行動者たちの対談
CROSS TALK 06
DATA:2020.05.13
広報・PRは情報発信にまつわる活動でありながら、その仕事のノウハウやナレッジに関する情報発信は意外にも多くない。そのため多くの広報・PRパーソンは、自分の思考量と行動量を頼りに、試行錯誤を繰り返しながら前進している。それはときに孤独な戦いでもある。
そんな広報・PRに関わるすべての人たちに向けて明日活きるヒントを届けるべく、PR TIMESが立ち上げたのが、広報PRの様々なナレッジを発信するWebメディア『PR TIMES MAGAZINE』である。
PR TIMESのMAGAZINEの編集部コアメンバーは4名。それぞれが異なるバックボーンを持って長らく広報・PR業界に関わってきた。彼女たちは、一人ひとり強い想いを抱きながら、『PR TIMES MAGAZINE』を通して広報・PRを新しいフェーズへ連れて行こうとしている。今回は編集部のメンバーにその想いと展望を伺った。
鈴木 碩子
株式会社ism 代表取締役
女性が得意とするWEBマーケティング・広報PR・バックオフィスの支援事業を展開する傍ら、U-NOTEで月間2000本以上のコンテンツ統括、BRIDGEで年間100社のスタートアップ取材経験などメディアパーソンとしての顔も持つ。
岡 陽香
#PRLT代表
2014年に医療ベンチャーに新卒入社し、実質ひとりで広報部門を立ち上げる。2016年より2年半レバレジーズ株式会社にて広報部を立ち上げ、社外広報を統括。現在は株式会社ismにてスタートアップのPRサポートや自社広報・新規事業開発に従事。 フリーランスとしても活動中。2016年より日本最大級のPRコミュニティ「#PRLT」を運営。
https://note.com/prlt名越 里美
株式会社PR TIMES 執行役員 社長室長
プレスリリース配信サービス「PR TIMES」の営業として2011年にPR TIMES入社。多くの企業の広報活動をサポート。現在は執行役員兼社長室長として組織運営や人事施策に従事。
大森 美野
株式会社PR TIMES カスタマーリレーションズ本部
2015年にPR TIMES入社。コミュニケーションプランニング本部でクリッピングレポートなど主にレポート作成を担当したのち、2019年7月よりカスタマーリレーションズ本部に異動。メディアユーザーを中心としたメディアコミュニケーションなどの業務に従事。
『PR TIMES MAGAZINE』のプロジェクトが立ち上がった経緯について教えてください
鈴木 碩子(以下 鈴木):PR TIMES MAGAZINEのプロジェクトは、私がBRIDGEでブロガーとして活動していた中で感じていた課題がきっかけで誕生しました。
当時、メディアで記事を書く中で、広報・PR担当者が信念を持ちながら悩み奮闘されている一方、記者たちもまた毎日大量に送られてくるプレスリリースと向き合い、葛藤する姿が見えてきたのです。
記者やライターは媒体の読者が求める有益な情報を吸い上げ、記事にして生活者に届けたいと思っています。しかし、広報・PR担当の方から、送られてくる内容は市場や業種、会社の規模、カルチャー、各社の方針によって多種多様で、1つ1つのプレスリリースが思いのこもったものだと理解しつつ、私自身もいちブロガーでは目を通しきれない状況になってしまいました。
そうした悔しい経験の中で見つけた答えが「広報・PRに関するナレッジを業界全体でもっとシェアできれば、情報発信に悩んでいる広報・PR担当者たちが、自社に合った方法を見つけ、伝えたい情報を生活者に届けられるのではないか」というものです。
広報・PRに関するノウハウやナレッジを当たり前にシェアし合える仕組みが出来れば、メディア関係者や広報・PRパーソンの課題を解決し、良い情報発信が溢れる世の中になると考えるようになりました。
その想いを、普段から頻繁に情報交換をさせていただいていたPR TIMESの代表の山口さんにお伝えしたところ、是非一緒に進めようということになり『PR TIMES MAGAZINE』のプロジェクトが立ち上がりました。
岡さんも鈴木さんからプロジェクトの主旨を聞いて、共感したとか。
岡 陽香(以下 岡):はい。私自身はそれまで事業会社の広報担当を一人で務めていたのですが、書籍やネットでは広報PRの最新情報や事例が入手しづらかったため、手探りで仕事を進めるしかなく、心細さや不安を感じることは少なくありませんでした。そして、この気持ちは、他の広報・PRの仲間も同じだと知ったんです。
PR・広報の仕事に関するナレッジシェアは、誰かがアクションしなければ解決しない問題です。私もコミュニティを立ち上げて動いてきましたが日常的に広報担当者に寄り添える場が欲しいなと感じていた頃に、ちょうど今回のプロジェクトの話を聞きました。
PR・広報業界で広く知られ、愛されているサービス『PR TIMES』と取り組めるなら、多くの人を巻き込みやすく、広報担当者が個々に抱える課題の発掘や解決に繋がりやすいだろうと。
さらに、PR TIMESから名越さん・大森さんのお二人が参加されて、編集部の皆さんが揃うわけですね。
鈴木:山口さんからPR TIMESの担当者はどんな人が良いかと聞かれた際に「スキルやポジションに関わらず、とにかく広報・PR業界を良くしたい思いと、PR TIMESのカルチャーを持つ人とチームを作りたい」とお伝えしました。
結果、名越さんと大森さんをご紹介いただいたんですが、まさに熱い想いを持ったお二人だなと感じています。
PR TIMES MAGAZINEの編集者の皆さんは、各々に異なるバックボーンを持っていることが特徴ですよね。
名越 里美(以下 名越):そうですね。みんな想いは違う。それでいてチームとして動けているのは、この編集部の強みだと思います。
鈴木:編集部メンバーは、プロジェクトに携わるにあたり、”自分だけ”の背景・理由・成し遂げたい想いを持っています。私はメディアでの活動経験を通して、世の中にまだ埋もれてしまっている情報を多くの人に届けたい。岡は自分が抱えていたような悩みを持つ広報・PRパーソンに寄り添いたい。名越さん、大森さんもまた違う動機を持っています。
名越:私は現在、社長室長を務めていますが、PR TIMESにはプレスリリース配信サービスの営業担当として入社しました。PR TIMES MAGAZINEの記事を編集していると、営業時代の景色をよく思い出します。当時は、年間200社近くの広報・PR担当者さんのプレスリリース配信をサポートしていました。よくオフィスに最後まで残ってプレスリリースの校正をしたり、質問にお答えする長文メールを作ったりとお客様の想いを伝えたい一心でしたね。
会社のステージや広報部の体制によっても多種多様に異なる質問に答えるのは大変でもありましたが、情報発信をサポートできることに強いやりがいを感じていました。
そんな頃を思い出しながら、MAGAZINEの記事を作っているのでやはり嬉しいですね。より広い方々に、もっと進化したノウハウやデータ、ナレッジをお届けできると思っています。
大森 美野(以下 大森):私は、「数年前の私が欲していたものを届ける」という想いが根底にあります。
元々アパレルのプレスとして働いていたのですが、少し特殊な職種なんですよね。だからこそ情報が欲しいのに得られない、何をしたらいいのかわからないといった状況で…。あの頃の私はこの『PR TIMES MAGAZINE』を心待ちにする一人だったと思います。
岡:この4名の違いは実際の業務にも反映されていて、それぞれの動機に紐づいた視点で記事をチェックしています。大森さんだったら、とことんユーザーの目線に立って本当に疑問が解消されるのかを見るし、鈴木なら業界にとって齟齬のない記事ができているか。
つまり、チェックする視点が多様であり、意思を持っている。だからこそ、記事の品質を引き上げる議論ができているのではと感じます。
鈴木:みんな本当に記事の質に妥協しないんですよ。けっこう大変だよね(笑)だから議論はいつも白熱してます。
それぞれに強いこだわりと意思を持っているのを感じます。それだけ想いを込めているからこそ葛藤もあったんじゃないでしょうか。
岡:PR TIMES MAGAZINEは、使えば使うほど“自分のもの”になっていく「教科書」のようなメディアを目指しています。自分たちで掲げたものながら、これを口にした責任の重さは常々感じています。
近年、広報に求められる役割はもちろん、広報活動に関わる人も多様化している中で、“教科書”というからには、一つの解を示すことになります。今の私たちなりの解は果たしてこれでいいのだろうかと迷うことはあります。
もちろん「全員がこうすべき」と思っていないので、妄信的・限定的な伝え方はしたくない。しかし、ある程度明確に示さないと、悩んでいる人の後押しにはならない。そのバランスを取るのは簡単ではないですね。
名越:ひとつひとつの記事で正解を出したいわけじゃなく、次のアクションに繋がる道を示したいんです。でも、その私たちが示す“道”は正しいのか?誰にとっての正しさなのか?という点には常に向き合っています。考え始めると、絶望するくらいどうしても文章がすすまなくなることもある。
それでも、多くの人にとっての一人ひとりに学びや発見のある教科書でありたいと思ってPR TIMES MAGAZINEをスタートしました。岡さんの言う通り、私たちが誰よりもこのコンセプトに、向き合っていかないといけないんです。
大森:教科書のようなメディアを目指す上で、一本一本の記事作りでは、“読んだ人が次にアクションを起こせるかどうか”という点を意識しました。
だから、伝え方の部分も模索しましたね。教科書のようでありつつも、読んだ人が「大変そうだな」「難しそうだな」と感じてしまうものは、なかなか次のアクションに繋がっていかない。読者が読み終えた時に「よし、頑張ろう」とポジティブにアクションに移せる表現とはどうあるべきかは、今でも追求しています。
PR TIMES MAGAZINEの記事のクオリティが高く維持されている秘訣に触れられた気がします。
名越:本当に伝えたいことは何か、私たち自身も一歩踏み込んで考えることにこだわり続けたいですね。それでいて1日1記事はお届けできるように妥協せず頑張っています(笑)
その葛藤の末に、リリースされた「PR TIMES MAGAZINE」ですが、反響はいかがでしょうか?
大森:プレスリリースの分析記事にピックアップさせていただいた企業の広報担当者の方へご報告させていただいた際には、みなさんとても好意的に受け止めてくださって、「PR TIMESさんの視点を聞けて嬉しかった、面白い」と仰っていただきました。改めてPR TIMESがお客様に愛されていたことを嬉しく思いましたね。
岡:早速、「うちの事例を取材してほしい」といったオファーも頂いています。でも実は最近目立っているのが「一緒に作りたい」って言ってくれる方。
「私もライティング一緒にしたい」「SNSでシェアするよ」とか、広報に関わる人たちが一緒になって盛り上げようと思ってくれていることが嬉しいですね。
すでに多くの方からの支援が集まっているようですが、今後はどのようなメディアに育てていきたいですか?
鈴木:私たちは、PR TIMES MAGAZINEを一方的な情報発信のメディアとは捉えていません。
ただ発信される記事を読む場所ではなく、広報・PRに関わる全員が意見を言える場所。もちろん反対意見もあっていい。つまり、メディアというより広報・PRパーソンの拠り所になるようなプラットフォームを目指しています。
そして、プロジェクトに興味を持ってくれた方々とそんな場所を一緒に作っていくことで、広報・PR業界を盛り上げていく環境を作っていきたい。
プロジェクトが走り出した段階の今は、私たちが“解”や“指針”らしいものを研究して形にしているけれど、ゆくゆくは“解”や“指針”が集まる場にできると思っています。それぞれに散らばったナレッジが整理されることで、広報・メディア・生活者の中で、有益な情報が適切に流通する構造を作れるはずです。
その結果、広報・PRの仕事をアップデートしたいと思っています。プレスリリースの作成やメディアリレーションといった作業ベースでなく、未来の広報・PRの在り方をみんなで創り上げていきたいんです。
私たちが携わる広報・PRという仕事の本質はどこにあるのかー。PR TIMES MAGAZINEを運営する過程で、多くの人たちと研ぎ澄ませていきたいと思います。
取材・編集:萩原 愛梨 撮影:高木 亜麗 (※本インタビューは2020年3月に実施された内容です)