行動者たちの対談
CROSS TALK 07
DATA:2020.09.25
2020年4月30日、PRTIMESは「4 MEETS(フォーミーツ)プロジェクト - 出会うPR -」の立ち上げを発表した。
4 MEETS プロジェクトとは、コロナ禍の小規模事業者が無料でPR相談できる取り組みだ。
相談者をサポートするのは、同じく小規模事業者と言えるフリーランスのPRパーソンなどのPRのプロ達。
事業者とPRのプロが出会い、そこで生まれたPRメッセージがメディアに渡りユーザーへと伝わる、という4者のつながりを目指すことから名付けられたプロジェクトだ。
この発足について、運営メンバーは一様に、湧き上がる“使命感”を口にした。プロジェクト発足から約4ヶ月、使命感を持って立ち上がった先に今見えているものとは。運営に関わる3名に、これまでの全容と成果を語ってもらった。
大澤 允之
BOOSTAR INC.代表取締役
ベクトル・電通を経て、PR、広告双方へ知見を持つPRデザイナー/プロデューサーとして、BOOSTAR INC.を設立。
PRを起点としたコンサルティング、ブランディング、事業開発、プロデュースを多く手掛ける。
食べる・サウナ・銭湯が大好き。サウナ・スパプロフェッショナル取得。
澤田 知之
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医療相談員からキャリアをスタート。26歳の時、PRの魅力に出逢い、猛烈な転職活動の末、PR業界へ。その後、株式会社カーツメディアワークスで執行役員兼PR事業部部長を務める。妻の出産を機に、家族との時間を大切にすべく、フリーランスへ転身。個人ミッションは「PRの民主化」。
村上 伊周
株式会社PR TIMES PRプランナー
2018年株式会社PRTIMESへ入社。アカウントプランナーを経て、PRプランナーとして化粧品ブランドや自動車などのPR活動に携わる。
「日本酒PR」支援プログラムや、4 MEETS プロジェクトなど複数のプロジェクトにも参画し、幅広い事業者の情報発信を支援。
4 MEETS プロジェクトが発表されたのは、新型コロナウィルス拡大防止に伴う緊急事態宣言が出た約1ヶ月後の4月末でしたね。スピーディーな対応でしたが、どういった経緯だったのでしょうか。
村上 伊周(以下 村上):元々PRTIMESでは、新型コロナウィルスの感染拡大のニュースが広がる中で、緊急事態宣言発動前から「何かできることがないか」という声は上がっていたんです。
PR TIMESのサービスは、利用者である事業者の方やPRパーソンの存在があって成り立っています。コロナ禍は、そんな我々にとって大切な方々にも、影響を与えていました。
緊急事態宣言後は、その緊急度は一層高まったようで「売上が9割減」「もう立ち行かなくなってしまう」という声も聞くほどでした。いよいよサポートできる取り組みが必要になるぞと、代表の山口が発起人になり立ち上がったのが4 MEETS プロジェクトです。
澤田 知之(以下 澤田 ):山口さんからこのプロジェクトについてご連絡をいただいたころ、私も「何かしたい」という想いはあったものの、動けずにいたんです。
コロナの影響で、多くの企業がコミュニケーションコストを削減していました。まずは従業員や会社そのものを守るために、止むを得ない判断だったと思います。ただ、事実として、それは同様に小規模事業者であるフリーランスのPRパーソンの損失につながり、企業にとっても今だからこそPRの手段で解決できることがあるはずなのに、その手段を選べない状況。
苦しむ企業を手助けできる手段を持っているのに、何もできない。機会がない。無力感でいっぱいでした。その時に、山口さんから声をかけていただき、山口さんの日本に対する危機意識に触れた時に、私の中にある使命感が湧き上がってきたんです。
あぁ、これは仕事だとか報酬だとかそんなことは置いておいて、是非参画させていただこうと決めましたね。
大澤 允之(以下 大澤):私も山口さんに心を動かされた部分は大きいかもしれません。まるで3.11後のように世の中が沈んでしまっている中、山口さんは本気でこの社会に働きかけようとしていました。最初にいただいたメッセージひとつでも、その本気度は伝わりました。
同時に私自身のミッションとしても動かなくてはと思ったんです。「世の中にいいモノを広める。」キャリアの原点であるベクトル社のミッションですが、この言葉は私の想いそのものだし、ずっと原動力です。
このコロナ禍で広めるべき“いいモノ”が失われてしまうかもしれないのは非常に辛いことです。このPR業界で十数年培ってきたスキルや経験が、社会と自分自身のミッションのために生かせるのであれば、少しでも貢献したいと思いました。
村上:PR TIMESは“行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ”というミッションを掲げています。こんな時だからこそ、なんとかこの状況を乗り切ろうと頑張っている行動者の方は、必ずいらっしゃる。我々は、そんな行動者たちへのサポートをやり切る。そう考えて金銭面でのサポートも含めた今のサポート内容に決定して行きました。
発表された直後の反響は大きかったのではないでしょうか。発表後の反響を受けてどんなことを感じましたか?
村上:発表したプレスリリースでは、Facebookで1400件以上のいいね!がつき、実際の応募も1週間で事業者側・PRパーソン側それぞれ30件ほどありました。困っている小規模事業者の方も、それを助けたいと思うPRパーソンの方も、間違いなくいたと確認できましたね。
大澤:発表したことによって、私個人にも現状を訴えるようなメッセージもたくさん届きました。例えば、音楽業界に従事されている方から「イベント会場など興業に関わる事業者はもうクタクタだ」とかリアルな現状をシェアしていただいて、こうした実情があることを、改めて自分自身の基本の認識として持っていなければならないと実感しました。
この頃、山口さんが「自分たちは違う空気を吸っているんだ。ということを意識しなくてはいけない。」と言っていて、その言葉にハッとしました。
ある程度時間が経つと、世の中の文脈としては復興、復帰に向かっていこうします。徐々にポジティブなニュースが増えていく一方で、まだ解決できていない実情が、ある程度埋もれてしまう。でも、そこに耳を傾けて、気づいていかなくてはいけないんですよね。
澤田:自分たちが見ている世界が全てじゃないということですよね。特に今回は、東京だけでなく全国の小規模事業者の方の支援をする中で、私たちの見えている“東京”のPRの感覚で接することは、ともすると暴力にすらなってしまいます。
普段とはまた違う目線で配慮する必要があったようですね。だからこその苦労とやりがいがありそうです。
大澤:PR単体で考えてしまっては、このプロジェクトは成功できないんですよね。複雑な小規模事業者さんの状況を紐解いていくことが必要で……。これを成功させるには、今までの自分の全てが試される。そう感じました。
現状本当に困っている人が求めているのは、明日の運転資金だと思うんですよ。そんな、すがる気持ちでエントリーしてきてくれる人たちを、私たちが提供できるソリューションやアイデアで、少しでも前進させたいですし、さらに、彼らの背中を押して勇気を与えられたり、前向きさを取り戻すきっかけにしたい。これ自体も、一つの成果だと私自身は思っています。
具体的な支援の内容についても教えてもらえますか?
澤田:私が携わった、愛知県豊川市のラーメン店『弥太郎』さんの件は印象に残っています。創業1年目のラーメン店「弥太郎」さんと100年続く卸肉の名店「宮田精肉店」のコラボ通販のプレスリリースを出しました。
地域のお客様の為にラーメンを作っていた「弥太郎」さんが、コロナ対策として通販を始めることになったんです。リリースは7月でした。
「コロナで通販が隆盛である」という文脈は、すでに5月頃が世の中の話題としてピークで、7月当時は少し遅いと感じました。
そこで“身近な経済圏の中でいかに応援消費を促すか”を考えることにしました。そして、オーナーの竹本さんに「ラーメンを売るのではなく、あなた自身の想いを売りましょう。」と提案したんです。
広く伝えることよりも、弥太郎さんへの応援の気持ちが生まれてくるような距離感の人に向けて、しっかり思いを込めたメッセージを届ける、応援消費を生み出すコミュニケーションプランです。
その戦略は当たって、実際に身近な方々からの応援消費が発生し、しっかりと売り上げにも跳ね返ってきています。地方テレビにも取り上げていただきました。竹本さんにもお喜びいただき、背中を押すことができたと手応えを感じることができました。
素晴らしい事例ですね。でも、これまで積極的にPR活動をしていなかった企業さんと、プロジェクトを進めていくことは大変なこともありそうです。
澤田:そうですね。初動でいかに寄り添って考えられるかが大切だったし、難しい点でもありました。
弥太郎さんは地域の経済圏で成り立っていたラーメン屋さんです。お客様である地域の方々の為に、いかに美味しいラーメンを作り続けるかというところに集中していれば、マーケティングの施策などは考える必要もありませんでした。
それが、所謂地域の経済圏がシステムエラーを起こしてしまった。これまでの経済圏外の方とコミュニケーションをとっていかなくてはいけない。それで通販をするに至ったんですが、未知なことに取り組まないといけない上に、緊急度も高い状況です。そんな中で「PRって何だか分からない。だけど助けて欲しい。」と、エントリーくださいました。
ここで、最初にパブリックリレーションやメディアリレーションの狭義の話をしてしまっては、弥太郎さんと信頼関係を築くことはできなかったでしょう。
PRの話うんぬんの前に、弥太郎さんの抱えている「いま売上が立っていないところに、どう売上を作っていくのか」という課題にとことん寄り添おうと、常にこの課題を論点に対話をしましたが、そこの難しさは凄く感じましたね。
村上:小規模事業者の方々を対象としているということもあって、そもそも「PRといっても何をしていいかわからないです」というようなお声は弥太郎さん以外からも多くいただきました。その状況で、短期間サポートをしただけでは解決できることには限界があると思い至った結果、6月にリリースしたのが長期のサポートプランでした。
サービスも拡張し、一層たくさんの方に価値を届けられそうです。皆さんの他にも、たくさんのPRのプロ達がそれに携わっていらっしゃるということで心強いですね。
村上:そうですね。本当に各方面で活躍しているPRのプロ達がこのプロジェクトに参加してくれています。フリーランスのPRパーソンから、普段PR会社に所属されていてボランティアで参加くださっている方。事業会社のPR担当者の方もいらっしゃって。想定した以上に、幅広い方に参加いただけていますね。
ご参加くださるPRパーソンの方に対しては報酬のお支払いはもちろんですが、「やっぱりPRってすごい」と実感してもらえるような気持ちの面での報酬も提供できる機会になればと思っています。
参加するPRのプロ達が集まり、短期サポートでの成果も出始め、長期サポートプランもリリースしました。今後の展開は、どのように考えてらっしゃいますか。
村上:長期サポートもスタートしたばかりで、まだ事例も少ない状態です。まずは、エントリーのあった一つひとつの相談に対して、事業者の方、PRパーソンの方、それぞれが満足のいく結果を出せるように運営として動いていくということが一つあります。
それと同時に、もっとPRのサポートを必要とする人にしっかりこのプロジェクトの存在を知ってもらい、価値を届けていかないといけないと思っています。PRの手段を使うことで解決できる課題を持った事業者の方はたくさんいらっしゃる中で、まだまだ届けるべき人に届けられていないと感じています。一人でも多くの方に、機会を提供できるように努めていきたいと思っています。
最後に、このプロジェクトを通して、ご自身が今後成し遂げていきたいことを聞かせてください。
澤田:私は「PRの民主化」を自身のミッションの一つとしているんですが、この4MEETSプロジェクトの取り組みは、そのミッションの達成に近づけるんじゃないかと考えています。
事業者とPRのプロ達が出会う機会を提供することを通じて「PRは、企業を発展させ、より良い社会を作るために機能させる活動であり、考え方なんだ」と、もっと社会に浸透させていけるようなきっかけにできたらいいですね。
大澤:私は、今回のプロジェクトで、事業者に一つの経営手法としてPRという武器を与えて上げられたのはないかと考えています。コロナ禍でなくても、企業が社会活動をする中で、ストーリーや文脈が重要視される時代です。「どういう文脈で社会とつなるべきか」というまさしくPR的な発想が、今の時代の経営戦略には求められるのです。
さらに、コロナ禍で不安定な社会情勢という条件の中で、それを設計していくのはとても難易度の高いことです。でも、だからこそ価値ある経験です。この経験をプロジェクト外の自分の活動にも還元していきたいです。
執筆・編集:萩原 愛梨 撮影:川島 彩水 ※本取材はリモートで実施し、別日に短時間の写真撮影を実施しております。