう」「郷土の味を多くの人に知ってもらえてうれしい」「あまりの懐かしさに食べながら涙が出ました」など、カルビーのお客様相談室にも、たくさんうれしいお声を頂きました。
メディアでの露出量もカルビー史上最多。TV182番組 新聞・雑誌261誌、地域中心のWEB媒体237件, 地域を問わないWEB媒体1078件、ご紹介いただきました。
もともとこのプロジェクトは、2016年度に「いかにんじん味」のポテトチップスを福島市と共創したところから始まりました。
新商品に関する発表会を開いたところ、非常に多くのメディア関係者にご出席いただけました。商品発売からわずか1 週間で売り切れてしまい、最終的に時期をずらして3回販売し、総販売個数は79万袋と記録的な売上になりました。
それだけ大きな反響があったのも、地元の方々から問い合わせがあったり、他県で記者などを務めている福島市出身のメディア関係者から「紹介したい」と興味を持っていただけたりしたからだと思います。
その実績から、社長の伊藤が「お菓子を通じてコミュニケーションが生まれる商品をつくっていきたい。地域のためになる商品をつくりたい」と考えまして、47都道府県の「地元ならではの味」をつくろうと「♥JPN」プロジェクトが動き出すことになりました。
「♥JPN」プロジェクトの立ち上げに当たり、なぜ「いかにんじん味」がここまでヒットしたのかを考えてみたところ、「100人に1人しか知らない味であっても、自分が生まれ育った土地の味」「密かに愛している味だけれども、マイナー過ぎて紹介できない」といった味の方が、「母がお弁当に入れてくれた」「給食で出た」などの背景にあるいろいろな思い出を強く呼び起こし、自分事として感じてもらえる。だからこそ共感を生み、コミュニケーションが発生していったのではないかと推測しました。
ただ、カルビーは年間約200種類のポテトチップスを展開しています。その中には、地域限定の味、お土産用の味のポテトチップスも含まれています。
そうしたこれまで開発してきた新しい味は、外部の視点で見た○○県の味でした。そうではなくて、今回私たちが開発する「地元ならではの味」とは、“地元商品”を目指すべき。地元の人たちが愛している地元の味のポテトチップスを開発することで、地元の人たちに自分事化してもらい、思い出を呼び起こしてコミュニケーションを発生させようと試みました。
「♥JPN」プロジェクトでは、広報部も商品のコンセプト開発の過程から加わりました。「“地元”とは何か」「“郷土”とは何か」と話し合い、「地元を愛する人たちと一緒につくることでヒット商品を生み出して、地域貢献につなげていく」という大目標を立てました。
ここからぶれずに商品を開発していくようにして、県庁や市庁、地元の企業と協力しながら、ワークショップで最初に100案くらいアイデアを出して、その中から3案ほどに絞り込み、試作品をつくり、1つに決めて、そこからさらに味をつくり込む――というプロセスを47都道府県分、繰り返すことになりました。本当に、カルビー社員がみんなヘトヘトになるまで注力して、47都道府県分の味をつくり出すことができました。
次に、「♥JPN」プロジェクトのPR活動について説明していきます。
PRに当たり、一番こだわったのは「どれだけ多くの地元の人に知ってもらえるか」ということ。普段の広報活動は東京から発信することが多いのですが、今回は地元のメディアで最初に情報を取り上げてもらえるようにしようと考えました。
地元を中心にしてPR展開していくため、当社の社長か執行役員が、都道府県知事や市長に表敬訪問して、それをフックに県庁記者クラブや市庁記者クラブに情報を流して取り上げてもらう――という仕掛けを考えました。
ただ、社内には県庁へのパイプはありません。知事に表敬訪問する段取りをつけよう。そして、できれば一緒に「地元ならではの味」のポテトチップスを開発してもらおう。そんな考えから、プロジェクトが立ち上がったばかりのころ、まずは各都道府県のWebサイトをチェックして、数ある部署の中から該当しそうな部署を見つけ、その部署の代表番号に電話をかけました。
該当部署につながったら、まずは広報や広告の担当者があいさつに伺い、プロジェクトの説明をしました。共同開発に承諾してもらえたら、マーケティング担当者が伺って先述の商品開発を進め、最終的には都道府県知事への表敬訪問へとつなげていきました。
今回のテーマである「共感」について考えますと、「♥JPN」プロジェクトでは「社内の共感」「社外の共感」「顧客の共感」という3つの共感を生み出せるように広報活動をプランニングしました。
まず、「社内の共感」ということでは、、「課題と目標をチーム内で明確化すること」でした。私たちは社長から社員まで事前に話を通しておいて、社内コンセンサスを取っておくように努めました。また、社内を巻き込むため、社内アンバサダーを募集しました。カルビーは取り扱う商品によって事業部が分かれています。「こんな新商品が発売される」という情報を、他事業部の社員は知らないこともあります。
そこで社員一人ひとり に「♥JPN」プロジェクトのことを自分事化してもらえるように、社内アンバサダーを募集しました。そして各都道府県担当のアンバサダーが情報発信できる場をつくり、社長やマーケティング本部長などからのメッセージも発信し続けることで、社内で「♥JPN」プロジェクトを応援する雰囲気をつくり出していきました。
「社外の共感」ということでは、社外の方々とも目標を共有しました。プロジェクトを進める中で例えば、滋賀県の「地元ならではの味」として、鮒ずし味のポテトチップスを開発しました。これまでのカルビーなら、鮒ずし味なんて社内からの反対にあって開発は難しかったのではないでしょうか。今回も反対意見はあったのですが、滋賀県庁の方たちや商品開発に携わったカルビーの社員が「滋賀県民に向けて、これをつくりたい」と一部からの反対を押し切りました。協業する方々とも目標を共有し、方向性をぶらさずに進められたことがプロジェクト成功の一因になったと思います。「社外の共感」という意味ではもうひとつ、記者の共感を得るためには、「報道しよう」というよりも「応援しよう」と思ってもらうことも大切です。
例えば、山形県で山形芋煮味のポテトチップスを発表したときには、記者の方から「これはみそベースか、しょうゆベースか、どっちの芋煮なの?」と聞かれました。しょうゆベースと答えたら、「俺はみそ派だから、来年はみそ味でつくってよ」とリクエストいただいたのです。
このように、地元の味を愛する記者などのメディア関係者にも好感を持っていただける商品をつくり、応援してもらえたからこそ、メディアでの反響がここまで大きくなったのではないかと考えます。
最後に、「顧客の共感」。私たちは「♥JPN」プロジェクトを2020年まで続けていきます。今回発売したポテトチップスで終わりではなくて、来年、再来年と継続していきます。ここまでに発売した「地元ならではの味」に対してお客様から頂いたたくさんのご意見を取り込んで、これから開発する「地元ならではの味」を各都道府県庁などと相談しながら決めていきます。
こうしたストーリー性のある展開を続けていくことで、その先へとつながり、新たな顧客が誕生する。そして新たな顧客から、また還元されるものがあって、さらにその先へとつながっていく。これを繰り返していくことで、「顧客の共感」を呼ぶ商品が生まれていくのではないでしょうか。
「♥JPN」プロジェクトを通してあらためて感じたのですが、広報の仕事と言えば、プレスリリースを配信するパブリシティに焦点が当たりがちです。でも、パブリシティだけではできることが非常に限られてしまいます。
しかし、広報活動全体をプランニングして、どうすればお客様の行動を変化させることができるかと考えていくことこそ、広報担当者のミッションでしょう。そう考えると、広報の仕事はすごく自由度が高くて、楽しいものだと思います。
【コンテンツとディストリビューションの戦略を両輪で回す】
BuzzFeed Japanの古田です。まずはBuzzFeedについて、簡単にご紹介します。
BuzzFeedはコンテンツをつくる際、どんなコンテンツがユーザーの共感を呼ぶのかと記事1本1本のつくり方を考え、コンテンツ戦略を突き詰めています。
もう1つ重視しているのは、どうやってコンテンツをユーザーに届けるのか、ディストリビューション戦略を考えることです。マスメディアの時代においては、記事を書けば誰かがユーザーのところまで届けてくれました。それがインターネットの時代になって状況が変わり、ユーザーはスマートフォンを使って無数にあるコンテンツを利用できるようになりました。そんな状況で、どうすれば狙ったユーザーにコンテンツを届けられるか。コンテンツとディストリビューションの戦略を両輪で回して考えていくことが非常に重要になりました。
ただ、「何のためにやっているのか」という根底にある理念を明確にしておかなくてはいけません。そうしないと、単に数字を追い掛けるだけになってしまい、ユーザーのためにはなりません。ユーザーのためにどうするべきか、最初にはっきりと理念を定めておくことが大切です。
BuzzFeedはほとんど外注せず、社内でコンテンツをつくり、日々、コンテンツやディストリビューションの戦略について議論を重ねています。そうした取り組みを繰り返すことで、2018年2月時点で月間ユニークビジター数は2000万を大きく超え、動画コンテンツは月間1億ビューを超えました。そして今は、僕たちのコンテンツを見たユーザーが買い物をする、料理をする、旅行に行くといった「行動につながるメディア」になることを目指しています。
この後のパネルディスカッションでは、「共感を生むコミュニケーション」を実現するためにどうするべきか、ゆうこすさんと野原さんに伺います。「どんなツールを使えばいいか」といった方法論を知りたい方も多いと思いますが、最初に考えるべきは、どこでどうやってユーザーとの間に共感を生むのか、ということだと思います。
ゆうこすさんはインフルエンサー、カルビーはメーカー。共にメディアではありません。でも、共に情報発信していて、個人と企業がメディアと同じような戦い方をしています。これはソーシャルの時代になって、ゲームのルールが変わったからこそ可能になったことではないでしょうか。
「広報戦略」と言えば、「マスメディアにどう露出するか」と検討することが中心でしたが、もうそんな時代ではありません。企業が情報発信するときにどうするべきか、まずはゲームのルールが完全に変わったことを理解するところから始めるべきです。
この後、インフルエンサーと企業にはそれぞれどんな強みがあって、どんな作法でユーザーとコミュニケーションを取っていくべきか、お二人に伺っていきます。
[古田]最初にストレートに伺います。インターネットの世界で、企業が共感を広げていくには、どういったところがポイントになると思われますか。
[ゆうこす]“人”を感じさせることではないでしょうか。私はシャープのTwitterがヒントになると思います。以前の企業アカウントからは“人”を感じられず、定型文で発信・返信するだけ。それがシャープのTwitterは人を感じさせるメッセージで話し掛けてくるから、リプライやリツイートをしたくなるんだと思います。
[野原]コミュニケーションのひとつとしてインターネットの世界があるかと思いますが、広報業務を担当していて、突き詰めて考えていくと、「商品そのものがメディア」だと感じるようになりました。商品そのものに共感ポイントがないと、どうしてもメッセージが伝わりにくく、共感を呼び起こすことは難しいと思います。
[古田]先ほどのカルビーの「♥JPN」プロジェクトからも、商品の魅力が重要であると強く感じました。BuzzFeedもスポンサードコンテンツをつくっていまして、「いいスポンサードコンテンツをつくるには、いい商品の記事を書くこと」だと、あるライターさんが指摘していました。
同時に「いい商品」をつくっていても、「いい商品」であることがなかなか伝わらず、共感も広がらないと悩んでいる企業もあると思います。最初の共感を生むためには、どうすればいいでしょうか?
[ゆうこす]私は「私が届けたい相手に響くかどうか」と考えながら、PR方法を考えています。
[野原]遠回りかもしれませんが、「いい商品」であることだけでなく、「いい企業」「社会に必要とされる企業」であるという情報を常日頃から発信することも大切だと思います。
「♥JPN」プロジェクトの記者発表会では、30分ほどの時間のうち、20分をカルビーの紹介に使いました。カルビーが年間何トンのジャガイモを生産していて、どれだけ日本の農業と結び付いているのか。そういった社会への貢献性についてもPRしました。
[古田]野原さんが仰ったことは非常に重要なポイントだと思います。
共感を生むには、個別のコンテンツ、個人のパーソナリティ、メディア/企業のブランド、コミュニティという4つの要素が関係していると僕は考えています。
野原さんは個別のコンテンツで共感を生もうとしつつ、企業ブランドへの共感も生もうとした。相乗効果を狙ったわけですね。
[野原]昨春、ジャガイモが不足して「ピザポテト」が店頭から消えたときに、最後まで支えてくれたのは、カルビーという企業ブランドを好きな方たちだったんです。そのときに、商品のPRをするだけではなくて、カルビーのことも好きになってもらわないといけないなと強く感じました。
[古田]ゆうこすさんは、ファンの人たちから何を求められているか、深いところまで自分の分析ができていますよね。そういう分析はどうやったんですか?
[ゆうこす]ほぼ1人で分析しました。アイドルをやめて個人で活動するようになり、イベント参加を呼び掛けても参加者はたった3人で鼻を折られたとお話ししました。けれど、すぐに女性ファンだけをターゲットに切り替えたわけではありません。
しばらくは男性ファンも女性ファンも意識して情報発信しながら、TwitterやInstagramでフォロワーを分析しました。「まだ女子の方が人数は少ないけれど、反応が多いのは女子の方かな」と様子を見ながら、自分のカラーを決めていきました。
[古田]インターネットはコンテンツを利用してくれるユーザーの属性が分かるところが面白いですよね。
そうしたユーザー分析、カルビーではどのように取り組んでいますか?
[野原]調査会社を使っています。
話を変えてしまいますが、共感を生もうとすると、ある種のディスカッションを生むことにもなります。そのディスカッションがどの方向に進むか読めないので、企業としては怖いなと感じてもいます。
ゆうこすさんも、「このコメントをするとファンからどんな反応が返ってくるだろう」と、これから起きるかもしれないディスカッションのことを想定しながらSNSを利用していると思います。どういう判断基準で、投稿するかどうかを決めていますか?
[ゆうこす]私が楽しいかどうかだけです。「ファンが喜ぶ投稿をしよう」と考えて行動すると、私自身がぶれてしまいます。そうなると、私自身に共感してくれるファンがいなくなってしまいます。
そうしたファンこそ、最初の共感、第一波の情報拡散をしてくれる人たちです。「もっとこうした方がいい」とアドバイスしてくれる人がいたとしても、私と私の一番近くにいてくれるファンを大事にしたいので、私は自分が楽しいか楽しくないかで決めています。
[古田]本当に素晴らしいと思います。
自分に近い人からは共感が生まれやすい反面、遠いところにいる人から反感が生まれるリスクもあります。たとえ共感が100生まれて、反感が5しか生まれなかったとしても、企業としては反感が生まれるリスクを恐れて冒険しづらくなるでしょう。
カルビーは「♥JPN」プロジェクトで各都道府県の味を決めるとき、そうした反感は気にしませんでしたか?
[野原]気にしました。けれど、カルビーは「こうしよう」と決めたら、比較的ぶれない会社です。
ただ、別のメーカーに勤めている友人に聞いた話では、2~3件でもお客様相談室に苦情が届くと、「このプロジェクトはやめよう」となってしまうこともあるそうです。
だからこそ、私たちは最初に「こんな質問が来たら、こう返そう」とQ&A集を作成しておきました。反感が生まれることは覚悟して、それでも行動に移さないと、これだけ情報があふれている社会では伝えたい人にメッセージを届けられませんから。
[古田]そうしたときに、社内の共感を生んで応援してもらうコツはありますか?
[野原]「♥JPN」プロジェクトの場合、メディアの露出量ではなくて、私たち広報部も売上に対して責任を持つようにしたのが大きかったと思います。マーケティング部門などがすごく協力してくれました。
もう1つ、「♥JPN」プロジェクトの前に、3年掛けて実績を残してきました。最初の年にはスモールスタートでしたが、プロジェクトを1つずつ成功させていきました。次の年には、現在はポテトチップスのプロジェクト責任者を務めているブランドマネジャーと、同じプロジェクトに携わり成功に導きました。
そうした実績の積み重ねがあって信頼されるようになったからこそ、社内の共感を生みやすくなったのだと思います。
[古田]売上で握ったのは大きな決断でしたね。
[野原]結局、メディア露出量や広告換算値は、すごくバーチャルな数字なんですよね。商品情報が拡散したとしても、その先にお客様の行動につながる感覚がないんです。
売上で握ることで、マーケティング部門と目線が合って、社内の共感が生まれやすくなったと思います。
[古田]目標設定をどうするかが重要ですよね。PVだけを指標にすると、そのメディアは絶対におかしくなると思います。
BuzzFeedには自分たちで好き勝手に、自分の本当に好きな商品だけを紹介しているチームがあります。そのチームが記事を書くと、紹介した商品がお店の棚から消えるんです。これこそ、「行動につながるメディアだ」と思って、ワクワクしますね。
ゆうこすさんは、企業から依頼されたPR案件で、企業から「ここを目標にしてほしい」と頼まれて困ったことはありますか?
[ゆうこす]たくさんあります。たくさんのインフルエンサーに「こちらが指定した情報を流してくれたらいくら」と依頼しているお仕事は100%受けないです。
[古田]インフルエンサーのパーソナリティを無視していますよね。ユーザーにしても、「何だよ」と感じるでしょう。
[古田]最後にまとめとして、「共感」について思うことを教えてください。
[ゆうこす]私がモテクリエイターとして活動してきて、賛否両論はすごくありました。でも私は“否”の人を“賛”に変えたいとは思っていなくて、“賛”の人を大事にしたいです。
否定することは実は疲れます。否定する人はあっと言う間にどこかへ行ってしまいます。ですから私は、否定してくる人を無視するようにしています。
私はこれからも賛否両論あるぶりっ子なモテクリエイターでいようと思っていますけど、“賛”の人が1人でも増えてほしいですね。
[野原]広報という仕事は、スキルがとても重要になってきます。けれど、スキルにばかり目を向けていると、本来、広報がするべきミッションが見えにくくなってしまうように感じます。
広報のミッションとは、企業が提供する価値を伝えることによって、お客様の笑顔をつくっていくことだと思います。そういう気持ちを持って仕事に取り組んでいると、「共感を生む仕事ができている」という実感を持てるような気がします。
私自身、広報の仕事をしていて心が折れることもたくさんありました。それでも少しでもお客様の笑顔を増やして社会をよくするため、今後もPRに取り組んでいければ幸せだなと思います。
[古田]コミュニケーションディレクターのさとなお(佐藤尚之)さんと対談させていただいたことがありまして、さとなおさんがキャンペーンの企画・制作にかかわるときに考えていることを教わりました。
例えば、30代男性を対象にするのなら、企画を考えているとき、そのキャンペーンを実施すると30代男性が居酒屋で友達と飲んでいて笑いながらキャンペーンの内容を話しているシーンが頭に浮かぶ。そうなったときには、そのキャンペーンは成功していると仰っていました。
それ以来、僕もコンテンツをつくるとき、「このコンテンツを誰に届けて、受け取った人はどんな表情を浮かべるだろう」とすごく考えるようになりました。
これは恐らく、記事や動画に限らず、商品などにも当てはまる話だと思います。本日伺ったお二人のお話にも、共通する部分があるのではないかと感じました。
本日は、どうもありがとうございました。