EVENTS 22

[PR TIMESカレッジVol.5]広報にかける「熱意」が交差。様々な活動がアップデートされていく場に(Part.3)

  • 原 謙太郎(株式会社ヤッホーブルーイング よなよなエール広め隊 ユニットディレクター)
  • 遠藤 さちえ(湘南ベルマーレ 広報)
  • 南 麻理江(ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン株式会社 編集者・ピープルディレクター)

DATA:2019.08.02

湘南ベルマーレの遠藤さちえさん、ヤッホーブルーイング(以下、ヤッホー)の原謙太郎さん、そして、モデレータにハフポスト日本版の南麻理江さんを迎え、「熱狂的なファンを生み出すパブリックリレーションズ」をテーマに開催した第5回目のPR TIMESカレッジ。三本立てでお届けしているカレッジレポートのPart.2では、チームの存続危機に直面して感じたファンの大切さや、リアルな場で接点を持つことによって生み出されるファンの熱気などが語られました。

最後のパートとなる本稿では、白熱したパネルディスカッションの後編をレポートするとともに、今回初めての開催となったワークショップの様子を紹介します。150名の参加者たちはPR TIMESカレッジからどのような学びを得たのでしょうか。

裏側まで見せる誠実さがファンの熱狂度を高める

これまで、湘南ベルマーレでは、「オープンマインド」をキーワードに、ファンからの厳しい声に対しても誠実に向き合ってきた。そんな誠実さが、ファンのチームに対するロイヤルティを強固なものに変えていきます。

その好例が、湘南ベルマーレが、毎年のチームの様子を振り返るために作成している「イヤーDVD」。ここでは、単なる「ファンサービス」にとどまらない内容が盛り込まれています。特に、2018年に制作したDVDは、ロッカールームでの選手同士の激しい言い合いの様子を収録。舞台裏で行われる真剣なやり取りが好評を博し、売上は例年の4〜5倍を記録しました。

遠藤:そもそも、イヤーDVDを手がけるようになったのは、5年前に選手からの提案を受けたことがきっかけ。選手たちはロッカールームの中で、監督の名言を浴びながら、サッカーだけでなく人生の勉強をしています。そこで、彼らの人生勉強を収録したDVDを販売したらどうか? という案がでたのです。
ただし、ロッカールームの中では本気のぶつかり合いが行われており、通常は表に出すような場所ではありません。特に、選手の激しい言い合いの様子を収録した2018年のDVDは、選手に嫌がられるかな……と不安でした。しかし、選手たちに聞いたところ、『僕らは喧嘩しているわけではなく、成長していくために言い合っている。これくらい本気の気持ちでぶつかってるということを見てほしい』と了解してくれたんです。

そんな「オープン過ぎる」内容のDVDは、会社の経営層がマネジメントの参考にしたり、「不登校だった子供が学校に行き始めた」という感想が寄せられるなど、ファンに限らず多くの人々に影響を及ぼしています。ロッカールームの裏側までをも見せる誠実さが、ベルマーレというチームに対しての熱狂度を高め、新たなファンを育てているのです。

一方、ヤッホーが今年、ローソンとともに企画した「かえるの口止めキャンペーン」は、ファンたちと秘密を共有するユニークなプロモーションでした。先行販売期間中、ローソンと共同で開発したオリジナルクラフトビール「僕ビール、君ビール。満天クライマー」
の味を「非公開」として、SNSでも「ネタバレ禁止」の箝口令を敷きました。

原:昨年ヒットした映画『カメラを止めるな』を参考にしたこのキャンペーンでは、「感想はOK、しかし、具体的な味については秘密」というルールでプロモーションを展開。すると、ファンのみなさんがおもしろがってこのキャンペーンに参加し、メディアの方も盛り上げてくれました。 


「あえて隠す」という遊び心のあるキャンペーンによってファンとの「共犯関係」を生み出した「僕ビール、君ビール。」。まさに「100人に1人の熱烈な支持を獲得する」というニッチな目標を掲げる同社の強みを活かしたこのキャンペーンは、SNSを中心に盛り上がりを見せ、先行販売としても大成功を収めました。

広報が誰よりも情熱を持たなければ熱狂的なファンは生まれない

両社の取り組みに共通しているのが、自社の強みを分析しながら、自分たちにしかできない広報活動を長期的に継続していくこと。それによって熱狂的なファンを育て、彼らと濃密なコミュニケーションをとることに成功しています。

そんな長期的な視点に立つためには、社内からの理解が不可欠。しかし、企業の広報担当者の中にも、社内の無理解に直面した経験を持つ人は少なくないはず……。そんな質問がモデレータの南さんからぶつけられるも、両者は口を揃えて「社内の理解がとても高い」と、恵まれた環境を語ります。どうやら、成功する広報の秘密は社内全体の理解もカギになるようです。


ただし、遠藤さんは、かつては湘南ベルマーレにおいても、広報に対する理解不足があったことを振り返ります。

遠藤:昔は、取材対応の悪い選手も正直いましたので、よく言い合いをしていました。やはり、負けた試合の後、選手は喋りたくないですよね。しかし「インタビューに答えるまでが仕事です!」と説得し、時にはバスから選手を引きずり下ろして取材を受けてもらうこともありました。
消極的な取材対応を当たり前にしていたら、結果的に、クラブのためにも選手自身のためにもなりません。広報活動に対して積極的に巻き込んでいくことによって、選手たちも徐々に変わってきてくれました。

普段からジャージ姿でグラウンドにいるくらい、選手とのコミュニケーションを密にしている遠藤さんは、オフィスに戻っても、いろんなデスクに行き積極的に会話を交わすようにしている、とその工夫を語ります。


遠藤:何気ない話も積極的に行うことによって、チケットにはこんな課題がある、スポンサーはこんなことを考えているといった情報を共有し、広報活動に活かしています。
そもそも私は、押しかけるように湘南ベルマーレというチームで働かせてもらうようになった身分。まだ、チームへの恩返しが終わっていないんです。広報活動を通じて、チームがより愛されるようにしていかなければならないんです。

情熱を傾けてくれる熱狂的なファンは、企業やブランドにとって、マーケティング戦略上欠かすことができない存在。しかし、そんな彼らを生み出すためには、広報担当者自らが、熱狂的なファンと同じかそれ以上の情熱を傾けている姿が見えてきました。

会社やブランドを「自分ゴト化」していくために

パネルディスカッションの後には、今回、PR TIMESカレッジ初の試みであるワークショップが行われました。6〜8名程度の少人数に分かれた参加者たちは、パネルディスカッションの内容を踏まえてどんな学びを得たのか。そして、その学びをどのように日々の広報業務に生かしていくのかをシェアしていきます。




ある大手企業の広報担当者は、「熱狂的なファンづくりは短期的にできるものではなく、粘り強さが必要で、とにかく継続することが大事だと学んだ」と語る一方、ベンチャー企業の広報は「SNSアカウントをみんなで運営するという方法は、当社でも実践できるかもしれない」など、参加者それぞれが、自社の活動に反映できる部分を語っていました。

また、多くの参加者が「印象的だった」と口にしていたのが、3人が語った広報にかける「熱意」。「広報の本を読むよりも役に立った。こういう場に参加することによって、3人の熱意を直接肌で感じられます」「自社らしさを認識し、熱量をもって仕事をすることの大事さを学びました。きっと、イベントの企画だけでなく、リリースを書くといった日々の業務にも関わってくるはず」といった感想が続出していました。

このワークショップにも参加した遠藤さんは、参加者たちと直接対話しながら、感激した様子でこんな感想を口にします。

遠藤:業種はバラバラだけれども、みなさん、会社のこと、広報としてどうあるべきかを真剣に考えています。普段、違う業種の広報と接する機会はほとんどなかったのですが、会社・広報を通じて世の中の役に立つことを真剣に考えている人達に出会えて、鳥肌が立ちましたね。

一方、モデレーターを努めたハフポストの南さんは、PR TIMESカレッジ全体を振り返り、「自分ゴト化」というキーワードを発見したといいます。

南:パネルディスカッションでは、特に、ヤッホーの「立候補制」というイベント企画のスタイルが印象的でした。それは、遠藤さんがお話されていた「自分ゴト化」とも共通します。業務としてやらされるのではなく、名乗り出ることによって、同じ「やる」でも、自分ゴト化の具合は大きく異なる。きっと、いろいろな企業で、部分的にでも真似できるのではないでしょうか?

また、ワークショップの様子を見ていると、自分の会社を心の底から好きになりきることへの難しさ、そんな自分自身への気付きと、もどかしさのような感情を抱えている方が多かったのが印象的でした。ただ、家族でも恋人でも、100%好きになることがないように、「好き」という感情は「好き」と「嫌い」が渾然一体となったもの。私だって、ハフポストに対して「意識高すぎ!」と思うことはあります(笑)。
あまり好きではない部分も許していくことができれば、会社やブランドに対してもちょっとずつ自分ゴト化していき、距離を縮めて行くことができるのではないでしょうか。


                   ・・・

時代とともに移り変わる広報の手法に決して正解はありません。しかし、3名の登壇者たちの「情熱」は、どんな時代にも必要とされるもの。彼らの情熱に刺激を受けて会社に戻っていった150名の参加者たちの間から、新たな広報活動が生まれ、豊かな社会へと還元されていく。第5回目を迎えたPR TIMESカレッジは、そんな好循環のきっかけとなるひとつの場として、参加いただいた皆様の熱量によってかたちになりました。

今後も定期的に開催予定のPR TIMESカレッジ。今後の内容にも是非ご期待ください。
PR TIMESカレッジのコンテンツはこちらにまとめております。

取材・文:萩原雄太 撮影:近澤幸司