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Forbes JAPANの世界観の作り方とは―Forbes JAPAN 林 亜季氏 <AOYAMA MEDIA NIGHT vol.3イベントレポート>

  • 林 亜季(Forbes JAPAN Web編集部 編集長)

DATA:2020.01.17

メディアを取り巻く環境が日々目まぐるしく変化するこの時代、これからのメディアはどうあるべきなのか?メディア業界人が誰もが気になるトピックスをカジュアルに考えていこうというイベント「AOYAMA MEDIA NIGHT」が12月5日、主催するPR TIMESのオフィスで開催された。

3回目となる今回は「気になるメディアの舞台裏」をテーマに、過去の参加者からも「一度は話を聞いてみたい」とリクエストの多かった「Forbes JAPAN」からウェブ編集部編集長の林 亜季(はやし・あき)氏が登壇。

林氏は、2009年に朝日新聞社に入社。新規事業の部署である「メディアラボ」に務めたのち、経済部に異動し大企業の取材などに携わった。その後ハフポスト日本版に転職。タイアップ広告の企画から執筆まで手がけ、媒体の黒字化にも大きく貢献した。そして18年夏にForbes JAPANへ入社、ウェブ編集部副編集長兼ブランドボイススタジオ室長を経て、同年12月からウェブ編集部編集長を務めている。

アルコールを片手にリラックスした雰囲気の中、参加者からチャット形式で質問も受け付けながら、Forbes JAPANの世界観の作り方についてお聞きした。

Forbes JAPANはこうしてできている

「Forbes JAPANの世界観の作り方」と題した今回のイベントは、まず林氏からの「Forbes JAPANとは何か」というプレゼンテーションからスタートした。

林氏:ForbesそのものはUSで100年ほど続いているメディアです。日本より海外の方が知名度はありますが、国内でもビジネスリーダーをはじめベンチャーキャピタリストやアントレプレナー、エグゼクティブ、外資系の方々に読んでいただいています。女性のビジネスリーダー層にも支持されています。

Forbes JAPAN 林 亜季 氏

ボリューム感としては、媒体資料によると紙の発行が約8万部、ウェブ版は月間2500万PV、700万UUで、林氏曰く「まだまだ小規模」。だがこの規模のメディアをバックオフィス含め約50人の社員で回しているという。編集系メンバーの構成は紙の編集部が10名、ウェブ編集部が8名、イベントチーム3名、広告の企画制作を担うブランドボイススタジオ4名。社内では紙とウェブの連携はもちろん、ここに広告部門も入りながら、メンバーが横断的に様々な企画やプロジェクトに携わることは少なくない。

確固たるブランドを築くための4つの編集方針

Forbes JAPANには4つの編集方針がある。「POSITIVE&LOOK FORWARD」「COOL&INNOVATIVE」「GLOBAL&LOCAL」「BUSINESS&LIFESTYLE」だ。林氏曰く、これらの中でも特に特徴的なものがあるという。

林氏:まず「POSITIVE&LOOK FORWARD」はForbes JAPANの大きな特徴です。私たちのメディアは”やらないこと”がはっきりしていて、それはネガティブな記事、人を叩くような記事、ゴシップ、そして猥雑な話題を取り扱わないという姿勢です。これらの記事はウェブでは数字が取れるものかもしれませんが、こうしたトピックスよりも私たちは社会や経済の課題を解決しようとしている人の背中を押すような記事をお届けしたいと思っています。そしてForbes JAPANとしてもメディア業界へ「ポジティブジャーナリズム」の啓蒙を進めたいと考えています。

またForbes JAPANは起業家や成長している企業を追いかけるビジネス面の記事が多い印象があるかもしれませんが、「BUSINESS&LIFESTYLE」と掲げているように、ビジネスリーダー層にオンとオフで役立つ情報を届けたいという思いもあります。ですから、経済情報だけでなく海外セレブリティの話題やお酒、車、スーツといった話題も取り入れているんです。目指すのはビジネス誌とライフスタイル誌の良いところ取りです。

こうした独自の編集方針が浸透したメディアづくりは、実際に編集部が狙ったユーザーの獲得につながっている。紙では20〜40代、ウェブでは20〜30代のビジネスパーソンをメインに、高所得者層やディシジョンメーカーと言われる層にもアプローチしている。

オリジナルの視点を通した「企画主義」が唯一無二のメディアをつくる

Forbes JAPANのメディアづくりは一貫して「企画主義」だ。限られたメンバーで日々のニュースを追いかけることに限界があるのも事実だが、それ以上に紙・ウェブの編集部が独自の目線でテーマを決めた企画ものを得意としているという。

林氏:第1報のストレートニュースはマスメディアの取材力に敵わないことが多いです。一方、そのニュースに周辺情報を付け加え『1.5報』として出し、いかに第1報の記事よりも内容が充実させられるかを意識しています。他にも「とはもの」、分析や解説、予測記事、ストーリーテリングなど、Forbes JAPANが得意としている記事を重点的に出すようにしています。


中でもForbes JAPANが重視しているのが「億万長者ランキング」といったランキングやリスト記事だ。誌面の第一特集として大々的にページを使い、ウェブ版とも連動している。
特に話題になった企画の一つが、「世界を変える30歳未満の30人の日本人」を紹介した「30 UNDER 30」だ。この企画はウェブで先行して記事を出して読者の注目を引き、誌面では人選したアドバイザリーボードの詳しいインタビューを掲載。雑誌の販売促進にもつながったという。

また、直近では「WHO IS THE TRUE “INFLUENCER”?」と銘打ち、「真のインフルエンサーは誰か」を追った企画も好評だった。この企画では「日本のトップインフルエンサー50人」を発表。日本に「個の時代」が訪れ、個人の発信力が重視される現代において、今注目すべきインフルエンサーを取り上げた。

林氏:これらの企画は、Forbes JAPANを知ってもらえていない読者にアプローチする機会にもなりました。例えばインフルエンサー企画は、Forbes JAPANをインフルエンサーの方々に知っていただきたいという、まさにインフルエンサーマーケティングを実践するという目論見もあった企画でもありました。またランキング発表後にはリストに入った人々を招いたり、ゲストとして登壇していただいたりするイベントを開いて、取材先のコミュニティ化も図っています。

イベントにはスポンサー企業も募ることが多く、広告担当や営業との連携もマストになる。ウェブの広告関連の企画・制作はブランドボイススタジオという部署が担当している。コンテンツマーケティングプラットフォームとして高級時計のリブランディングサイトの製作を手掛けた事例もある。メディアの露出からイベントまで丸ごとプランニングする広告スタイルも多いという。

オリジナル記事のPVを飛躍的に伸ばした編集部のマインドセット

USからの翻訳転載の記事も多いが、ウェブ版も誌面と同様に独自の企画を前面に押すスタイルは変わらず、扱うトピックスもスタートアップからGAFA、セレブリティ、ライフスタイルまでそのジャンルは幅広い。そんなウェブ版の基本的なマインドセットを、編集長の林氏は次のように説明する。

林氏:時代を読む、傾向を読むこと、人々の無意識を意識することだけでなく、現象に名前をつけるということにも常に意識を向けています。こうしたマインドセットの他にも、直感的に「好きだ」「面白い」と思ったものが「なぜ自分の興味を引いたのか」ということをいつも考えるようにしています。
また人気記事の分析を欠かさず、その記事をまずは真似する、横展開を考えるところから始めるという姿勢も忘れません。私自身、企画主義のForbes JAPANでPVに向き合うことには最初抵抗がありました。しかし数字と向き合うことは、読者と向き合うことでもあると思います。実際に編集者がPVと向き合うことで、格段に編集力が上がりました。

これら以外にも、先述した「ポジティブジャーナリズム」や「連載・特集主義」といったマインドセットを常に描きながらメディアづくりに向き合っているという林氏。ちなみに翻訳記事メインだった以前から企画重視にシフトチェンジしたことで、ここ1年でオリジナル記事のPVが飛躍的に伸びたという。編集部にはいろいろな経歴を持ったメンバーが集まっていることから、「実験をしながらサイトパワーの増大を追求したい」と林氏は話した。他にもForbes JAPANのアワードを受賞した方々のコミュニティを運営し、Forbesファミリーとして関係性を築き、取材し続けたい等、今後の展望を語った。

イベントの終盤では質疑応答のコーナーも。

司会進行 市来 孝人 氏

まず「パソコンからの閲覧が比較的多いのはなぜ?」という質問に対しては、「仕事中に見ている人が多い」というのが林氏の分析だった。

林氏:朝の通勤時間やNewsPicksに取り上げてもらうことを意識して早い時間に記事を掲載していますが、アクセスが増えるのはお昼の時間帯です。オフィスで仕事をしながら見ている人が多いのではないでしょうか。Forbesならオフィスで見ていても怒られないのかもしれませんね(笑)。

また「企画会議はどうしていますか?」「誌面とウェブでのコミュニケーションはどうしているのですか?」という質問に対しても、次のように回答した。

林氏:紙の編集部もウェブ編集部も週に1回行っています。ウェブは1.5時間ほどでしょうか。紙の場合は、数ヶ月先のものまでかなり前倒しで動いていることも少なくありません。また、紙とウェブのコミュニケーションは編集長同士、平場で話しています(笑)。ウェブが先行し、後ほど誌面でも取り上げる企画の場合は、ウェブをきっかけに誌面があることを知って頂き、誌面の購入部数が増えるケースも多くあります。紙の企画をいつ、どのようにウェブで出すかは常に相談しています。

数え切れないほどのメディアが林立する現代において、Forbes JAPANのポジティブジャーナリズムを掲げ「やらないこと」を明確にする姿勢は、間違いなく参加者のヒントになったと思われる。「AOYAMA MEDIA NIGHT」ではこれからも、カジュアルにメディアの未来を考える場を提供していく。