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[PR TIMESカレッジVol.5]苦しい状況にのまれず、行動を続ける中で見えてきた「ファン」の存在とは(Part.2)

  • 原 謙太郎(株式会社ヤッホーブルーイング よなよなエール広め隊 ユニットディレクター)
  • 遠藤 さちえ(湘南ベルマーレ 広報)
  • 南 麻理江(ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社 編集者・ピープルディレクター)

DATA:2019.08.02

ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)の原謙太郎さん、湘南ベルマーレ(以下ベルマーレ)の遠藤さちえさん、そして、モデレータにハフポスト日本版(以下ハフポスト)南麻理江さんを迎え「熱狂的なファンを生み出すパブリックリレーションズ」をテーマにした第5回目のPR TIMESカレッジ。

Part.1では、三者それぞれのゲストプレゼンの様子をレポート。具体的な戦略や、広報現場に立つ際のマインドなど、それぞれの立場から広報という仕事に欠かせない視点が紹介されました。Part.2となる今回は、パネルディスカッションの様子をレポートしてまいります。南さんがモデレータとなり、熱狂的なファンを生み出すために積極的にPRを実践するヤッホー、湘南ベルマーレの両社はどのような施策を展開し、ポジティブな循環を生み出していったのかを伺いました。

存続危機をきっかけに見えてきた「ファン」の存在

組織の規模はそこまで大きくないながら、熱狂的なファンを持つブランドとして知られているヤッホーと湘南ベルマーレ。両社はいったいなぜ、「ファン」という存在を強く意識するようになったのでしょうか? パネルディスカッションからは、全く業態の異なる両社に、ある共通のストーリーがあることが浮き彫りとなりました。

湘南ベルマーレでは99年に、親会社であったフジタが経営難によってスポンサーから撤退。それまで、中田英寿をはじめ、呂比須ワグナー、小島伸幸など、日本代表選手を輩出する強豪クラブは、一転してゼロからの再出発を強いられます。

遠藤:それまで、ベルマーレは華やかな選手が数多く在籍するチームであり、「ベルマーレを見に来てくださいね」という感じの、余裕のある広報を展開していました。しかし、存続の危機によって多くの変化を強いられることになります。
この危機によって、クラブ側は「ファンのみなさんとともに歩んでいきます」と、ファンに寄り添った姿勢に生まれ変わり、サポーターも『自分が支えなければクラブがなくなってしまうかもしれない』と、クラブの存在が「自分ゴト」になっていった。当時はとても苦しい時期でしたが、これはすごいチャンスだと思ったことを覚えています。ベルマーレを取り巻く環境が変化することによって、「ベルマーレは我がチーム」という意識がファンの中に拡大していったんです。


そんなピンチをチャンスに変えて生まれ変わったベルマーレは、ファンや地域の人々と緊密なコミュニケーションのもとに歩むことを選択。00年代初頭には4000人あまりだった平均観客動員数も、10年代には10000人を超える数に増加していきました。

一方のヤッホーも、00年代には経営危機に直面。97年の創業から数年は地ビールブームによって好調な時期を過ごしますが、ブームの終焉に伴って状況は一変。創業より8年連続で赤字を叩き出す苦しい時期を迎えます。

原:00年代は売上が右肩下がりを描き、倒産寸前の状況でした。それまで、身近なスーパーなどで購入できていた「よなよなエール」も、だんだんと販売店舗が減少していったんです。
そこで、起死回生の取り組みとしてネット通販で購入できる仕組みを整えたところ、よなよなエールを買いたくても買えなかった全国のお客さんからの購入が相次ぎました。その時に嬉しかったのが、ファンの方々の励ましの声が直接届くようになったこと。そんなファンの想いが伝わり、会社も盛り上がりを取り戻していったんです。

ネット通販事業を始めることによって、全国のファンの存在が可視化され、その結果会社自体が盛り上がっていく。そうやって生み出された機運によって、同社では14年連続の増収増益を記録。以降、クラフトビール界の最大手の座を獲得していきました。


社内から懐疑的な声も。たった50人の参加者から始まった「宴」

ところで、ファンに向けたコミュニケーションといえば、真っ先に思い浮かぶのがSNSを使った広報活動。SNSの効果的な利用は、ロイヤリティを高め、ファンを生み出すことに繋がります。両社でも、SNSを始めとするオンラインの広報活動を積極的に展開しており、ヤッホーでは、公式アカウントを使って社員が自由にパーソナリティを出して発信するという独自の取り組みを展開し、10万人以上のフォロワーを獲得。しかし、同社が熱狂的なファンを生み出すために何よりも大切にしているのは、オンラインではなくリアルな場での活動でした。

Vol.1でも紹介された同社が手がけるイベント『よなよなエールの超宴』には、全国から5000人のファンが結集しています。しかし、この事業を開始した11年、集まったファンの数はわずか50人あまりだったとか。


原:『よなよなエールの超宴』は、今でこそヤッホーの主力施策となっていますが、動員50人あまりだった当初は、『こんなイベントをして何になるのか…』と、社内から懐疑的な意見を向けられることもありました。
ただし、関わったスタッフたちは大きな手応えを感じていた。50人という数字は決して多いものではありませんが、普段エンドユーザーの声を聞く機会もなく、ファンの顔が見えづらい環境にいる社員にとっては、『こんなにたくさんのファンがいるんだ!』と、感激する場になったんです。

開催当初の100倍以上に膨らんでいる『超宴』のイベントを取り仕切るヤッホーの社員は、すべて、社内の立候補によって集まっています。社員が自主的に手を挙げる熱意がファンに届き、新たな熱狂を生み出しているのです。

原:実は、『超宴』にお越しいただくお客様の半数は、ヤッホーのイベントの未経験者。熱狂的なファンの方々が、このイベントを機会に、初心者の方を連れてきてくれることで、新たな『ファン』が育っていくという循環が生まれているんです。リアルな場所でコミュニケーションをとっていくことが、熱狂的なファンを生み出していくことには欠かすことができません。


原さんからの「リアルな体験」を重視するという意見には、ベルマーレの遠藤さんも深くうなずきます。湘南ベルマーレでも、04年からクラブカンファレンスを開催。数百人のサポーターを前に、会長、社長、広報、強化担当者らがクラブの説明を行うこのイベントは、年3回の頻度で開催されています。

遠藤:湘南ベルマーレでは、成績が良い時でも悪いときでも欠かさずにこのカンファレンスを行っています。この時に心がけているのが、『オープンマインド』であること。成績が悪ければ、サポーターの方々からネガティブな意見も数多く寄せられますが、そんな意見も逃げずにしっかりと受け止めて答えていく。そうすることによって、ファンの方々と濃密な関係が生まれていくんです。
また、ベルマーレでは、サッカークラブの他にビーチバレーやトライアスロンのクラブも所有しており、年間で1300回ほどファンの方々と接点を持つ機会があります。そもそも、サッカーチームは地域みんなのものであり、ファンだけのものではありません。熱狂的なファンだけでなく、湘南地域に住む人々とも、どのような接点を持てるかを大事にしていますね。

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原さん、遠藤さんとも、リアルなイベントを継続していくことによってコミュニケーションを図ってきました。1回だけで終わるイベントではなく、長期的に関係性を持っていくことによって関係の薄かった生活者からファンが育ち、熱狂的なファンへと成長していく。熱狂を生み出すプロセスには、長期的な視野に立った戦略と、継続していくための底力が欠かせないようです。

次回、Part.3では、パネルディスカッション後半戦の様子をお伝えするとともに、今回初めての試みとなる全参加者でのワークショップの様子もご紹介いたします。PR TIMESカレッジに参加された150名の広報パーソンは、ヤッホー、湘南ベルマーレの事例を受け、どのような学びを得たのでしょうか。

特設サイト:PR TIMESカレッジ


取材・文:萩原雄太 撮影:近澤幸司