PR TIMESのイベント
EVENTS 11
DATA:2019.03.20
PR TIMESでは、PR・コミュニケーション領域の最新動向を学び、参加者同士の交流ができるコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」を定期開催しており、去る2019年2月12日には初めての大阪開催となりました。
第4回目のテーマは「企業の成長を支えるパブリックリレーションズ」。当日は、日本フェンシング協会会長としてフェンシング界の改革を進め革新的な取り組みを発信する太田 雄貴氏、2億PVを突破し成長を続ける東洋経済オンラインより2018年12月に編集長に就任した武政 秀明氏、アトラクションやイベントをはじめ、新しい取り組みが常に注目を集める合同会社ユー・エス・ジェイ のマーケティング部External Relations ブランドPRディレクター 柳沢 洋子氏の3名に登壇いただき、成功の裏でどのような広報活動や、パブリック・リレーションズの思考があるのかを伺いました。
本稿はPR TIMESカレッジvol.4の再録です。
東洋経済オンラインの編集長を務めている武政秀明と申します。東洋経済オンラインは、『週刊東洋経済』や『会社四季報』などを発行する東洋経済新報社が運営する経済オンラインメディアです。週刊東洋経済は1895年に会社の創業とともに創刊した、現存する中では最古の週刊誌です。こうした流れをくむ東洋経済オンラインは2003年にスタートしました。
新聞や雑誌などの出版市場は1990年代半ばをピークに右肩下がりで衰退しています。一方、私たち東洋経済オンラインは成長を遂げることができています。2012年10月の段階では月間PVが500万程度で、国内で40~50番手のオンラインメディアに過ぎませんでした。それが今や、月間2億PV超を誇る国内3~5番手級の規模になっています。
紙媒体の販売部数が落ち込む一方で、私たちオンラインメディアが劇的に伸びた理由としては、スマートフォンやタブレットの爆発的な普及が挙げられるでしょう。しかし、そのような外部要因もありますが、それ以上に内部要因が私たちの成長を後押ししたと考えています。その内部要因とは、読者目線に徹したコンテンツ作りを続けたことです。
インターネットの無料ニュースの世界では、メディアが上から目線で物事を論じても興味を持つ読者は少ないです。この世界で成功するには、読者の欲する情報を彼らの目線に立って提供し続けることが求められます。
今回の講演のテーマは「メディアにスルーされない企業広報・PRの理想的なあり方」です。メディアにとっては今や読者目線に徹しないと成長できない時代ですから、企業広報やPRもメディアにスルーされないためには読者目線に立つ必要があるということを、これからお話しさせていただきます。
早々に本題に入りたいところですが、前置きとして、記事1本で100万PV稼ぐようなヒット作を生み出す方法について、少しお話させていただきたいと思います。企業広報・PR活動にも十分関係のある話です。
私としては、ヒットするコンテンツを作るには、「テーマ」「切り口」「内容」「タイミング」「タイトル」の5つの観点が重要だと考えています。この中で企業広報・PR部門の皆さんに特に意識していただきたいのは切り口です。
切り口と言われてもピンとこないかもしれないので、例え話で説明します。例えばペットボトルを真下から見たらただの丸に見えますが、横から間近に見たら四角い棒のようなものに見えます。少し離れて全体を俯瞰して見るから、ペットボトルの形に見えるのです。
このように「何をどう見るか」というその視点を、メディアの業界用語で切り口と言います。物だけでなく出来事もどこから見るかで見え方が変わります。何らかのひとつのテーマがあるとして、それはさまざまな角度で切れる、つまり見ることができるというわけです。
ということは、発想次第でひとつのテーマから幾通りものコンテンツを生み出せることになります。切り口さえ変えれば無限にコンテンツが生成できると言っても過言ではないのです。その逆に、切り口はそのままでテーマを変えるという発想もありです。
それでは、なぜ切り口がヒットコンテンツを生むのに必要なのでしょうか。私の経験からすれば、事実をそのまま報道してもネットでアクセスは伸びません。アクセスを稼げばいいのかというと語弊がありますが、せっかく記事を出すのだからアクセスを取らなければ読者に届かなかったことになりますし、世の中にインパクトも与えられません。余程のスクープであれば別ですが、事実を述べるだけの記事、いわゆるニュースでアクセスが大きく伸びることはほとんどありません。
アクセスを伸ばすためには、記事に厚みや深みを出して差別化する必要があります。差別化のためには、「事実」「構造」「経緯」「解釈」という4点を意識することが大切です。記事で伝える事実は、どんな構造になっているのか、どんな経緯から起きたことなのか。事実だけでは“点”ですが、構造まで考えていくと“線”になり、過去の歴史、経緯を踏まえると“面”になる。そこに書き手の解釈を加え、ストーリーとして仕立てることで“立体”が出来上がるというイメージです。立体的な情報こそ、読者から求められている情報だと思います。
実は以前、東洋経済オンラインで「楽天とエアアジアが資本提携する」というスクープ記事を出しました。その時は夜中の2時に出して新聞の寝込みを襲ったのですが、朝の9時くらいにはアクセスが激減していました。どのメディアも同じことを書いてきたからです。結局、先ほどのスクープ記事は約18万PVにしかなりませんでした。一方、「ある自動車会社の車種について立ち位置や売り方、デザイン、マーケティングなどに弱点があって売れていない」というコラム調の記事を書いたところ、累計で約600万PVも集まりました。
例えば、「業績好調だったある会社の業績が急失速した」という情報をストレートにニュース記事として出したら、1万PVにも届かないでしょう。でも、「過去にこんなことがあって急失速に至った」と経緯を述べ、「日本経済や業界全体がこうなっている」という構造について触れて、今回の事実にはどんな意味があるのかと解釈する。そのように「構造」「経緯」「解釈」を押さえて書いた記事の中には、200万~300万PVほどにアクセスが伸びたものもあります。
ですので、記事を単に掲載するだけでなくヒットさせたいのなら、事実そのものでは勝負できないのが現状です。事実そのものでは他社と差別化できませんから、厚みや深みを持たせて、独自の切り口で切ることが必要になるのです。
ここで本題に入りますが、企業広報・PR活動でメディアに取り上げられるためには、どうすればいいと思いますか?大変ありがたいことに、弊誌に取材を依頼してくださる企業は増えています。けれども、読者を置き去りにした提案をいただくことが少なくありません。
よくある提案は、「弊社の社長の志を世間に伝えてほしい」「弊社の事業の取り組みを貴誌でも取り上げてほしい」といったものです。しかし、こういう社長の自分語りや自社語りというのは、客観性、中立性、社会性に欠けていることが多いのです。「弊社の社長はこういう思いを持っています」「弊社はこういったことに取り組んでいます」と自分目線で物事を語っても、それは主観的な意見でしかありません。主観的な意見というのは、客観的事実とは違うことが往々にしてあります。客観的、中立的、社会的な目で物事を捉えて記事を書かないと、読者の共感は得られないのです。
責めるつもりはないのですが、「とにかくメディアに載ればいい」という考えをお持ちの方がたまにいます。電話をかけ、営業をして、アポを取って、編集者に会って、記事を書いてさえもらえれば、読者に読んでもらえると思っていそうな方に時折お会いします。しかし、読者に喜んでもらえるような企画を立てないと、当然のことですが読んでもらえるわけがありません。「メディアに記事を載せてバズらせたい」と言われることがあるのですが、「バズる」という言葉の意味を勘違いされているのではないかと思うことが結構あります。「バズる」というのは、読者の共感を呼ぶということです。自分語り、自社語りでは、記事をバズらせることはできません。
ここで大事なのが切り口です。記事をバズらせたいのであれば、社会的な意味がないといけません。ですので、自分や自社を語るのではなく、その代わりに社会について語りましょう。社会を語ることによって、間接的に自社を語るようにしてほしいのです。
自分を語らないで社会を語った例のひとつとして、東洋経済オンライン編集部がマンションマーケットという企業の協力を得て作成した「東京23区『マンション値上がり額』トップ500」という記事を紹介します。
マンションマーケットは、不動産の仲介価格のデータベースを作製している会社です。この記事では、マンションマーケットという企業自体を取り上げたわけではありません。ですが、同社が集めたデータを借りて、マンション値上がり額という切り口で記事を書きました。「マンションマーケットの調査によると、今のマンション価格はこういった傾向がある」といった内容の記事なのですが、語っているのは社会についてであって、会社そのものではありません。そうすることで、記事のテーマに公共性を持たせながら、企業の事業内容や取り組みなどに触れているのです。
要するに私が言いたいのは、「自分たちのニュースではなく社会の出来事についてのニュースを伝えることで、間接的に自社のPRをしましょう」ということです。そのためには、他者あるいは他社の力、社会的なムーブメントなどの力も借りたほうがいいと思います。
具体例を挙げますと、あるベンチャー企業の広報の方から提案を受け、自宅葬をテーマにした記事を出したことがあります。この企画案のすごいところは、某ベンチャーが表に出てこないところです。某ベンチャー自体が自宅葬に取り組んでいるからこそ、自宅葬をテーマとする企画案をご提案いただいたわけですが、取材先は某ベンチャーだけではなく別の会社や関係者も入っていたし、その提案を受けていたのです。この記事では、自社についてはさりげなく、自宅葬という社会的なムーブメントについて語ることに徹しています。それでいて、自社も携わっている自宅葬という事業を読者に知ってもらうことで、広い意味で自社のPRをしているわけです。
もうひとつの例として、「『写真を売る』副業で年収700万円の秘密」という記事を紹介します。この記事では、写真素材販売サイト「PIXTA」を運営するピクスタというベンチャー企業を間接的に取り上げています。
PIXTAのビジネスモデルは、素人のカメラマンが撮った写真を販売し、その収益を分配するというものです。この記事では、PIXTAを利用して実際に収益を上げている人たちに焦点を当て、PIXTAという会社を反対側から、つまりユーザーの側から紹介しました。PIXTAという会社に直接焦点を当てて、そのビジネスを紹介してもサイトの登録者は増えるかもしれません。しかし、PIXTAを使って実際に稼いでいる人がいることをユーザーの目線で伝える方が、読者のためになるのではないでしょうか。
そういうわけで、企業広報・PRがメディアにスルーされないようにするには、社会を語ることで自社を語るという発想を持つことが必要です。自社を前面に出しても取り上げられるというのは、はっきり申し上げてよほど有名な企業でないと難しいのです。メディアに記事を出してバズらせたいのであれば、他者や他社あるいは社会的なムーブメントの力を借りましょう。
最後に繰り返しになりますが、広報・PR活動にメディアを巻き込むためには、読者がどんな目線で物事を見ているのか、どんな情報を求めているのかを考えるようにしましょう。読者目線こそ、企業広報・PR活動でムーブメントを起こすために必要なことなんです。