PR TIMESのイベント
PR TIMESは名古屋銀行と共同で、「プレスリリース利活用セミナー」を2018年9月11日に開催しました。
名古屋市周辺の経営層や広報担当者などに集まっていただいた今回のセミナーでは、PR TIMESの山口拓己代表取締役社長から「事業と組織を強くする、プレスリリースの役割と可能性」、KADOKAWAで東海ウォーカー編集長を務める長瀬正明氏から「メディア人に響くPRとは。」、青柳総本家の後藤知成常務取締役から「創業139年。挑戦を続ける青柳総本家の心を伝えるPR。」というテーマで、それぞれ講演いただきました。
それぞれの講演の抄録を、こちらでご紹介させていただきます。
PR TIMESの代表を務めています山口と申します。プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を立ち上げて11年になりますが、この11年間でプレスリリースの役割は変わってきました。
そもそもプレスリリースとは、企業が報道向けの素材資料としてメディアに送付し、メディアが数あるプレスリリースの中から取捨選択して記事や番組などのパブリシティで取り上げることで、初めて生活者へ情報が届くツールでした。パブリシティによっては「話題になる」こともあり、生活者の反響を企業やメディアが受け取ることができるようになっていました。
でも、プレスリリースの配信数は増え続けています。今ではPR TIMES経由で配信されるプレスリリースだけで月間1万件以上。パブリシティとして取り上げられる確率は極めて低くなってきています。
海外の事例になりますが、デジタルメディアの記者が1年間に受け取ったメールは約3万8000通。そのうち約2万6000通がプレスリリースでした。主要ネット媒体の記者の45%は、1日1記事しか書きません。そこから計算すると、記事になるプレスリリースは100件のうち1件あるかないかということになります。
一方、PR TIMESはプレスリリースから「プレス」を取って、生活者に直接届けようと試みています。従来どおり、メディア向けにリリースを送りつつ、生活者、つまりパブリックに向けてもニュースとしてリリースを送る。そうすることで、ある程度の生活者には情報が伝わり、何らかの反響が生まれるようになってきました。
時にはパブリシティにならなくても、リリースを見た生活者がSNSなどで話題にして、それを目にしたメディアが「それなら取り上げてみようか」とパブリシティになることも増えてきました。
実際、『起業の科学』という書籍の中で、「日本でもアクティブなVCはPR TIMES、日経産業新聞、TechCrunch、THE BRIDGE、Pedia Newsなどスタートアップに強いメディアをくまなくチェック」していると紹介いただいています。
PR TIMESのサイト全体のPV数にしても、直近で月間1200万PVほどあります。日本有数のニュースサイトと比較しても、遜色ない規模です。産経ニュース、東洋経済ONLINE、Infoseek、LINE NEWSなど、180以上のメディアと提携していまして、PR TIMESで配信されたリリースがそのまま原文で転載されています。LINE NEWSにリリースがそのまま掲載されて、生活者に直接届くようにもなってきました。
広告とPRの違いについて、これまでは次のように例えられていました。
マイクとケビンがいて、マイクは「将来良い夫になる」とアピールしています。それは自分で発信しているから“広告”だと。一方、ケビンはいろんな女性から「きっと良い旦那になるよね」と評判です。こちらは第三者、言い換えるとメディアから評価されていますから“PR”に当たり、「信頼できる」情報だと思われます。
ところが、現在では先ほど例に挙げたLINE NEWSのように、自分で発信した情報であっても、生活者にとって貴重な情報であればニュースとして楽しんでもらえるようになりました。
つまり、自ら発信したリリースだからといって、届かないわけでも、信用されないわけでもなくなったわけです。そうなると「PR(パブリック・リレーションズ)思考」を持っているかどうかが重要になるのではないかと私は考えています。
それでは、PR思考とはどのようなものなのでしょうか。私はPR思考の対極にあるのは「営業根性」だと考えています。
営業の仕事の本質は、今の自分を多くの人に評価してもらうことです。短期的に売上を増やすために相手のことを考えず、「自分を買ってほしい。愛してほしい」というメッセージを発信します。
PR思考は、まったく逆です。社会の声に耳を傾けて、どのようにして応えるかを重視します。長期的な視野を持って戦略的・逆算的に考えて、「あなたが好きなんです。役に立ちたいんです」というメッセージを相手に伝えていくことになります。
PRのことを「宣伝」と誤訳する人もいますが、私はPRとは組織とその組織にとって大切な人たちとの間で、相互に有益な関係を築くコミュニケーションを核としたあらゆるプロセスだと考えています。
「大切な人たち」とは、利害関係者に限らず、顧客やユーザー、社員など、その人が思い浮かべるすべての人です。現時点で顕在化している「大切な人」だけでなく、潜在的な「大切な人」もいます。未来になったら「大切になる人」もいるかもしれません。
その中でプレスリリースは、「大切な人たち」に自分の行動や成果を伝えるコンテンツであり、「大切な人たち」にとって有益な情報を伝えるものになります。
もともと、プレスリリースの原点は、1906年にアメリカのアトランティックシティで起きた大きな列車事故を公開する文書だったと言われています。でも、それ以前から列車事故は起きていたんです。それをずっと隠し続けていて、不信感が募っていきました。その結果、隠して「安心だ」と言い張るよりも、「これだけの事故が起きました」という情報を公開した方が社会にとって有益になったから、公開に踏み切ることになったわけです。
先ほど例に挙げた列車事故ほど大きな出来事ではありませんが、誰しも経験してきたことで仮想のプレスリリースを作ってみました。「赤ちゃんが初めて歩いた」という事実をプレスリリースにしてみたのですが、これを配信したとしてもほとんどの人は興味を持ってくれません。
でも、親族や両親の友人、近所の人など、中にはその情報を待ちに待っている人がいます。そうした人たちは、「初めて歩いた」と知ったら感激すると思います。
それ以外の人にも、このプレスリリースに興味を持ってもらうにはどうすればいいのでしょうか。例えば、初めて歩いたときの月齢が世界記録よりも若かったとしたら、それ以外の人も一気に興味を持ってくれるようになります。尊敬と賞賛の気持ちが生まれ、すごく話題になるでしょう。
もう1つ、プレスリリースでは自分の行動や成果を伝えるだけでなく、背景も伝えることも大切です。私が赤ちゃんのプレスリリースを書くと、「何月何日何時何分に立ちました。何センチ歩けました」だけで終わってしまうでしょう。でも「大切な人たち」には、どんな状況だったか、どんな思いで歩いたか、どんな苦労をしたのかといった情報も伝えたいですよね。場合によっては、赤ちゃんのコメントも載せたいです。
ここまでのことを企業に当てはめて考えてみましょう。社会の声を広報部門や企業陣が広聴し、「社会の声に応えるためには何をすればいいのか」と考えて行動に移し、そのことを行動と成果に加えて背景情報まで収集して情報発信する。そうすることで、双方向のPRを実現し、事業や組織を強くすることができると考えます。
私がこの1年で最も印象に残ったニュースは、「2017年、旅客機の事故は1件も起きなかった」というものです。
私が生まれた1974年には、旅客機の事故で亡くなった方が2000人ほどもいたそうです。それでも、数多くの犠牲を乗り越えながら技術革新やいろいろな人の努力によって飛行距離や安全性などを高めていって、これだけ素晴らしい成果が達成されました。
ところが、このニュースを取り上げた日本語の記事は、1つも見つけることができませんでした。旅客機の事故があればメディアに注目されて大きく報道されますし、最近ならSNS上で現場の動画・写真が拡散されて多くの人の目に触れることになると思います。
旅客機事故による死亡者がゼロになっても、話題にならなかったというのは、私たちの事業が抱える課題です。事件や事故、スキャンダルなどが大きく取り上げられる一方で、企業で働く皆さんが努力を重ねて、事業活動の中ですごく貴重なことを達成したとしても、なかなか取り上げられません。
そうした状況を私たちの事業を通じて変えていきたいですし、社会に知ってもらうことで尊敬と賞賛を集めるような情報を発信するお手伝いができればと願っています。
情報を発信していくことで、興味を持った企業が新規参入してきて、自社の競合となる企業が増えるかもしれません。けれど、競合が増えることで、また社会が良くなります。そう考えてPRに取り組んでくださる方が、1人でも2人でも増えればいいなと思って、本日のお話を締めさせていただきます。
東海ウォーカー編集長の長瀬です。「毎日が、休日がもっと楽しくなる!」をコンセプトに、雑誌とWebで東海エリアの最新遊び情報を発信しています。
本日はメディアがどうやって記事にするプレスリリースを選別しているのか、どうすれば記事に取り上げようという気持ちにさせることができるのか、といった話をさせていただきます。
情報流通の現状について考えてみますと、情報過多になっています。ある調査によると、2010年に世界中で流通した情報量は1億ゼタバイトだそうです。世界中の砂浜の砂粒すべてを足し合わせたほどの膨大な数とのことです。メディアもわれわれのような雑誌やテレビだけでなく、Web、SNS、個人などのメディアが台頭し、多様化してきています。さらにユーザーの趣味・嗜好も多様化しています。
このような状況ですので、ユーザーがマスメディアに接触する時間も減ってきています。マスメディアだけでは、十分な数のユーザーにリーチできなくなりました。
また、メディアに届く情報も膨大ですので、メディアの側ですべての情報(リリース)は見切れません。弊社のサイト「ウォーカープラス」に掲載される記事の本数は月間1000本ほどですが、そのうちプレスリリースを基にした記事は100本くらい。ウォーカープラスに届くプレスリリースの件数は月間30000件ほどですから、採用率は0.3%ほどしかないことになります。
やみくもに取り組んでも効果が得られず、時間もロスします。ですからPRに取り組むなら、「どこへ」「どう」発信するかが重要になります。
まず情報を「どこへ」発信するか考えてみますと、「ユーザーへ直接」届けるやり方と、「メディアを介して」届けるやり方と2つあります。
「ユーザーへ直接」情報を発信する場合、商品・サービスの購入・利用につながる確度が高いという利点があります。既存の顧客IDを利用して、メールマガジン、ダイレクトメール、SNSなどを介して情報を届けます。そうすることでファンを増やし、リピーターになっていただく。繰り返すことで、いいスパイラルが生まれていきます。
2つ目に、「メディアを介して」露出・接点を増やすやり方があります。テレビ、新聞、雑誌、ラジオといったいわゆる4マスに、WebやSNSを掛け合わせていくことで、情報拡散を促すことができます。
メディアが情報を取り上げる順番、情報伝達経路は、今は最初にSNSや個人などで発信されるのとWebメディアで取り上げられます。テレビ(報道)やラジオ、新聞が続き、その後、雑誌、テレビの企画系の番組などが時間をかけてじっくりと特集記事や番組などを作り込んでいくことになります。
そう考えると、まずは入り口になるSNSとWEBを使っていかにバズらせるかが、その後のメディア拡散を左右してくるわけです。実際、テレビ局の企画担当者の中には、企画会議中に東海ウォーカーなどの雑誌やWebメデイアを参考にしている方もいらっしゃいます。我々含め、メディアの人間はなんらか他メディアから情報収集はしていることが多いので、露出が増えるほどより取り上げられる機会が増えます。
次に「メディアを介して」情報発信するため、メディアとどう関係を築いていけばいいのか、メディア視点で話をさせていただきます。
メディアの目的は、自社商品が読まれること、売れることです。テレビで言えば視聴率、WebメディアならPVやUUが上がることです。他には、販促効果があること。メディア価値の向上も目的としています。
要するに、メディアはターゲットとするユーザーをいかに動かせるかを重視しています。メディアにとってはユーザーに影響力を持つことが食い扶持につながりますから、プレスリリースで届いた情報の中身と、媒体特性、ターゲットユーザーに合った情報であるかでプレスリリースを選別しています。
こうした点を踏まえて、メディアを見極め、使い分けていくことが必要です。
続いて、メディアの使い分け方、メリハリを付けた活用・発信方法について触れていきます。
具体的には、顔が見える関係を築いていく「Face to Faceメディア」と、プレスリリースのやり取りだけの「リリースベースメディア」を使い分けましょう。
「Face to Faceメディア」は企業とメディア、お互いのターゲットユーザーが一致していて、なんとしても情報を掲載してもらいたいメディアです。「リリースベースメディア」は、ターゲットが一致していなくても構いません。プレスリリースを配信して記事掲載に至る可能性があるのなら、広く浅くお付き合いしていくべきです。
Face to Faceメディアとの関係の築き方ですが、まずはターゲットが一致するメディアの選別を進めていきます。最重要メディア50~100社をリストアップして、各社と関係を築いていきます。
最重要メディアと関係を築く際には、決裁権のあるキーマンをつかまえていくことが大切です。さまざまな手段で接触し、名刺交換して仲良くなっていきましょう。
補足になりますが、すごくしつこい人、1回1回の話が長い人、一方的な人、忙しい日時に連絡してくる人、原稿チェックのときに赤字をたくさん入れて戻してくる人などは嫌がられる傾向があります。メディア担当者の立場にたって考え、よい人間関係を築いていってください。
発信する情報の中身については、「五感PR」を意識してください。
「五感PR」の五感とは、世の中のニーズに対してタイムリーに応える“旬”感、新しさ・独自性・No.1であることで驚かせる“驚”感、実際に体験できて納得感を得られる“実”感、商品・サービスの開発背景にある思いやストーリー・熱量などが伝わる“情”感、「良い情報だからメディアとしても拡散に協力したい」と思わせる“共”感です。これらの五感が多ければ多いほど、記事として掲載したい情報になります。
また、あえて反対意見を呼んで炎上させることで話題にする“反”感という手法もありますが、リスクが高いので避けた方がいいと思います。
ここからは、記事として掲載される確度を上げるテクニックを紹介していきます。
おもにWEBサイトでの記事に関してですが、テレビや雑誌などでも通じるものがあります。
まず、メールの件名。何の情報か分かりにくい件名だと、ろくに読まれずにふるい落とされます。パッと見て内容が分かるようにしましょう。プレスリリースのタイトルは、できるだけ短く25文字程度が望ましいです。
重要なキーワードは2つ程度に絞って、できるだけタイトルの前の方に入れましょう。
難しい漢字や横文字は避けて、読みやすくしてください。
「半端ない」のような流行語を採り入れるのも効果的です。
売り手である企業と買い手であるユーザー、さらに世間のことも意識して「三方よし」になっているのが理想です。
次にプレスリリースに載せる写真素材ですが、タイトルと一致している写真を選びましょう。
それから、写真は2点以上用意してください。写真が2点以上掲載された記事なら、Yahoo!ニュースなど、外部配信先のサイトに「もっと写真を見る」というリンクが掲載されて、配信元へ読者が流れてきやすくなるので、メディア側は2点以上の画像を必須と考えます。
スマートフォンで記事を読むことが増えてきていますので、細かい描写が多い写真は好まれません。
ポスターやチラシなどの画像も、あまりクリックされないので好ましくないです。
あとはサイズができるだけ大きな画像を配信してください。
内容によっては図解やグラフも用意しましょう。配信内容が分かりやすくなり、説得力が増します。
続いて、プレスリリースの内容です。
タイトルと共通するところも多いですが、要点を600~800文字程度にまとめて分かりやすくしましょう。キーワードを目立たせ、上からなぞって読めば「こういう記事を書けばいい」と記者がイメージしやすい流れにしておくといいです。
また、記事を書くときに、すべてタイピングするのは大変です。ファイル形式はテキストをコピー&ペーストできるPDFにしましょう。
他紙と差別化しやすいように、補足要素を別紙で用意するなど、メディアごとに記事の特徴(差別化)を出しやすくすることも大切です。
ユーザーが記事を読んだときにアクションしやすいように、店舗に関するプレスリリースなら、住所・主なメニュー・価格などを掲載しておくといいと思います。
掲載する情報は具体的・客観的な内容になっていて、根拠を示す数値などを盛り込みましょう。取材して裏取りする必要がなくなるので、メディアに喜ばれます。
プレスリリースを配信する最適なタイミングは、メディアによって異なります。
例えば、明日から始まるイベント情報を前日に送ると、記事を書く時間が十分に取れないとスルーされてしまいます。
東海ウォーカーなどのお出かけ情報メディアや、テレビの情報番組などは、週末の土日に向けて情報を発信します。火~水曜に情報をいただけると採用しやすいです。
また、2月や8月はプレスリリースの本数が減りますので狙い目です。
月刊誌ならかなり先まで見据えて動いています。情報掲載を希望する2カ月前には情報を届けておく必要があります。それぞれのメディアが企画を立てるタイミングを把握して、それに合わせて配信しましょう。
掲載前の校正が必須になると記事化のハードルが上がります。戻ってきた校正の赤字の量が多いと、さらに上がります。
どうしても掲載に至らせたい情報は、プレスリリースを送るだけでなく、郵送したり持参したりしましょう。メディアの人間も人の子ですので、相手の顔が見えていると記事化する確率は高くなります。
重要視しているメディアにだけ、少し早めにプレスリリースを送ったり、追加情報を提供したりといった手段も効果的です。
広報担当者として、メディアからの問い合わせにはレスポンス速く対応しましょう。
インフルエンサーが絡んでいて、記事化すればSNSでの拡散が見込めるようなら、メディアも記事化したくなります。
まず最初は見本となる良いプレスリリースを真似てしまうのが効果的だと思います。
最後に、メディアとコラボレーションしてニュースを作る手法もあります。例えば、我々もデパートなどと組んで「秋だからこんなスイーツをコラボして作ろう」といったお話をいただくことがあります。我々にとってはOnlyOneの情報となり、先方にとっては集客の施策となり、消費者にとっては楽しみができる、皆がWinWinの企画となるわけです。そうした情報は当然100%掲載しますので、商品開発からメディアを巻き込むのも非常に有効です。
みなさんこんにちは。青柳総本家の後藤と申します。当社は主にういろうを作っているメーカーです。PRに力を入れ始めたのはここ数年で、偉そうにどうこう言える立場ではないんですけれども、どう奮闘しているかという事例を交えつつ、お話をさせていただきたいと思います。
青柳総本家は、明治12年創業、来年140周年を迎えます。知名度はそれなりに高いですが、小さな会社です。従業員数は160名、そのうち正社員が80名ほど。私が広報業務の他に経営戦略やマーケティング、商品企画なども担当しているように、1人1人がいろんな業務を担当しています。
われわれが抱えている問題意識について語らせていただきますと、ういろうは名古屋のお土産として需要が高いのですが、地元で楽しまれることは比較的少ないお菓子です。おそらく6割以上は名古屋の外で食べられているのではないか思います。
そして若年層ほど、ういろうの食体験が減っています。若者の間で「ういろうは名古屋名物」という認識が薄れているのではないかと危機感を覚えています。
また、長年にわたって地元で「白、黒、抹茶、上がり、コーヒー、ゆず、さくら」という歌を流すテレビCMを続けてきた結果、ブランド認知度は高くなっています。ですが、本当に地元に愛されるブランドになれているか、まだまだ努力が足りないのではないか、という問題意識もあります。
最近の傾向として、10~20年前と比べて、広告予算を大幅に減らしてきています。代わりにPRの強化を進めているところです。
昔は景気が良くて予算もあるので、テレビなどのマスメディアにCMを流しておけばそれなりに機能していました。けれど、今はWebメディアやSNSなども台頭し、多様化してきています。ターゲットとする顧客層も多様化していますから、PRに力を入れて情報発信力を高め、新製品情報だけではなく、商品開発などに関するストーリーや社会貢献活動なども伝えていこうとしています。
PRに注力するようになって、しばらくは記事などで取り上げていただくのに苦労しました。けれど、いったん取り上げられるようになってくると、そこからは連鎖的にメディアからの取材依頼が入るようになり、次の活動につなげやすくなりました。
これまでのPRを振り返ってみると、細かな手法も大事ではありますが、それより前に事業活動を充実させることが先決です。やるべきことをちゃんとやっておくことが重要で、そこさえできていればPRの難度は下がるのではないかと感じています。
ここから、当社のPR事例をご紹介していきます。数年前に「青柳ういろうforアスリート」というちょっと変わった商品を発売しました。
ランナーに走りながら食べていただくことを想定した商品で、名古屋ウィメンズマラソンの33km地点で2万数千個を補給食として無償提供しています。
最初は、走りながらういろうを食べることに反対する意見も目立ちました。けれど、実際に配ってみると、33km地点になると非常にお腹が空くようで、すごく人気になりまして4~5年続けています。
ここで少し、当社の商品企画の考え方について話をさせていただきます。当社は中小企業ですので、事前にしっかりとしたリサーチをして商品を企画しているわけではありません。ある意味、感覚です。ただ、お菓子というものは、「今の流行はこうだから、こんな商品を作ろう」という考え方では何かが足りないのではないかと思います。
例えば、バレンタインデーに女の子が好きな男の子のためにチョコレートを手作りするとします。どんな形が好きか、どんなパッケージがいいかと聞いて、男の子の好みのまま作ったら、うれしいと思ってもらえるとは思いますが、どこか物足りなさも感じるのではないでしょうか。
ですから、当社は商品企画をするときに、マーケット全体を考えてから、個人レベルにまで焦点を絞り込みます。「こういう人をこんな感じで喜ばせたい」とイメージして、そのための商品を企画します。
喜ばせたい相手のことを思いながら作る。これは個人でも会社でも、同じことです。これがお菓子作りの本質だと思います。
ですので、青柳ういろうforアスリートも、「大阪在住。マラソンが趣味のOL、鈴木のぞみさん28歳。名古屋ウィメンズマラソンで走ることが決まり、ワクワクしながら名古屋にいらっしゃる」と想定しました。「名古屋ならではの補給食があると走るのがもっと楽しくなるのではないかな」「限定感のある面白いメニューだとうれしいだろう」などと考えながら企画していきました。
その青柳ういろうforアスリートを発表したときのプレスリリースをご紹介します。
気を付けたポイントは、A4用紙1枚で簡潔にまとめたところ。あとはヘッダー部分のデザインを作り込みました。ヘッダーを見ればメディア関係者に「青柳総本家からプレスリリースが来たんだな」とすぐに分かっていただけるようにしています。
内容については、タイトルを付けて、商品にまつわるストーリー、開発のきっかけ、商品特徴を順に記していきました。やはり「マラソンの補給食にういろう」と聞いて違和感を抱く人がいると思いますので、「主原料は米粉。主成分の炭水化物がおなかにたまり、空腹感を緩和できる」「ミネラルを豊富に含んだ『球美の塩(沖縄・久米島産)』を使用」「適度な水分量で口の中でベタつかず、スポーツ時にも食べやすい」など、機能的なところもしっかり説明しました。
プレスリリースを配信した結果、当社としては初めて、Yahoo!のトップページで取り上げていただくことができました。
青柳ういろうforアスリートは、イベントや通信販売でしか販売していません。商品単体で見ると収支が合っておらず、補給食として無償提供する分の原価を辛うじて回収できるかどうかという状況です。
ただ、それでもわれわれはこの取り組みを継続するべきだと考えています。「地元の企業として、地元のマラソンを盛り上げたい」という地域貢献の思いもあります。ういろう自体、これから自然に市場が拡大する商品ではありませんから、接点をたくさん作っていかないと忘れられていってしまうのではないかという危機感もあります。
そう考えると、2万人以上にサンプリングして、ういろうを食べてもらおうと考えたら、それだけでものすごい金額がかかります。2万人以上にういろうを食べていただけることを考えると、短期的には決してもうかりませんが、中長期的には効果のある取り組みだと考えています。
続いて、もう1つの事例をご紹介しましょう。名古屋ローカルのテレビ番組で、タレントさんが青柳総本家の工場にいらっしゃって、オリジナルういろうを作り、アイドルメンバーにサプライズでプレゼントするという企画がありました。「ういろうがメディアで露出するなら」と取材を受けまして、星の形を入れたオリジナルういろうを作ることになりました。
当初は市販するつもりはなく、番組で放送したらそれで終わりだと考えていました。ところが、放送後にTwitterで反応を見てみたら、そのアイドルグループのファンの方々が「これ食べたい」とつぶやいていらっしゃって。すぐに会社へ電話して「こんな反応があるから、1週間で準備して発売しましょう」と打ち合わせしました。
そのことをファンの方にどう伝えようかと悩みましたが、私が個人的に使っていたTwitterアカウントからハッシュタグを付けて「ご要望が多いので、こういうことを企画します」と投稿したら、数時間でいいね1500件、リツイート1000件が発生し、延べ14万人以上に情報が拡散されました。発売日にはファンの皆様に行列を作っていただけるほどの反響が生まれました。
これだけ反響が大きくなったのは、「喜んでくれそうな人がいるなら、われわれのやれることをやって応える」という当たり前のことをやったからでしょう。このケースでは偶然、SNSを通じて双方向のコミュニケーションが生まれましたので、より一層、楽しんでもらえたのではないかと思います。
他にも、アイドルグループのSKE48が「意外にマンゴー」という新曲を発表したとき、当社がマンゴーういろうを販売していたのに注目していただきました。パッケージに「意外に」という文字を付けて、コンサートなどのイベントで限定販売することになりました。
パッケージの裏側には、青柳総本家の紹介を書いている欄があるのですが、文体はそのままにして、文章をSKE48を説明する内容に書き換えました。アイドルファンの方はこうした細かいこだわりを喜ばれるようで、非常に好評でした。SKE48のファンには30~40代の男性が多いそうです。そうした層に広告やPRでリーチする手段は限られていますので、「意外にマンゴー」をきっかけに接点を持てたのは幸運でした。
東京ガールズコレクションin名古屋で、限定コラボういろうを販売したこともあります。10~20代の若い女性が参加するイベントでういろうを販売して何本売れるんだろうと悩ましかったのですが、がんばって600本作って持ち込んだら、1時間で売り切れてしまいました。10~20代の若い女性がこれだけういろうを口にする機会は滅多にありませんので、ういろうと若者との貴重な食の機会作りができました。
ういろうを学校給食に提供することもあります。昔からずっと一口サイズのういろうを提供していましたが、数年前から学校給食用の専用パッケージを作りました。当社のロゴにも使っているカエルの柄を入れまして、カエルの吹き出しに「青柳ういろうは何からできているか知ってるかな?」と書いておいて、パッケージの裏側に答えを記載しました。食育の要素を絡め、楽しみながらういろうを食べてもらえるように工夫してみました。
産学連携の取り組みも、若年層との接点を増やすために力を入れています。私が大学のゼミにボランティアで伺い、マーケティング教育に関わっています。ゼミでは最終的に学園祭で模擬店を出して、学生たちが開発したオリジナルういろうを販売しています。こうした取り組みは地道かもしれませんが、社会貢献としても、ういろうの未来のためにも重要であると考えています。
われわれは日々の業務の中で、「誰の何に貢献したいか」を明確にして仕事ができているか、仕事を通じて誰かの喜びに本当に貢献できているのか、この仕事は本当にわれわれがやる必然性があるのか、と常に自問自答するように心掛けています。
老舗企業として、短期的な視野で流行を追うのではなく、長期的に青柳総本家にとって意義があることに取り組もうと考えているからです。
老舗企業ですから、守らなければならない伝統もあります。どうしても保守的になりがちですが、やはり挑戦を続けていかないと、10年後の150周年、60年後の200周年を迎えるのは難しいと思います。
明治12年の創業時、青柳総本家の人たちは「これを守ろう」と思っていたのではなく、ただ「近所の人たちを喜ばせたい」と思ってお菓子作りを始めたんだと思います。守るべきは「その志」であって、「商品は必ずしも昔と全く同じものを変わらず作り続けないといけない」と考えるのではなく、しっかりといま目の前にいるお客様に喜んで頂けるよう進化させていくべきです。
現代や未来のお客様のために、われわれが培ってきたものをどう役立てることができるのか、常に問い続ける必要があると考えています。
そんな状況でPRに力を入れるようになり、非常に意義のある取り組みだと感じるようになりました。われわれはまだ発展途上です。今後もPRについて勉強して、努力を積み重ねていく必要があると痛感しています。