行動者たちの対談
CROSS TALK 03
DATA:2018.12.28
デジタルメディアの隆盛によって、時代のスピードは加速し、社会の潮目は目まぐるしく変わっていく。なかでも、流行に敏感な女性たちの感性は日々移り変わり、1か月前の流行すら、すでに「古い」と感じられるほどだ。
昨年11月に新たにローンチしたメディア「MERY(メリー)」は、わずか1年足らずで月間1億PVという驚異的な数字を記録し、「女の子の毎日をかわいく。」というMERYの世界観をより磨き上げてきた。そこには、株式会社MERYのミッションに立ち返り、自分たちが目指すものやユーザーに届けたい価値について、改めて向き合った過程があったという。
今回は、そんなMERY編集部・竹口文佳(たけぐち あやか)さんをゲストに迎え、自分にとっての「おしゃれ、かわいい、しあわせ」に出会えるメディア「isuta(イスタ)」の編集者・鳥居愛(とりい めぐみ)と対談を行った。共に、変化の中心にいる10~20代前半の女性たちに向き合う編集者としての挑戦や、大事にしていること、メディア運営と環境づくりにかける想い、そしていまの時代の女性たちが求める情報の価値について語った。
竹口 文佳
株式会社MERY コンテンツ戦略室
多摩美術大学卒業後、2014年1月に株式会社ペロリにインターンとして入社。ライターを1年3ヶ月経験後、2015年4月に新卒入社。広告タイアップの編集担当を経て、2017年11月MERY再スタート時より記事の編成、MERY公式SNSの企画運営を担当。
鳥居 愛
株式会社マッシュメディア エディター/ チームマネージャー
高校卒業後、アメリカ・カリフォルニア州の大学に進学し、ロサンゼルスにある通信社に就職。ライター / フォトグラファーとして映画やドラマ、アワード関連の取材を経験したのち、日本に帰国し、株式会社PR TIMESの子会社にあたるマッシュメディアに入社。ニュースサイト「IRORIO」の立ち上げに参画し、2016年まで編集 / ライターを担当。2016年7月より「isuta」編集部に所属。編集メンバーを束ね、コンテンツ制作やメディア運営のディレクションを務める。
MERYはどのようなコンセプトで、普段どのようなことを大切に記事を届けられているんですか?
竹口: MERYは「女の子の毎日をかわいく。」をコンセプトにしたサービスで、ファッション、メイク・コスメ、ヘアスタイル、ライフスタイル、お出かけ、グルメなど、幅広い情報を取り扱っています。明日すぐに実践できるような情報を掲載し、どんな女の子が見ても前向きな気持ちになれる場所を目指しています。1つ1つの記事は、MERYの公認ライターが自分が本当に「好き」なものや「かわいい」と感じたものを、それぞれの視点で届けています。
記事の生まれるきっかけはさまざまで、その時ユーザーが知りたい情報は何か自分なりに考えて形にすることもありますし、小説から見つけた素敵なフレーズに着想を得る人もいれば、街で見かけたおしゃれな人からイメージを膨らませる人もいます。
竹口さんは、MERYの中でどのような役割なのでしょうか?
竹口:私自身は、毎日お届けしている記事のなかから、MERYとしてユーザーに特におすすめしたい「ピックアップ枠」の編成を担当しています。数多くの書き手が、それぞれの感性で記事を書き、それを私がピックアップ枠に掲載することでMERYの世界観をつくっています。
MERYが記事を通じて届けるのは、情報ではなく「体験」です。ユーザーが情報を受け取るだけではなく、その先の行動につながるきっかけを見つけられるサービスとして運営することを意識しています。どんなおしゃれをしたい時でも、どんな気分の時でも、MERYに来れば明日からかわいくなるためのきっかけを見つけて前向きになれる。そんな女の子にとって特別な存在を目指しています。
『情報ではなく「体験」を届ける』は、MERYを語るうえで、ひとつのキーワードなんですね。一方、isutaのコンセプトはいかがでしょうか?
鳥居:isutaの場合は、「おしゃれ、かわいい、しあわせ」というメディアコンセプトを掲げています。これらは、どれも人によって感じ方や意味が違いますよね。私たちは、それを無理やりひとつに定義するのではなく、読者がそれぞれに感じる「おしゃれ、かわいい、しあわせ」を提供できる場所にしていきたいと思っています。一般的な女の子が可愛いと感じるものはとても広いので、なるべく情報を限定しないよう、ファッション、フード、コスメ、グッズなど、幅広く情報を発信しています。
情報を限定せず、広く届けることを大事にされているんですね。
鳥居:isutaの読者は、好きなものはしっかりあるけど、それに良い意味で固執せず、新しいものや好きだと思うものは何でも取り入れていきたいという気持ちがあります。ですので、こちらから情報を狭めてしまうことが無いよう、幅広い情報をいち早く、isutaの視点で届けることに注力しています。マッシュメディアはPR TIMESの子会社ということもあり、プレスリリースは常にチェックしていますね。
お互いの媒体について、お二人はそれぞれどのような印象をお持ちですか?
鳥居:MERYに対して私がいちばん強く感じるのは、ユーザーの潜在的なニーズを満たす上手さです。何か特定の情報を探しにMERYにくるのではなく、何気なくMERYを見ていたら発見があった! という楽しさがあるんです。MERYの世界観が統一されているからこそ、「そういえばわたし、これが知りたかったんだ!」という情報との自然な出会いがある。読者が初めから求めていたわけではない情報との出会い、そのための場づくりという意味では、わたしたちも目標としているところです。
あとは、タイトルがとにかく可愛らしい! 「彼氏できると可愛くなる子、ちょっとずるい」とか、「守りたいって思わせるの」とか、読んでいる人にとって受け取りやすい、すっと入ってくるタイトルばかりですよね。私もウェブメディアに携わって長いのですが、MERYのようなタイトルのつけ方は、いままでなかったものだと感じています。
竹口さんは、isutaに対してどのような印象をお持ちでしたか?
竹口:isutaは、女性に向けたトレンドの情報がとても早いですよね。isutaを読めば、最近の情報はバッチリという頼もしさがあります。また、インスタネイティブな取り組みも多いですよね。ウェブメディアならではの読者とのコミュニケーションが印象的です。
鳥居:どこよりもプレスリリースが身近にある会社なので、情報のスピードはかなり意識している部分ですね。
同世代の女性向けメディアでも、注力部分が異なるのは面白いですね。いまの若い女性たちが求めている情報には、どのような特徴があるのでしょうか?
鳥居:いくつかあると思いますが、等身大の情報が求められているのは確かだと思います。憧れの対象よりも、すぐに自分のものにできる情報が好まれる傾向はありますね。“自分が”かわいくなれる、“自分が”おしゃれになれる、というのは女性にとって重要なポイントです。インスタでも、芸能人のアカウントだけでなく、自分と共通点のある一般ユーザーをフォローするのは身近に感じられるから。情報にも身近さが求められているんです。
竹口:かつてのように、特定のブランドを着ていれば間違いないという共通了解はなくなったように感じますね。その結果、自分に似合うもの、自分らしいもの、なりたい自分に合わせて身につけたいものを選択することが当たり前になっています。MERYでも、自分に似合うもの、ピッタリのものを探している子は多いように感じます。また、メディアとしては、動画コンテンツが盛んになったこともあり、スキマ時間でリッチな情報を求めるニーズが高まりつつあります。
メディアが変化することで、スキマ時間の使い方が変わり、求められる情報も変化しているんですね。
竹口:SNSの浸透以降、個人がWEB上で発信することが容易になり、いろいろな情報が手に入りやすくなりました。そのため情報だけではなく情報を発信する側の背景や想いなど、発信するものの世界観に繋がる部分に魅力を感じるユーザーも増えたと感じています。
MERYとしても言語化出来ない感性や想いが形になって体験として届けられている記事はとても大切にしています。
しかし、こういった価値観は時代と共に変化していくものなので、あまり固定概念に囚われすぎず今のユーザーに求められていることは何かを常に意識し、MERYとしての「いい記事」の定義を常にアップデートしていきたいと思います。
鳥居:メディアの変化という意味では、「メディアに参加したい」「自分の好きなことを知ってもらいたい」という女性が増えていることも感じますね。isutaに掲載するために、インスタなどの写真を使わせてほしいというお願いをすると、みんな喜んで提供してくれるんです。10年くらい前と比べると、いまの10代20代は自分が好きだと思うことをメディアで広めたいという気持ちがかなり強くなったんじゃないかな?
確かに、そう考えると大きく変わりましたね。
鳥居:今の若い女の子たちって、「自分が好きなもの/こと」をすごく大切にしていますよね。だから、お互いにカフェ巡りが好きだったら、例え初めて会う子であっても一緒にカフェに行くことにそんなに抵抗がない。同じ“好き”を共有できるからですよね。SNSでのコミュニケーションが日常的になってきたからこその変化だと感じます。
竹口:SNSでのコミュニケーションということで言うと、ちょうど新MERYローンチ1周年のときにユーザーへの感謝を込めてInstagramを利用した「My Favo MERY」というアニバーサリー企画を行いました。ストーリーズでMERYへのコメントを募集したのですが、「帰ってきてくれてありがとう」など、温かい声が本当に多かったです。
移り気の早い女性たちトレンドやマインドが日々変化していく中で、お二人はどのように情報をキャッチアップしているんですか?
鳥居:編集に携わっているメンバーが20代前半や、インターン生が多いので、今は非常に恵まれた環境です。普段の会話の中にも気付きがあります。彼女たちが当たり前だと思っていることは常に新鮮ですね。私もよく「え!知らないんですか!?」って言われています(笑)
竹口:キャッチアップという意味で大切にしているのは、公認ライターのみんなが書いてきてくれた記事のこだわりに、気が付ける自分であるということです。記事から教えられることは、今も昔も変わらず多いですね。あとは、インスタグラムやピンタレストのようなビジュアルの「見るインプット」と、Twitterや書籍、ブランドのオウンドメディアなど「読むインプット」の両輪を回していくことを大事にしています。
常にサービスのことを考えているので、一見、関係のないことがサービスを改善していくヒントに繋がる場合も多いです。
さきほどisutaでは、プレスリリースを積極的に活用するという話がありました。MERYの公認ライターの皆さんも、プレスリリースを使っているのでしょうか?
竹口:MERY内にある「MERY PRESS」というアカウントでは、プレス情報をもとにした記事を配信しています。明確な基準があるわけではありませんが、速さにおいても深さにおいても、ユーザーがまだ知らない情報は大切にしたいと考えています。記事にしたときの面白さという視点と、ビジュアルとしての魅力の両方を大切にしていますね。
なので、普段ユーザーが知ることのできない情報の裏側にあるストーリーも重視しています。企業側がプロダクトに込めた想いは、ユーザーが自分とのつながりを想像できる情報なので、それをMERYとして届けることで新しい「すき」を見つけられる体験を届けられると考えています。また、それはテキスト情報だけではなく写真などのビジュアルにおいても現れると思います
鳥居:ビジュアルは本当に大切ですよね。せっかくの素敵な商品・サービスであっても、プレスリリースや記事に使用する写真が魅力的ではないと内容にアクセスしてもらえません。最近は、「美味しいものを食べたい」という欲求だけでなく、「そこに行って可愛い写真を撮りたい」という欲求も女性たちのなかでは大きくなっているので、そういう気持ちに応えようとする企業の取り組みや、プレスリリースでの商材の魅せ方も増えてきたように感じています。
女性たちがいま求めている「いいビジュアル」とはどのようなものでしょうか?
鳥居:一言で言うと、想像力を掻き立てるような写真です。企業や媒体側から「このスポットでは、こんな写真が撮れるよ!」と発信しても、魅力を感じてもらえないこともあります。自分で可愛いものを見つけ出すことが得意ないまの女性には、情報を押しつけるのではなく、自分で想像したくなる「余白」を残すほうが実際の行動に繋がるのかもしれません。
機能やサービスの詳細情報よりも、読み手のイメージがどんどん広がっていく情報や素材が、プレスリリースにも求められているんですね。
これまで、おふたりが仕事で大切にされていることは何ですか?
鳥居:私の場合は、チームマネージャーという立場から、編集部の環境づくりを一番大切にしています。編集部のメンバーは、みんな発想が自由で柔軟なので、彼女たちにしか分からないものこそisutaでは大事にしていきたい。でも、新しい発想には初めての挑戦がつきものですよね。躊躇してしまう気持ちが生まれることも私自身よく分かるので、第一歩目は自分がいく、ということを大切にしています。メンバーに迷いが出たときは先にやる、だけど自由な発想が失われないように配慮しながら例を示す、というのが私なりのサポートです。
例えば、話題のお店やコスメ、イベントなどを編集部と一緒に取材する「isuta GIRL」の取り組みは、すべて未知の世界でした。立ち上げ時には、isuta編集部が選んだモデルである「isuta GIRL」のお披露目を行いましたが、私たちにとってイベントは初めてのことで、不安も大きかったですね。
これまでは記事でしか表現してこなかったisutaの世界観を、実際に体験してもらうための空間をどうつくっていったらいいのか、どうしたら伝わるのか本当に試行錯誤しました。社内のメンバーにもサポートしてもらいながら、漠然としたイメージを細部までこだわりながら形にするという作業をひたすら突き詰めた結果、来場してくれた女性たちから「この雰囲気が好き!」というような声をもらうことができました。
竹口:私の場合は、新たなMERYが立ち上がってからこの1年間、ずっと挑戦の連続でした。社内に向けて、MERYとしてのビジョンや、ユーザーに提供したい価値など、サービスの根本に関わる問いを投げかけ、そのために何をしなければならないのかを働きかけてきました。過去のMERYも知っている立場だからこそ、いまのMERYとも改めて向き合い、今のユーザーに愛されるサービスを目指しました。例えば、再スタートした頃の毎日更新される記事は20本程度でしたが現在は70〜100本ほどを更新していて、大きく変化した部分です。
鳥居:すごい数ですね!
竹口:MERYはあらゆる女の子がどんな時でも頼りにしたいサービスでありたい。例えば、朝と夜だと、テンションは全然違いますよね。アプリを開く度に、ユーザーが今知りたいことに出会える場所にするために必要な記事本数を考えました。
会社全体に関わる方針を変更するために、どのようなことを行ったんですか?
竹口:新たな体制でスタートしたMERYでは、「MERYとして実現したい世界」を見つけていくため、MERYを支えている一つひとつをしっかりと定義づけていく必要がありました。株式会社MERYのミッションである「愛をこめて、愛されるサービスをつくろう。」に照らし合わせながら、「ユーザーとは」「愛とは」というMERYなりの定義を見つけ、一緒に共有しました。
鳥居:それってどれくらいの頻度でやっているんですか?
竹口:定期的に時間を作っているわけではなく、その都度一緒に考えるようにしていますね。個々がやりたいことではなく、その先でMERYとして成し遂げたいことは何かを確認するようにしています。それによって、記事だけでなく、アプリのUI、UXの部分にまで、ユーザーへの思いが込められています。
女性向けのメディアは、今後どのように変化していくと思いますか?
竹口:いま、ユーザーは短いスキマ時間の中で自分にぴったり合う情報を求めていますし、感性に訴えるようなコンテンツが支持される傾向にあります。サービスの今後を考えるうえでは、数字では現れにくく言語化できないものにどれだけ目を向けられるかがより大切になってきますね。そのことから、アプリなどのプロダクトでは最先端の技術も駆使したり、SNSや動画を活用し情報や世界観を届けることに注力していくことで、顕在的なニーズも潜在的なニーズにも応えられるサービスになると考えています。
私自身、テキストや写真という記事形式にこだわる必要はないと思っています。MERYが目指すことが、「女の子の毎日をかわいく。」であるのなら、動画やインスタのストーリーズでもその世界観は伝えられる。その軸をしっかりと持っていれば、リアルかウェブかといった境目すらも気にする必要はなくなっていくと思います。
鳥居:トレンドが移り変わりやすい女性たちの「この先」を予想することはとても難しいのですが、isutaやMERYのユーザーは時代の変化の中心にいる女性たちです。何が起きても彼女たちのリアルな声を聞きながら、柔軟に対応できるメディアでいたいと思っています。
インスタのストーリーズで読者へのアンケートを実施すると、彼女たちの好きなモノ・コトや要望が思っている以上に集まります。この時代ならではの良さとして、SNSから寄せられる声も積極的に取り入れていきたいですね。
竹口:ユーザーのあらゆる生活シーンでより密接に関われるようなサービスでありたいですね!
取材・文:萩原雄太 撮影:高木亜麗